第4話 冬
遠く遠く雲の切れ目。排水溝、山を越え川を越え、熟れた樹木。灼熱に爛れた金属塊。マカロニサラダの憂鬱。並んだなで肩。朗らかな腕の素描。大気を吸った右腕は鉛筆の最先端まで染色し、滑らかに差し込んだ血流はホットココアの対流を醸し出す。定刻きっかりに黒炭を始点として絹の経糸が視界をまだらに縫う。プールサイドの二つのビート板を圧し合わせた時と同じで、波面が両極端に迫る。薄膜のカーテンを肩になびかせながら歩いた。幾つかの騒々しい呼吸音が連れてくる。摘み立てで瑞々しい世界観を。学校生活の断片の一枚に薫陶があった。学生服の裾の間から逃げていき見落としてしまうけれど、確かに在りのままにあった。周回した追憶は無条件に懐かしい。鍋底に焦がしたスープの香り。溶けるバター。解剖学の敬虔。着古したユニフォームの形態。自転車のブレーキ具合とトンネルの夜灯。ゴワゴワと感じられる血漿。コートの袖に腕を通した時の暖色。冷蔵庫の中で凍ったチョコレート。そして何よりも乾燥した大気の雲。
彼の身体はぐニャリと曲がり、私の眼窩はより落ち窪み、平行に処理される物事の波。縫い代の淵を、反転した地上の盲目から漂っていた。突き刺さる不確実な性情と燃え上がった筈の木の葉は、今尚張付いていた。全ての生物は木の葉を纏い、マイクロに君たちを混濁する。一緒に連れてきた恍惚は黄金色に世界を遮る。(君は皺のひとすじひとすじを覚えているのだね。)
公園のベンチに彼は座っていた。
ベンチは冷たく乾いた。ベンチには温もりが残った。私は自分の手袋を脱いでそっとベンチの上に載せた。青白い雲が月光に跨る。私は鋭い寒さに素直に身を任せる。その瞬間に抵抗は全くと言っていいほどなかった。私は痛切に信じた。
水中の温度 @copo-de-leite
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