海の星雲
無色陽失
海の星雲
これは僕が小学生の時の話。
それは、綺麗な海だった。美しくも儚げで、そんな海とのお話。
僕の父親は漁師だ。小舟に乗り、夕方太陽が沈むと同時に、港から出ていく。そして、一時間ほど小舟を走らすと日振島という島に着く。そこを漁場にし、主にイサキという魚を捕る。なかなかの高級魚らしい。
僕が幼子のころの夢は、漁師だった。もう、それは、夢に見ていた。父さんと一緒に船に乗り、漁をして、市場に魚が並ぶのを夢見ていた。
ある時、9歳のときだった。そのときから親の手伝いと称し、いつも通り漁に行っていた。その日に起きた出来事だ。
時間は午後9時を回っていた。船のエンジンの音が聞こえる中、暗闇に一対の様な光は目下に主張していた。
そこには、満天の星空が天空を支配していた。煌びやかに光るその星達はまるで硝子細工の破片の様だった。そして、僕がポケーっと立って見上げていた目線を下に落とすと、船艇は光を放っていた。僕は思った。ああ、神は綺麗な星雲を天空では飽き足らず、海底をも星雲に変えてしまったのかと。その船はは、まるで水彩画の絵の具の様でお人やかでありながら電飾の様な派手さのコートを着こんでいた。また、海と岸の際を見てみると、可憐でその中に常闇の中に沈む悪態の様な形をしていながら、ゆらりゆらりと、また、これも派手に、色を発していた。
そこで、僕はこう父さんに問うた。
「海ってこんなに綺麗だったんだね。」
と、そうすると父はこう言った。
「そうさ、海は綺麗なんだよ。まるで人間の様だろ。人のように荒れ狂うときもあれば、美女の様な可憐な笑みを見せることもあるんだ。俺は後者の方が好きだけどね。」
と、この返答に言葉を返すことをできなかった僕を見て、父はまたこう言った。
「あと数年したら、判るようになるさ」
と。僕が「うん」とだけ言って微笑みながら返す。すると父さんは、微笑んでいた。
そんな俺はもう、30になる。もう三十路だ。子が二人と綺麗な嫁さんが一人、俺は幸せだ。そんな幸せな俺を見送るかの如く父はこの世を去った。脳梗塞だった。
ある日、長男がこう言った。釣りがしたいと。なら船で行くかと言うと、ニカッと笑い大きな声で「うん」と言った。
そして、港にやってきて船外機に油を入れる。どこがいいと息子に聞くとこう言った。
「父さんの思い出のところに連れてって」
何故、そんなことを聞くのかと聞くとこう言った。
「行ってみたかった。其れだけじゃダメ?」
「ああ、いいよ。だが、少し遠いぞ。」
そんなこんなで一時間かかったが、久しぶりに日振島へとやってきた。一時間かけてやってきたが、まあ、いい思い出になるだろうと無理やり納得させた。油代が心を揺さぶってしまう。
エンジンを止め、アンカーを下す。磯に引っかかったのを確認すると、縄でくくる。いつも通りの準備が終わると、竿を出し釣りをし始める。
そんな中、糸を垂らし待っている。とそれは突然起こった。波で船がタプタプ揺れているそんなとき、船底をまた星雲が彩った。タプタプ、タプタプと船を波が揺らしながら、星雲が彩っている。
また、このところで、同じ思い出に出会えたと胸をドキドキさせていると、息子がこう言った。
「海は綺麗だね」
と、だから自分はこう言った。
「人間の様だろ?」
と、そうしたら息子はニヤニヤしながら、こう言った。
「そこは、母さんの様って言わないの?」
と、そして俺はこう返す。
「やめておけ、父さんのHPはもうゼロだ。」
ニヤニヤしながら、息子がこちらを見ていた。
やはり、海は美しい。
海の星雲 無色陽失 @youshitu
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