第25話
千晶はエンジン音に
「西名阪道、
「そうですね。もう少し先で道が分かれているはずです」
この先には高速道路の分岐点となる郡山下ツ道ジャンクションがある。道なりに進めばそのまま西名阪自動車道が続き、左手の
「よし、じゃあそこで黒い車と離れられるねぇ。千晶さんは分かれ道のほうへ行くんだ」
「それは……たぶん、気づかれると思います」
千晶は龍崎の提案を
「大丈夫。僕に考えがあるんだ。運転させてくれる?」
「運転って……この状況でどうやって龍崎さんと席を代わるんですか?」
「ううん、僕は運転できないよ。そうじゃなくて、僕が指示を出すから千晶さんはその通りに運転してほしいんだ」
「そんなことは……」
「でもタイミングが凄く重要になるから、言われてすぐに動かないといけない。できる?」
龍崎の説明に千晶は
「千晶さん、僕を信じて。きっとうまくいくよ」
「……分かりました。ではお任せします。指示してください」
千晶はうなずいて肩の力を抜く。龍崎がそこまで言うのなら、きっと自信があるのだろう。普通ならありえないことだが、今はその普通ではないことが求められている。相手の
「じゃあ少し速度を落として、黒い車をもっと近づけるんだ」
視線の遠くに高速道路の分岐点が見えた時、龍崎の言う通りに千晶はアクセルペダルを
「ウィンカーを出さずに右の車線へ移るよ。いいかい?」
「右車線に? なぜ……」
「いくよぉ……さん、はい!」
龍崎の声に合わせて千晶はハンドルを切って右車線へ移る。考えている暇はない。
「はい! 急ブレーキ!」
即座に聞こえた声を受けて、反射的にハンドルを強く握ってアクセルから足を放しブレーキをぐぐっと押し込んだ。急激な減速で車体が前のめりになり、上体がシートから浮き上がる。左腕を目一杯に伸ばして龍崎の上半身を押さえた。
左車線を走る黒い車があっと言う間に走り抜ける。時速100キロで走行する車は1秒間で約28メートル進む。相手の目には
「よし、もっと踏んで。そのまま一気に左へ行くんだ」
さらに千晶はハンドルを左に切って、車線を超えて側道に入った。
つまり分岐点の手前で車を右車線に移すことで、黒い車に対して分かれ道へは入らない意思を示す。その後すぐに急ブレーキを踏んで黒い車を無理矢理追い抜かせる。それから左車線へ移動し、さらに側道へ入ってこの車だけを分かれ道のほうへと進入させる。それが龍崎の作戦だった。
「うまくいったねぇ、千晶さん」
「凄い……黒い車がいなくなった」
千晶は興奮した
「びっくりしました。こんな方法があるなんて。龍崎さんのお陰です」
「違うよぉ、千晶さんが素直に言うことを聞いてくれたお陰だよ、ありがとうね」
龍崎は
「龍崎さん……頭をどうかされましたか?」
「ああ、今、ちょっとぶつけちゃったねぇ」
「ヘッドレストにですか? 平気ですか? 痛いですか?」
「なんともないよぉ。嫌だねぇ年寄りは、無理が
龍崎はそう言いつつも深く
道は大きくカーブを描いて、南向きの京奈和自動車道へ進入する。一般道へ下りる選択肢もあったが、道を選ぶ数秒間では、できるだけ遠くへ離れたい気持ちが優先した。アクセルを踏む足を浮かせて速度を緩める。脱力感に襲われたが運転を止めるわけにはいかない。乾燥した目を片方ずつ強く閉じて気を
十五
【■月■日 ■時■分 ■■■■■】
夜の店が建ち並ぶ
店舗の看板は大半が消灯し、入口の明かりもわずかにぽつりぽつりと
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