4月14日(木)12:00
4限目。体操服に着替えてスポーツテストをこなしていく。反復横跳び、長座体前屈、ハンドボール投げ、握力……。私の運動神経は良くも悪くもないので、大した記録が出ることもない。毎年毎年、なんでこんなことをしなければならないのだろう。まあ、普段から運動している人は、記録が伸びたりして楽しいのかもしれない。私の記録? 1年の頃からほとんど変わってませんが何か。
体育館で楽しくもない上体起こしに励んでいると、少し離れた場所から「おおー」という歓声が聞こえてきた。誰かがすごい記録でも出したんだろうか。ちょうど自分も終わったのでそちらの方に意識を向ける。注目を浴びて歓声を受けているのは……四月一日くんか。いい意味で注目浴びるなんて珍しいな。握力計を持っているようなので、していたのは握力テストらしい。一体どんな数字が出たというのだろう。
ざわざわしている周囲の生徒たちの声に耳を傾けてみる。そんな中で聞こえてきたのは……え? 83Kg? なにそれ怖い。リンゴくらい余裕で握りつぶせるやつじゃん。趣味は筋トレとか言ってたけどこれはガチだ。ガチで鍛えているやつだ。
きっと他の種目でもとんでもない数字を叩き出しているんだろう。運動が特に好きでもない私からすればそれはすごいことだと思うし、なんなら尊敬すら覚える。しかし、どうしても「魔王を倒すために鍛えてるのかなこの人」という考えが拭えない。いもしない魔王の討伐のためにここまで強くなったとか、なんというか、うん。いや、でもそういえばこの前、1年生の方を見ながら魔王とか言ってたな。まさかその鍛え上げた体を使って1年生をぼこったりとかしないよね。大丈夫だよね。
あ、今度は反復横跳びしてる。すごい。めっちゃ高速。いっそ感動するわ。周囲の男子たちもまた歓声を上げている。やっぱり男子って、運動神経いい奴のこと好きだよね。例え普段の言動があれだとしても、スポーツテストで実力を見せつけられてしまうと一目置いちゃうんだろうね。うん、気持ちはわかる。
全ての種目を終えた後。クラスで唯一四月一日くんと普通に接している例の男子が、彼の記録を覗き込んで「すげーなお前……」と呟いていた。四月一日くんは何となく嬉しそうな顔をしていたが、あのニュアンスは褒め言葉ではなく普通に引いていた。
隣の席の四月一日くんはどうやら(魔王討伐のために)ガチで鍛えているらしい。
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