4月15日(金)11:00

 今日は遠足だ。え? 高校なのに遠足なんか行くのかって?




 当然行きますよ。




 学年ごとに行き先は違うけれど、クラス交流という名目で毎年行われている。といっても、小学生がやるような近所でのお見知り遠足と違ってめっちゃ長距離を歩かされるので、むしろこれはハードな行事だ。はあ。きつい、しんどい、帰りたい……。


 1時間40分ほど歩き続けたすえに、ようやく目的のなんたらビーチへとたどりつく。まあ、ビーチと言っても別に、ただ単に砂浜が広がっているだけというわけではなく、普通に整備されている公園だ。海辺には歩きやすいようにしっかりとした道があるし、芝生も広範囲に植えられている。景色もいいし、誰かと遊びに来るには最高のスポットだ。


 ただ、積極的に徒歩で来たい場所ではない。公園で遊ぶ前にすでに疲れ果てた。しかし、これはクラス交流だ。当然のごとくレクリエーションが用意されている。え、待って。もうやるの? 休憩は?


 何をするかと思えば、クラス対抗大縄跳び大会が始まるらしい。さっそくクラスごとに大縄が配られる。まあこれは定番といえば定番の種目だけど、散々歩かされたあとにやらせるとかひどすぎやしないだろうか。いや、でも、走り回るような競技と比べれば大縄跳びは楽な方か……?




 担任の先生が縄の片方を持ち、もう一人の回し手を募っている。跳びやすさは回し手の力量に大きく左右されるので、回す人の責任は重大だ。しかも一番の重労働。体力があって両腕で大きく縄を回し続けられる人が向いているだろうが、果たして進んでやりたがる人がいるのだろうか。


 しばらくはクラスメイト同士で様子をうかがうような空気が漂っていた。多分、何が何でも絶対に縄を回すのだけは嫌だ、とまで思っている人はいないと思う。でも、誰かがやってくれるならその方がいい。頼む誰か名乗り出てくれ。とまあそんな空気だ。


 こういうときはだいたい、最終的には責任感の強い学級委員などが名乗り出る傾向にあるように思う。実際、先週委員長になった男子が周りを見渡しながら今にも手を上げそうな雰囲気であった。しかし、ここで予想外の人物が立ち上がる。四月一日くんだ。彼は堂々とした足取りで先生の元へと向かうと、先生が持っているのと反対側の縄を受け取った。そして、まるでアップでもするかのように肩をぐるぐると回しだし、並々ならぬ気合を見せる。これはつまり、本気で勝ちたいということか。本気で勝ちたいということだな。


 クラスメイトたちもそんな四月一日くんの様子に感化されたか、各々が屈伸をしたり飛び跳ねたりとアップを始める。四月一日くんは変な人として敬遠されがちではあるけれど、それはそれ。勝ちたいという気持ちは仲間の間で不思議と伝染するものだ。というか、四月一日くん相手でもこうなるということは、このクラス案外ノリがいいみたいだな。かくいう私もその一人だが。




 制限時間は3分。連続で跳んだ回数をそのクラスの記録とする。そんなルールの下に行われた大縄跳び大会で、3年5組の心は一つとなった。そして謎の連帯感を発揮した私たちは1度も引っかかることなく241回という大記録を叩き出し、圧倒的大差で優勝をもぎ取ったのだった。






 隣の席の四月一日くんはどうやらなかなかの負けず嫌いであるらしい。

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