うさぎの友達

@88chama

第1話


 それはひぃおばあちゃんが越して来てから、暫くたったある日のことだった。

夕食後、みんなの話を黙って聞いていたおじいちゃんが、急に涙をぽろぽろこぼして泣き出したものだから、みんな本当にびっくりしてしまった。

僕はおじいちゃんがかわいそうでたまらなかったけど、うさぎだから何もしてあげられなくて、とても悲しかった。だから、おじいちゃんが僕の方を見た時に、「それは仕方ないことだよね」と言って、にっこり微笑んであげたんだ。



 僕はふわふわの白いうさぎ。オレンジ色の洋服のせいかひぃおばあちゃんは、僕の耳に赤いリボンを付けてくれて、うさこちゃんって呼ぶ。ちょっとがっかりだ。もうすぐ二歳になるかずお君は沢山いるぬいぐるみの中で僕が一番好きらしい。ご飯の時もお昼寝をする時もいつも一緒だ。そこにひぃおばあちゃんが仲間入りして、僕たち三人はすぐに大の仲良しになった。


 

 娘のあーたんと二人でのんびり暮らしていたひぃおばあちゃんは、もうすぐ八十四歳。自分の家を忘れたり、薬を飲み間違えたりする。色んな失敗がみんなの心配に変わってきたから、おじいちゃんの家に越して来たのだった。

あの日、そろそろみんなの手助けも必要になってきたようだね、って話していただけなのに、おじいちゃんったら。

 「知らなかった、母さんがこんなふうになっていたなんて・・」

と言って泣くんだもの、みんなシーンと静かになっちゃった。でもそれって物忘れがひどくなる病気のせいだって言うじゃないですか。気にすることないですよ、ねぇ。



 それで、誰がどんなお手伝いが出来るかって考えていたら、かずお君が血圧計を運んで来て、

 「ひばたん、けちあちゅ、はかるんだよ。」

 って、教えてあげた。そして僕はひぃおばあちゃんが薬の箱の引き出しを間違えて開けそうになった時、

 「ダメダメ、もう飲みましたよ。」

 って伝える為に、わ ざと棚から転がり落ちたんだ。そしたら、

 「あらら、うさちゃんが落ちちゃったわ。」

 って、僕を棚にのせて薬のことはすっかり忘れてしまった。



 ひぃおばあちゃんは冬に越して来てから、毎日ジングルベルのメロディ-を口ずさんでいる。そろそろ夏だというのに。その間にかずお君は沢山の言葉を覚えて、しっかりお話も出来るようになった。タアキやあーたんの名前もただあき、あきこって言えるし、数だって数えられるようになった。「いち、にぃ、さん、ごぉ、おく、はち・・?・・」ってね。バナナのBもわかるし歌も歌えるよ。

かずお君はどんどん背が大きくなって、色んなことを覚えていくけど、反対にひぃおばあちゃんは少しずつ身体が小さくなっていくような気がする。

ママの弟のタアキとヒデを、かずお君のパパだと思っているし、同じ家に住んでいるのに

 「ぼくちゃん、いつ来たの、もう帰るの?」

 なんて聞くんだから、理解する力も弱くなってきているのかも知れないな。



 ひぃおばあちゃんはかずお君のおやつが大好き。かずお君が分けてあげないとこっそりつまんで食べちゃったりもする。歳をとっていくとだんだん子供のようになっていくって聞いたけど、本当にそうなんだなぁ。

 母の日に、おじいちゃんったらひぃおばあちゃんに、かずお君と同じおやつをプレゼントしたんだよ。おじいちゃんにとってひぃおばあちゃんは、大切なお母さんであるけれど、大切な子供のようにも思えるんだね。



 あれからずいぶんたって、もうおじいちゃんは泣いたりすることはなくなった。でもどんなに元気なひぃおばあちゃんだって、いつの日か遠いところに行く日がやってくる。その時にはまた、涙をボロボロ流して、わおんわおんとライオンのように泣くことだろう。でもぬいぐるみの僕にだって、いつか大きくなったかずお君との辛いお別れの日は待っているんだ。

僕たちにそんな日がまだ来ないでとお願いしながら、今日も三人で仲良く遊んでいる。







 

 


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