クラスで隣になったヤンキーと暇潰しに妄想を語り合うだけの話

御手洗ようかん

お題「日直の二人」

 この春から高校生になった渡来想わたらいそうは、漫画を読むことが好きな平凡男子と、周りからは思われている。

 漫画が好きなことは間違いではないけども、想は隠していた趣味があった。


 それは妄想をすること。


 目に着いた光景を頭の中で、フィルターを掛けて自分好みに楽しむ変態だ。

 自分好みに楽しむと言っても、その妄想に想自身は登場しない。

 あくまでも第三者視点で、好きなシチュエーションを想像するといった趣味。

 それでも想の妄想に登場させられる人からすれば、気持ち悪いと思うのはわかっている。

 そのため、決してこの趣味を誰にも話さないと誓っていた――はずだった。


「なー想」


 二限終了後の合間休憩中に、窓際の最後方の席で机に突っ伏した隣の女子から声をかけられた。突っ伏した状態からでも分かる女子としては高めの身長。肩まで伸びた髪は赤のメッシュが入っていた。

 その髪からはみ出して見えた耳には、いくつかのピアスがつけれられていた。


「な、なに?」


「ん? お前、何をそんな怯えてんだ?」


「い、いや、急に話しかけられたからかな」


「ふーん」


 退屈そうに声をかけて来た保科美空ほしなみそらは、俗に言うヤンキーだ。

 入学初日、美空は顔に絆創膏をつけて登校してきた。興味本位でクラスメイトが絆創膏について質問すると、「喧嘩」と一言呟いて鋭い眼光を飛ばしていた。

 それ以降、美空の周りには人が寄り付かない。こんな短い休憩の間ですら、想以外の周りのクラスメイトは席を離れていた。


「暇だから、なんか話せよ」


 切れ長の目からは「話さないと何をしでかすかわからない」とでも言われてるような気分になり、蛇に睨まれた蛙ように体がすくんでしまう。


「なんかって言われても……」


「あ、そうか。そうだなー」


 美空は机に突っ伏したまま顏を正面に向けて、クラス全体を見回す。その時、美空の目に何が写ったのかわからないけど、まるで子供が目当てのおもちゃを見つけたかのように目を輝かせた。


「じゃあ、お題は今教壇にいる二人で」


「日直の二人?」


 美空がお題にした人物は、話してる内容は聞こえないけど、言い合いをしながら板書を消している日直の二人だった。

 想が二人について知っていることは、保育園からの幼馴染で、どちらも人当たりが良く、いつ間にか輪の中心にいるような人物ということ。


「うーん、定番だけどこんなのはどうかな?」


 ~~~~~~~~


 二人は家が隣同士の幼馴染で、親同士も仲が良く俗に言う勝手知ったる仲。その二人の関係を兄妹と説明されても、不自然じゃないと感じる程だ。

 ただそれは表向きの面で、実は互いに互いのことを想っている両想いだった。

 しかし、あまりにも長く家族同然として接してきた二人は、中々素直に慣れず、今日も言い合いをしてしまう。


『くっそ! 顔を見合わせる度に、素直に慣れず嫌味が出るこの口が憎い!』


『あーどうしても昔みたいに彼と話しちゃう……なんで、仲良くできないんだろう。こんなんじゃ一生彼に意識してもらえない』


 口から出る言葉と思っていることが違う二人、それは今日も同じかと思われた。


 ~~~~~~~


「ちょっと待った」


 美空は未だ退屈そうに机に突っ伏したままで、その上に眉尻を下げてガッカリしている。どうもお気に召さなかったようなのはすぐにわかった。

 急に話を止められた想は、恐る恐る美空のほうを見た。


「えっと、何か悪かった?」


「悪いとかじゃねーんだけど」


 目をつぶり眉間に皺を寄せ、拳を握った右手で均一のタイミングを取るように、自分の頭を軽く叩いてる美空。

 恐らく十回程度軽く叩いた後、ピタッと叩くのを止めてゆっくり目を開いて、目線だけを想に向けた。


「これあれだろ。両方想いの男女が板書を消してる時に、手がぶつかるってときめく的なやつか?」


「う……」


 あまりに的確な予想に、まるで漫画のネタバレをされたかのようなショックを受けた。


「……そ、そうだけど」


 肯定すれば、美空は声を殺しながら笑い始めた。その姿を見た想は、自棄になって思ったことをぶつける。


「いいじゃん……両片想い。もどかしい距離間にやきもきしながら、なんてことのない時折起こる甘い展開にときめく感じ。というか、僕の妄想なんだから別にいいでしょ……」


「悪いなんて言ってねぇじゃん。 ただ改めて、そういう両片想いとか恋愛系の妄想が好きだなぁ~って思っただけ」


 美空は身体を起こして頬杖を突いた態勢に変える。そして、少し小馬鹿にしたような笑みを浮かべながら想を見てきた。自分のことを棚に上げてることに、何か腹が立ってきた。


「保科さんだって、好きなくせに……」


「おう、割と好物だ」


 保科の屈託のない笑顔を見せられた想は、先程の苛立ちは何処かへ行ってしまった。


 そう、このヤンキー女子の保科美空も想と同様な趣味を持っていた。


 そんな想と美空が同じ趣味を持っていることを知ったきっかけは、入学してから少し経った頃だった。


 ---


 帰りの電車内で、隣に座った自分と同じ制服を着た女子二人の会話が耳に入ってきた。


「ねぇ、なんか可愛いこと言ってよ」


「急に何!?」


「いいから早く」


「え、えーっと……恥ずかしいからやっぱやだぁ!」


「……ちぇっ」


 隣に座ってるため、彼女達の表情を見ることはできない。だけど、妄想が趣味の想にとっては、それだけで十分だった。

 あぁ尊い……貴重な百合の尊いシチュ。神様、ありがとうございます。

 手に持っていた漫画閉じて両手で挟んだまま目をつぶり、この現場に居合わせてくれた神に感謝して昇天しそうになる。

 この幸せを噛み締め終えて目を空ければ、丁度向かい側に座っていた人と目が合った。

 その瞬間、想の体に寒気が走った。それは肉食動物に目をつけられたと錯覚するくらいの恐怖を覚え、身体が震え今にも立ち上がって逃げ出したくなった。

 理由は、自分と同じようなポーズをしている美空が、悪そうな笑みを浮かべていたから。


 ---


 それからというもの、授業の合間休憩でこうやって絡まれることが増え、今では暇潰し感覚で想の妄想を聞くようになっていた。


「それで、どうして止めたの?」


「定番すぎてつまらない」


「……おぅ」


 あまりに速い火の玉ストレートで胸を抉られた。表情から期待に沿えなかったとわかってはいたけど、思った以上に直球で精神的ダメージを受ける。


「もっとこう裏のありそうな――男が女に片想いをしているけど、女は別の男が好きとか?」


「拗れそうな感じの雰囲気を妄想するのは、好きじゃないんだけどなぁ。それにお題は日直の二人なのに、別の登場人物だしていいの?」


「妄想なんだからなんでもありだろ」


 切れ長の目を広げて「何、当たり前のことを言ってるんだ」と言いたげな目で凝視してくる。

 元から感じてはいたことだけど、あまりに自由だ。妄想を考えてる側は自分好みでしか考えていないから、急に無茶ぶりをされても困ってしまう。

 一応、お題に沿って別の妄想を考えてみるけども、一番最初に考えたもの引っ張られて上手くできない。

 やけくそになった想は、冷や汗をかきながら暴挙に出た。


「ちょっと僕には思いつかないから、保科さんの妄想を聞かせてよ」


「はぁ? なんであたしが――」


「今まで僕の妄想を話してばかりだったけど、電車で僕と同じようにしてたってことは、普段から色んな妄想してるでしょ?」


「うっ……それは」


 少しだけ頬を赤く染めた美空は、目線を泳がせて尻込みをしていた。

 しかし、想は目を逸らさずに一歩も引かない姿勢を見せる。まるで後には引けないという鬼気迫るものがあった。

 そしてついに、もうすぐ休憩が終わるというところで、


「……次の休憩までに考えとく」


 と言って、美空は机にうつ伏せで顔を隠した。


「……ほっ」


 隣のヤンキー女が怒り狂うこともなく、ましてや睨んでくるといったこともなかったことに安堵した。

 運良く逆鱗触れなかった想は、落ち着きを取り戻して次の授業を受けた。



 ◇



「おい、想」


 三限の授業が終われば、すぐに美空が声かけて来た。と、同時に恒例であるかのように、周りの座っていたクラスメイトが席を立って離れていく。もうお約束のように、美空の周りで座っているのは想だけになった。


「考えたぞ」


 その言葉を合図に、板書を消している日直の二人に一度視線を向けた。

 前の休憩での言い合いを引きずっているのか、今は一言も話さず黙々と役割をこなしている二人がいた。


「シチュエーションは前の授業のやつをイメージすればいいかな?」


「おう、それで問題ない」


 それから深く息を吸って、美空は妄想を語り始めた。


 ~~~~~~~~


 幼馴染ということで仲が良かった二人は家族同然だった。

 だから、女は男のほうを出来の悪い弟くらいにしか思っておらず、それは男も同様だった。

 しかし、その感情は一人の別の男によって崩された。

 そいつは二人といつも一緒にいる高校からの友だった。


 女が一緒にいない放課後、クラスの教壇で二人で雑談してたら高校からの友が男に質問した。


『あのさ。お前って、女のことをどう思ってる?』


『どう思ってるって、幼馴染でそれ以上でもそれ以下でもねぇよ』


『……そっか、ならよかった』


『よかったって、どうしたんだよ?』


『俺、あいつのこと本気で好きだ』


『ッ……!!』


 友の告白を聞いた瞬間、ズキン、と。男の胸が痛んだ。

 胸が痛んだ理由はわからないけども、男は友の言葉が真剣だと理解できた。


『そんなにマジなら応援するぜ。何かあれば手伝ってやるよ』


『ふふ、ありがとな』


 ~~~~~~~~


「ごめん保科さん、少し待って」


「んだよ」


 美空は目尻を下げて「これからいいところなのに」と、言わんばかりに不満なそうにしていた。

 ただ今度は想のほうが、目をつぶり眉間に皺を寄せたまま腕を組んで考え込む。

 数十秒考え込んだ後、想は目をつむったまま美空に質問した。


「やっぱり、お題が三人になってないこれ?」


「なんでだよ」


「女は何処に行ったの?」


「その女を奪い合う話なんだから、含まれてるだろ」


 有無を言わさぬ鋭い眼光で睨みつけられた想は、あまりの恐怖に怯んでしまった。まるで懐にナイフを突きつけられたように思えた。


「何か不満かよ」


「不満じゃないんだけど……そ、それじゃあ、なんでこのシチュを考えたの?」


「…………」


 恐怖に怯えて、景色がぼやけて見えるくらい目を細めながら、何とか質問した想だったけど、一向に答えが返ってこない。

 景色が見えるように、ゆっくりと目を開けていくと、顔を真っ赤にした美空がいた。


「な……んでって……そんなん」


「もしかしてだけど、女子側のセリフが出てこないようにしたの?」


「……ッ!」


 まさかの図星だったようで、プルプルと震えながら更に顔が赤くなっていく美空。そんな美空を見たのは初めてで、想は必至に腹を抱えて笑いを堪える。と、それがトリガーとなって、美空は頭から湯気が立っているような錯覚を覚えながら、恥ずかしさが爆発した。


「おい、想! てめぇ笑うな!」


「くっくっく、ご、ごめ」


「笑うなって言ってんだろ!?」


「ごめっ、でも、ぷっ」


「……」


 あ、これはまずい。笑い過ぎてしまった。

 隣の方から「ブチッ」と何かが切れたような音がした。


「あのー…………ひぃ!」


 ゆっくり顔を上げれば、そこには屈託のない笑顔でも普段の仏頂面でもなく、こめかみに青筋を立てて笑っていた。


「覚悟はできてるんだよな?」


「ちょっ、ほら! 皆見てるから!」


 美空が大きな声出したのは入学してから初めてで、クラスのほとんどが恐る恐る二人に注目していた。

 そのクラスメイト達は美空が舌打ちと共に一瞥すれば、即座に視線を逸らして我関せずとなった。もはや助け舟を出してくれそうな人はいない。


「最後に言い残したことは?」


「えっと、あの……はっ! 保科さん、男セリフ似合ってました」


「ふんっ!」


 ビュンと風を切る音が聞こえた瞬間、反射的に目をつぶる。

 しかしいくら待っても、鉄拳制裁が飛んでこない。

 恐る恐る目を開いていくと、バチンッという音と共に、急激な痛みがおでこを襲った。


「痛っ~!」


 油断したためか痛みは想像以上のもので、両手でおでこを抑える。

 恐らく想が油断したところで、デコピンを受けたようだった。


「これくらいで勘弁してやる」


「……あ、ありがとうございます」


 おでこを擦りながら、この騒動は授業開始のチャイムと同時に幕を閉じた。



 ◇


 昼休憩中、美空は必ず席から立って別の場所へ移動する。何処で昼食を取っているのか聞いてみたい気もするけど、未だに怖いという感情が少しあって聞けていない。

 想はいつも通り漫画好きの友達とご飯を食べていると、色々な人から声をかけられた。恐らく先程の合間休憩で、今までおとなしかったヤンキーが怒号を発したせいだろう。

「大丈夫だった?」想を心配してくれる者。

「何があったんだよ?」興味本位で聞いてくる者。

「お前、バカかよ。頭のネジ外れてないか?」呆れながら馬鹿にしてくる者。

「進めてくれた漫画、面白かったよ」「ねぇ、この漫画って続きでてないのかな?」と、普段通り漫画について一言、二言の話しかけてくれる人もいた。


 昼食を食べ終えて机の上を片付けていれば、漫画好きの友達は単純な疑問を想にぶつけた。


「なんで渡来は、あのヤンキーなんかと普通に話してるの? 怖くないの?」


「えっ、うーん。怖いのは怖いけど、悪い人ではないと思うから?」


「ふぅん。渡来って、なんか変わってるね」


「僕って変わってるのかな?」


 こくりと頷かれてしまった。今日までの学校生活内の行動を、脳をフル活用して振り返ってみるけど、特に変わってるようなことをした覚えはなかった。妄想以外。

 変わってる部分を友達に聞こうとしたが、話題が先日新刊が発売した漫画の話を振られたので、この疑問は何処か彼方へ消えてしまった。


 昼休憩の終わり際、自分の席に戻ってきた美空は「次の休み時間でリベンジしてやる」と呟いてきた。

 これは次の休憩でも、保科さんの妄想が聞けると思っていいのだろうか。そう考えると、何故かワクワクが止まらず授業に集中出来なかった。



 ◇



「想、その、準備はいいか?」


 五限の授業が終わって声をかけて来た美空は、緊張のせいか少しだけ声が上擦っていた。

 想がこくりと頷くと、美空が息を吸ってゆっくり語り始めた。


 ~~~~~~~~


 夕方の教室、窓際で男は高校からの友と向かい合う。


『俺は、あいつに自分の気持ちを伝えた。返事待ちだ』


『そ、そうか。上手く行くと――』


『いい加減やめようぜ』


 友は怒りを露わにして、男の言葉を遮った。


『な、なにをやめろって』


 その男の言葉に友の堪忍袋が切れた。

 そして、友は男に詰め寄って胸倉を両手で掴む。


『そういうのだよ! お前の気持ちはお前が一番わかってんじゃねーのかよ! どうして見て見ぬ振りしてんだ!』


『ッ……!』


 男は何もかも見透かされているとわかり息を飲む。


『このまま俺がもし付き合えたとして、本当に俺が喜ぶと思ってんのか? 今のまま大人ぶって身を引いて、諦めた振りしてみろ。俺はぜってぇ許さねぇぞ!』


『え!? 二人とも何してるの!』


 そこに現れた女の登場に、男は驚いた。

 友は、まるで女がここに来ることを知っていたかのように、平然としていた。


『俺が呼んだ。これからどうするかは、お前次第だ』


 友が男にだけ聞こえるように伝え、男の胸倉を放した。

 そして、そのまま友は教室を出て行こうとするが、足を止めて振り返った。


『おい、男。結果がどうなろうと、俺とお前は親友だからな。そこんところ忘れんなよ』


『――おう』


 男の返事を聞くと、友は笑って教室を去っていった。

 女はこの状況がつかめず、戸惑っていた。


『えっと、結局なんだったの?』


『あーえっと。その前に、どうしてここに?』


『友くんから、男がこの時間に教室に来てくれって言ってたって聞いたから』


 男は全てを悟って呆れた顔をした後、心の中で友に感謝した。


『あのさ、前からお前に伝えたかったことがあるんだ』


『えぇ? 急に改まって何?』


 教室の空いた窓から緩い風が吹いて、レースカーテンが優しくなびく。


『俺、お前のことが好きだ』


『え』


 その瞬間、強い風が吹いて二人の髪が激しくなびくが、お互いに目を逸らなかった。


 ~~~~~~~~


 ここまで語ったところで、美空は深く息を吸って吐いた。


「こんな感じのシチュを考えたけど……どうだ?」


 達成感と相手の反応が気になる不安、そして少しの気恥ずかしさが入り混じった、もどかしそうな様子で聞いてきた。

 想は音が出ないように拍手をして一言、


「お見事」


 と伝えると、「よっしゃ」とガッツポーズを取った。その様子には何処かほっと安堵するようなものも感じた。


「これって少女漫画とかでよくある系のシチュだよね」


「そうなんだよ! 正々堂々って感じの友情がいいよなぁ」


「でも、やっぱり二人じゃなくて、メインが三人になってたような……」


「別にいいだろ、妄想なんだから。それとも何か? 好きじゃねぇのか?」


「かなり好物です」


 ありがたがるように頭を下げると、鼻高々に美空は笑った。

 ただ、一つだけ気になるところがあった。


「結局、女子のセリフは少なめになっちゃったね。このシチュだと、少なくなるのは当然かもだけど」


「うっ、うるせぇな。だいたい、いきなりこんなことしてんだから、恥ずかしくておかしくなりそうだぜ」


 それをいきなりさせていた方が、よく言えたもんだ。と心の中でツッコミを入れた。

 顏が少し赤くなりながら、呆れたように聞いてくる。


「よく今まで、こんなことやってたな」


「…………というか、保科さんは女子なんだから平気じゃないの?」


「可愛い系の女子の言葉遣いは性に合わねぇ」


「あ、そう」


 結局、どこまで行ってもこの人はヤンキーだった。

 緊張していた体をほぐすためか、美空は背伸びをして伸びていた。


「あ~あ~。やっぱり、もっと激しい感じでもよかったなぁ」


「激しいっていうと?」


 拳を構えた美空が、ヒュンっと風を切る音を鳴らしながら拳を前に突き出した。


「殴り合いとか?」


「物騒!」


 最後に少し叫ぶと、クラスの皆が注目して恥ずかしくなり、ペコペコと頭を下げた。



 ◇



 次の日の朝、教室に入ると予想外のとんでもない話が聞こえてきた。


「えー! じゃあ、二人って実は兄妹だったの!?」


「あはは、なんかそうだったみたい」


「俺とこいつの父親が屑でさ。俺とこいつの母親をほぼ同時に妊娠させてたみたいで……だから、腹違いの兄妹ってことになるみたい」


「どっちも再婚してるから、私達二人とも今のお父さんが本当のお父さんだと思って育ったんだけどね」


「どっちの両親も知ってたみたいで、なんか昨日高校生になったからって、合同家族会議が開かれて知らされた」


 昨日日直をしていた二人はどうやら兄妹だったらしい、しかも腹違いの。

 幼馴染ということは知っていたが、小説や漫画にドラマでもあるまいし、まさか本当にそんなことがあるなんて。

 あまりの衝撃に教室のドアの前で固まっていると、後ろから肩を叩かれた。

 振り返れば、見たこともない表情で驚いていたヤンキーがいた。


 一限後の休憩で、いつも通り机に突っ伏した美空が想に声をかけてきた。


「なんか……あたし達の妄想なんか可愛いものだったな」


「確かに……」


 結局、現実というものは事実だけが耳に入ってくるだけで、その過程などは分からないのが常。

 しかし、今回の件に関しては想像絶する事実で、ドリルのようにお互いの胸を抉った痕跡を残して行った。

 恐らく使い道は違うだろうけど「小説は事実より奇なり」と、小さく呟く。

 突っ伏した美空に聞こえていたのかわからないけども、微かに頷いていたような気がした。

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クラスで隣になったヤンキーと暇潰しに妄想を語り合うだけの話 御手洗ようかん @Mitarashi_Yokan

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