第26話
いわゆる夜の店と呼ばれる店舗は日暮れとともに開かれるが、夜明けとともに閉められるわけではない。接客をともなう飲食店は法律により午前〇時には閉店する決まりがあり、特例地域においても午前1時までと定められていた。そのため従業員が店を出る午前2時頃ともなると歓楽街から人の気配はなくなる。深夜営業が許されている一般の飲食店やカラオケ店が建ち並ぶ表通りよりもひっそりと静まり返るものだった。
街に人の姿がなくなり、夜が明けるにもまだ早い午前3時過ぎ、路上の端には一台の車が
車は車道と歩道の間にまたがり、右側に並ぶ店舗の前に停車している。近隣の店もすでに閉店しているので、迷惑と思う者は誰もいなかった。運転席の
その歓楽街では夏になると店の内外で噂になる怪談がある。深夜にどこからともなく黒い車がやってきては、店の女をさらって殺して回る。しかも車に人は乗っておらず、殺された女たちが幽霊となって仲間を求めて車で
停車している車はその怪談に登場するものとよく似ている。ただし付近にはもう
青タトゥーはシートに深く背を預けて頭を車の天井に向けている。右手には電子タバコを持っており、ときおり口に付けては白い息を吐いていた。左手は
助手席の足下に濃い
青タトゥーは電子タバコをドアポケットにしまうと、代わりにスマートフォンを取り出して電話機能を立ち上げる。電話番号の入力画面を表示させると、真横にある改装中の店舗の貼り紙に記載されている番号を入力した。通話が繋がると相手に向かって
改装中の店舗のドアが開いて、一人の男が顔を出した。
ドアの隙間から漏れた照明の光が青タトゥーの車まで一直線に伸びている。現れたのはオールバックの髪型に柄物のシャツとジーンズを身に着けた30歳くらいの男だった。休業中のためか夜の店の男にしてはラフな服装をしている。黒服と呼ぶには
男は
青タトゥーは運転席の窓から男に向かって、その
青タトゥーは続けて四本に火を着けて次々と店に向かって投げつける。その内の二本は開いたドアの隙間から店内に入り、別の二本は近くに積まれた廃品の山に燃え移った。暗い歓楽街は
看板には飾り文字で『
青タトゥーは店が炎に包まれるのを見届けると、煙が入り込む前に窓を上げる。そしてシフトレバーを手前に引いて、車をゆっくりと発進させた。騒ぎに気付いて近くの店舗から人が顔を出したが、車は気にすることなくその横を
歩道では車の運手席にスマートフォンのカメラを向けている者がいる。青タトゥーはドアポケットから電子タバコを取り出しつつ、返事代わりに中指を立てて
十六
【8月20日 午後5時51分
黒い車から逃れて入った次の高速道路は、やけに
「これは一体……ここはどこだ? 僕はこんな道知らないよ」
助手席から龍崎の
「ここは京奈和自動車道です。
千晶がうろ覚えの知識で回答する。
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