第17話
「ホラーかぁ。ホラーなら私は、呪いや
「ほら、やっぱり君は感受性が強い。つまり派手な怪物やギミックが売りの海外ホラーよりも、ひっそりと暗闇を
「そうかも。だからあんまり観ないんだけどね」
「その怖さが何によるものか、ミライさんは分かる?」
「何によるもの? ……えー、なんだろ? 分かんないなぁ」
「考えてみて」
根岡は目を輝かせて問いかける。千晶は少しうんざりしつつも、わざとらしく胸の前で腕を組んで悩み顔を見せた。質問の
「うーん、やっぱり呪いや祟りって見えないから嫌なんじゃない? ゾンビや怪物も怖いけど、まだ逃げようとか戦おうとか思いそう。見えないとどうしようもないし、逃げられないから怖いんだと思う」
「うん、
「そ、そう? ……ネオはどう思うの?」
「俺はホラー映画の
根岡は待ってましたとばかりに言葉を発する。千晶は
「人が本当に怖いと感じるのは、いつ自分の身に起きても不思議ではないと思うことだ。ゾンビや怪物を出したところで、もしかすると自分も襲われるかもと思う奴はいない。だから
「えー、私はそれでも充分怖いんだけど」
「ジャパニーズホラーの呪いや祟りだってそうだ。実際にはありえない。ただ見えないから嘘かどうか分からないことと、信仰心や道徳心に触れることと、景色や地名や登場人物が日本のものということで、現実と錯覚して恐怖を感じてしまうだけだ。しかし人間は見えないものを信じ切れない。映像としても映しきれない。だから物足りないものになるんだ」
「なるほどぉ、難しいんだね」
「要はゾンビにしても呪いにしても、
「それってどういう映画なの?」
「つまり、現実の殺人事件を扱ったホラー映画だよ」
根岡は金髪の下で
「現実に存在する殺人鬼が
「そんなの、もう考えただけで怖いんだけど……そういう映画って今までになかったの?」
「海外ではあるけど、日本にはない。あっても関係各所に
パンッと乾いた高音が店内に響き、千晶は思わず肩をすくめる。首を伸ばして辺りを
「なんか私、もう今夜は眠れないかも。ネオのせいだからね」
「もう一つ、怖い話をしてもいいかい?」
「何?」
「映画の舞台はここ大阪、実際にここで起きた連続殺人事件を扱うつもりなんだ」
いつの間にか顔を寄せていた根岡が、耳元で
「……大阪にそんな怖い人がいたの?」
「いたんだよ。知らないかな? 『ナニワのバラシ屋』って呼ばれていたシリアルキラー。被害者を次々とバラバラにして捨てていたんだ」
「そんなの聞いたことないって……あれ?」
千晶はそう返してから疑問の声を上げる。
「もしかして、『呪いの黒いラブワゴン』のこと? 前にキラちゃんがそんな怖い話をしていたけど」
「ああ、黒いワゴン車が女をさらって殺すとかいう話か。俺も最近ネットで見たな。でもそれは確か幽霊が襲ってくるとかいう怪談だろ? 俺の話は実際にあった事件だから」
「あ、そっか。じゃあ違う話?」
「そう……いや、もしかすると事件をきっかけに生まれた怪談か? ふん、それならもっと面白くなりそうだ」
根岡はやや
「『ナニワのバラシ屋』はずっと昔に起きた事件だ。40年ほど前に
「ナニワのバラシ屋っていうのはネオがそう呼んでいるの?」
「違うよ。当時のマスコミがそう名付けたんだ。死体の切り口や処理が鮮やかだから手慣れた者の犯行じゃないかと言われていた。実際は印刷所の
「えー、痛い痛い。怖いよそれ」
「怖いのは動機だよ。普段から社員として真面目に勤務していたのに、なぜそんな犯行に及んだのか。警察の取り調べで犯人は、正しい社会を作るために殺したと言ったんだよ」
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