第3話 あしぶみ
縮こまった陽気が八月にさらされる。私は放心したまま眺めていた。何故ならば葉脈の真裏に刻まれた化石が淡く温暖であるから。心拍数に張付いていたのだ。物を見つめる際の俯瞰的でその上仔細に結び合う目付き。身体と生命のバランスを遊離して、焦点を見透かして、画面及び眺望を飛び越えている。一定速度でないから音符が累乗で連なっている。反りあがった断崖の裏側を見ている。
彼は衣服をきちんと畳んで整頓する性格だった。四角く折りたたんだ襯衣を部屋の隅に自然と置いている。毛糸と綿の柔らかな手触りが部屋を彩った。単純な物事の方法は、きっとノートの余白と空白を含んだ存在から生まれたんだろう。紡ぐ糸が色褪せて行く彼の生命線。
「ひとつひとつは宇宙まで広がっていって、宇宙全体が私になって、懐かしい気持ちになるね。新鮮でもぼやけた白光の景色。私はず~~っと立ち止まっているけれど周りの景色がぐるぐる旋転して、此の光景を思い出したんだ。」
蛇口に固まった水の粒。彼は其の表層に手を伸ばす。精神に触れようと志す。小鳥がチカチカと嘴を合わせる。
「こんな風に伸びている木もあの木も。青々と繁った木も、奔放にたわむ木も、全て充填された密度なんだね。」
噴火する火山の曇る気候。瞳が燃焼する。つまり彼も、そこにいる私も、ここにいる私も。
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