第13話 死がふたりを分かつまで

垂れ下がるロープの前で立ち尽くしていた。


世間では戦争だウィルスだと騒いでいる内に何もかもが変わってしまったらしい。


元々監視社会だったこの国で信用スコアの低かった妻はもう戻らない。


決して裕福とはいかないながらも、自分とは不釣り合いな美しい妻には精一杯の愛情を尽くしてきた。


連日遊び歩いているのは気付いては居たが、それでも愛する妻の為、家にも帰らず仕事に打ち込んだ。


彼女が全てだった、

青春と呼べるかはわからないが、彼女が喜ぶことなら何だってやった。

年に1度きりだったけど海外へ旅行に出かけたり、記念日には高級店でディナーもした。


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その日、家に帰ると知らない男が妻と居た。

男はしっかりした身なりで自分なんかより断然優れた人間なのだろう。


頭が真っ白になった。

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「受刑者一同!下船!」

部屋の外から男の声が聞こえる。


あの日、自分の頭を殴り付けたのは

彼女の裏切りだった。


役員と名乗った男は丁寧に、とても親切に新政府の制度を説明してくれた。


雲行きが変わったのは新政府下での彼女の処遇についてだった。

どうやらこの国に残る事は出来ないらしい、

「旦那様もご一緒することは可能ですが、お腹のお子様は配属先の国で出産後、保護団――――


愛した妻の体に子供が...?

バツの悪そうな女の顔を見た後の事はわからない、

役員が説明を終え部屋を去り、書類の置かれたテーブルの花瓶が愛する妻だった物と共にカーペットを赤く染めていた。


騒ぎを聞きつけた隣人が通報したのだろう、朦朧とする意識の中で先程の男が肩を揺すっていた。







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