家族詰め

 食卓を囲む四人の人間達がいる…

 四人は俗に言う家族である…


「今日さ、友達の彼氏が浮気してたっていう話が、みんなで問い詰めに言ったんだけど、そしたらさ───」

 娘と思われる女の話は学友の話ばかりだった。

「やっぱり甘い物は美味しいわよね。あまり食うと太っちゃうから大変だけど…ところで角に建った新しい家なんだけど───」

 母親と思われる女の話は食べ物や近所の住人の噂話ばかりだった。

「姉ちゃん、醤油取って───」

 息子と思われる男は話よりも食事を優先していた。

「ふーむ…またガソリンの値上げか。こう値上げが続くと辛いなあ───」

 父親と思われる男の話は愚痴にも似たばかりだった。

 娘と思われる女、母と思われる女、息子と思われる男、父と思われる男、四人の男女が食卓を囲み、食事をしながら和気わき藹々あいあいと会話している様だった。

 の男女はごく普通の家族であり、そこはありふれた団欒だんらんの場の様に思われた。

 当たり障りのない会話、決して深入りすることのない距離感、この家、そしてこの食事風景こそが四人にとってのだった。

 家族という名の幻想が詰められたハコむ四人は、四人が揃ってそこにいることだけを目的とし、家族として話すべきことを話さず、ハコの中には隠し事や見て見ぬふりが蔓延はびこっていた。

 母親と思われる女は、家計をやりくりするという名目で家族に内証で借金を重ねながらと自らをはじめとした家族の生活水準を下げることをしなかった。

 父親と思われる男は、自身の収入よりも遥かに高い生活水準に身を置きながら趣味であるに時間や金を費やし、明らかに収入を上回っている支出に用いられているその金がのかを気にもしなかった。

 娘と思われる女は、母親と思われる女と父親と思われる男の夫婦関係が崩壊しているのを感じながらも、この場にとしていつも一人で四人分の会話を続けていた。

 息子と思われる男は、自身の姉でありこの家族の中では娘と位置付けられている女の話は聞くが他の二人の話は一切聞かないにも関わらず、食事の際は食卓を囲んでいた。

 ハコの中に棲む四人は、ハコぞくとしてのかたちに依存し、四人が揃うこの偽りの団欒こそがまさしく四人にとっての日常ハコであった。

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【不定期更新】ハコヅメ 貴音真 @ukas-uyK_noemuY

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