第3話能力はどう使う?
目覚ましが鳴る、当たり前のことだセットした時間を告げる。だが今の俺にとっては当たり前では無くなってしまった。
7︰33︰38
目覚ましは鳴り続ける、布団の中で親指を引っ張ると関節が鳴り、全てが止まる。
「夢じゃないか……起きよう……って駄目じゃん!」
そう一度指をポキッと鳴らすとインターバルがあるんだった……迂闊だった、本体からあまり離れられないんだった。どうしよう? この能力は無駄だよなぁ、本体から離れられないってのが致命的で、俺が何かしらアクションを起こして動き出すと反動? みたいな事が起きる、実際に自分にビンタして漏らしたしな……普通に使えない。時が止まっている……つまり世界が止まっている、なのに動けるのは幽体離脱中の俺、これが本体だったらなぁ……色々悪い事だって出来るのに、だってそうだろう? 金がある所なら何処でもいい、指をポキッと鳴らして時間を止めて、現金を戴いて離れてからまた鳴らせばいい……まさか……
「だから幽体だけなのかよ!!」
セルフツッコミを入れる悪用させない、いや……やろうと思えば出来るはずだ、本体を持ち運ぶっていう面倒くさい事この上ない……もういいや! もう親指は鳴るだろう感触もあるな。
「ポキッとな」
目覚ましが鳴り響く……意識は一瞬で本体に戻り覚醒すると、目覚まし時計を止めて布団から抜け出す。軽く朝食をとると投函された地方新聞を広げると、ざっと記事に目を通しながらコーヒーを飲む。良いニュース、悪いニュースが並ぶのを眺めていると出勤の時間を腕時計が伝える。
「行くか!」
顔をもう一度洗い、身仕度を済ませアパートを出ると街が動いていた。当たり前のことだが感動しながら職場迄歩いて向かう、道すがら通勤する人達、通学する学生達を眺めながら歩く。
「これが当たり前なんだ……」
独り言を呟くと歩いて約15分程で職場に着いた、この街に唯一存在するカラオケボックスだ。週末は鬼のように学生が、夜には酔っ払いがやって来るが今日は平日だ、鞄から店のセキュリティーキーを取り出し、店内に入ると更に鍵を取り出し事務所に入りパソコンを起ち上げ、静脈認証で出勤を記録する。
「さてと、いっちょやりますかね!」
ボックスは全部で15室ある、全ての施錠を開けて機器の電源を入れると、店の外に向かい幟を立てる。後は受付レジカウンターに入金しつつ調理場の機器をつける事で開店の準備が出来る。外には平日の常連さんが駐車場で開店を待っていた……元気なお客様達で俺も元気を貰える! 開店の5分前だが俺の顔を見た常連さんが笑顔で車を降りてくる。玄関を開けて迎え入れる。
「いらっしゃいませ! まだ御部屋に……」
「わかってるって! ニイチャン!」
「じゃあソファーにどうぞ、今日は何号室を希望で?」
「いつもの部屋でオーダーは、あっつい緑茶な!」
この店には朝カラというサービスがある、12時までだが料金も安いがワンオーダー制だ。地元の、のど自慢達が……主に老人達が練習する利用者だ。そんな常連の注文をササッとレジに打ち込むと、カゴにレシートとマイクを入れて準備して置くと店内に音楽が流れ始める。
「はい! 開店です! お部屋へどうぞ!」
「おう! 歌うよ今日も!」
「緑茶は後で持っていきますね!」
「落ち着いてからでいいよニイチャン! ホレ」
常連さんが顔を向けると駐車場にどんどん車が入ってくる。
「いつもすみません……」
「良いって事さ!」
「それではごゆっくりどうぞ!」
開店してから朝カラだけで8部屋埋まってしまった、ワンオーダー制の飲み物を作っていると今更気づく。
「ヤッベ! 予約ノートの確認と日報見てねぇ!」
待てよ? ショウモナイことだが親指を鳴らすと時間を止めた、離脱すると予約ノートと日報を確認する。フムフム……午後に団体の予約と芋焼酎が切れていると……
何で時間を止めたかって? 今の内に予約を確認して置かないと、予約客の部屋の確保に落ち度が出ると厄介だからさ……初めてのワンオペの時にやらかしてるからね俺、うん……別にドリンク終わってからでも良いんですけどね、使って見たかっただけ何です……時間が止まっているうちに、グラスとドリンクを冷蔵庫から出して作業を効率良く出来るよう準備すると、ポキッと鳴らして時間を動かす。
うん……下準備に……下準備だけには使えるねこの能力は…………ヤッパいらねぇ!! 少しだけ取り乱したが、ドリンクを作り各部屋へと届けるのを終えると、今日は随分と客が来ないな……まぁ平日だし予約も午後に団体が1件だしな、荷物の受け入れも終わってるから。
「仕込みでもやるか!」
そのまま時間は進んで……朝カラのお客様が帰る時間になり、今はフリータイムのお客様と予約の団体のオーダーで厨房は大騒ぎだった。
「くっそ! 20名様で一気にオーダーすんなよ!」
頑張ってオーダーをこなしていると、新しくお客様がやってくる、今は火を使って焼うどんに油で揚げ物もしてるってのに受付もしなきゃ……忙しい時はいつもこうだ。無駄だろうが止めてみるか? 早速右手の親指を……鳴らない!? 客が呼んでいる受付を待っている、畜生! じゃあどれでも良いんだろ! 人差し指をポキッと鳴らして時間を止めた……
「よっしゃ少し落ち着いて考えようか」
そう思った瞬間だった。
「すみません〜店員さん!」
!?
「はいッ! ただいま伺います!」
おかしい……厨房の鍋や火は止まっている洗い場の水も止まっているのに!? 混乱したが……とにかくお客様の受付を済ませると厨房に戻り確認すると……確かに止まっている。何だ? 外に出ると音漏れが聴こえてくる、厨房の時間だけが止まった? ってことは? ヤバい今度は動かさなきゃ……ってどの指だった!? 確か……人差し指だ! と思うけど鳴るか? 引っ張るとポキッと音を立てて厨房の時間が動き出すと、混乱しつつ料理を仕上げて届けると冷たい水を飲んで考える。
この能力はまだ何かあるのか?
指ポキで世界が変わる!! 肉まん @uzam800
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