3日目 買い物デート(実妹付き)
体育が終わった後も、大して大きな出来事はなどはなく、普通に一日が終了。
そのまま家に帰宅。
「ただいまー」
「おっかえりぃ! 彩姉ぇ!」
「なんだ、先に帰ってたのか」
「おうともさ!」
「お前、高校でちゃんと友達出来たのか?」
「あったぼうよ! あたしにかかれば、クラスの人全員と友達になるなんて朝飯だぜー」
むんっ! と、胸を張りながらドヤ顔する沙夜。
こいつを見るとこう、イラっとすると同時にほっとするな。
そう思って、俺は沙夜の頭に手を乗せた。
「むむ? どしたの? 彩姉ぇ」
「いや、なに。うちの妹様は安心するな、と」
「ん~? 彩姉ぇってシスコンだったっけ?」
「ちげーよ」
ってか、どうやったらそういう風に捉えるんだよ。
「そっかー……。まいいや。ねね、今日の夜ご飯は何?」
「トンカツだ」
「わーい! トンカツだ!」
「はは、子供みたいはしゃぎやがって……」
晩御飯の内容だけで一喜一憂できる妹に微笑みを浮かべつつ、俺は着替えるべく部屋に向かった。
「おー、このトンカツ美味しい!」
「それはよかった」
「いやー、料理が上手い姉がいるって、幸せだねぇ」
「褒めても何も出ねーぞ。ってか、姉って言うな」
「え? でも彩姉ぇ、今お姉ちゃんだよ?」
「……そうなんだが、いまいちピンと来ないんだよ」
こいつは順応性が無駄に高かったからか、俺が女になった日からナチュラルに姉と呼んでくる。
まあ、その順応性の高さがいいところでもあるんだが、今の俺からすると複雑なわけだ。
一応、つい最近まで兄だったからな……。
「そかな? あたしは結構しっくり来てるよ? 彩姉ぇって呼ぶの。というか、兄ぃって呼ぶよりも、姉ぇって呼ぶ方がなんかいい感じだよね」
「どこがだ」
「まあいいじゃん。あたし、お姉ちゃん欲しかったんだー。だから、普通に嬉しいんだよね」
「なんだ、兄じゃ不服だったと?」
「んーん? そんなことはないけど、やっぱりこう、同性の姉妹がいるっていいじゃん? それに伴った悩み相談もできるし」
「……まあ、一理ある、か」
俺だって、弟、もしくは兄がいたらなー、なんて思う時はあった。
やっぱ、男だからこその悩みってのもあったしな。
……まあ、こいつの場合は、
『え、彩兄ぃが悩み!? 聞かせて聞かせて! 相談のるぜー、兄上!』
目をきらっきらさせながら、ぐいぐい来るが。
少しは考えてほしいものだ。
「でもお前、将来的にはルナが義姉になったんだぜ? 姉が欲しいってのは前から叶ってたじゃねーか」
「おやおや? 彩姉ぇはすでに、ルナさんをお嫁さんにする気満々なのかなー?」
俺の発言の一部を切り取り、沙夜はニヤニヤとした意地の悪い笑みを浮かべた。
うっわー、腹立つー。
「い、いいだろ別にっ。俺はそういうつもりなんだし……」
「ふ~ん? ふ~~~~~ん~~~~~~?」
「その腹立つ声とにやけ顔はやめろ。お前のトンカツ強奪するぞ」
「おっと、そうはさせないぜ姉御!」
「姉御はやめい」
そうツッコミを入れるが、内心ではこいつの軽口にどこか安心している俺がいる。
何せこいつは、周囲の奴らと違って変に態度を変えないからな。
さすが我が妹だ。
なんだかんだ言って、可愛い奴よ。
「ところで彩姉ぇ」
「ん、なんだ?」
「お母さんたちにいつ伝えるの?」
沙夜のその質問によって、食事中の俺の手がピタリと止まった。
「……カアサンナンテ、シラナイヨ」
「彩姉ぇ、どんだけお母さんに言いたくないの?」
「…………なぁ、沙夜。お前ならわかるだろ? 母さんの異常性を」
「あ、あははー……ま、まあ、ね……」
俺の問いかけに、沙夜は引きつった笑みを浮かべながら目を逸らした。
その目はどこか遠くを見つめているように見えたのはきっと、気のせいじゃないだろう。
「そもそも、うちの両親が揃って家にいない理由の一つが、母さんだからな……」
「そう、だね……。お母さん、過保護すぎるもんね……」
「過保護ってか、ありゃ超が付くほどの親バカだ」
「酷い言いようだけど、実際その通りなんだよねぇ……。彩姉ぇ的には、今の姿は――」
「絶対見られたくない」
「デスヨネー」
わかりきってましたよ、と言わんばかりの反応だ。
「とりあえず、向こうが帰ってくるまで……いや、帰ってくることを察知したら俺、この家出るわ」
「え、そうなったらあたしのご飯は!?」
「いや、その頃には親父たちいるだろ」
「あ、それもそっか。じゃあ、あたしがすることは……」
「とりあえず、俺がどこへ行ったか言わなきゃいいよ」
「りょうかーい! 今回ばかりは、全力で協力させてもらうぜ、姉御ー」
「だから、姉御はやめい」
なぜこいつは姉御と言うのか。
姉御だと俺、レディースの総長みたいじゃねーか。
一応不良ってわけじゃねーんだから、普通にやめてほしい。
「あ、そうだ。彩姉ぇ」
「なんだ?」
「ルナさんからLINNで明日のこと言われたんだけど、あれどういうこと?」
「明日? ……あぁ、あれか。明日なんだが、実は本来の予定なら俺とルナの二人で、水族館にデートすることになってたんだよ」
「え、何? 惚気?」
「いや、そういうことじゃない。今本来なら、って言ったろ? つまり、予定変更になったんだよ」
「へー、そうなんだ。それで?」
「明日、俺の服を買いに行くことになっててな。俺は二人で行きたかったんだが、ルナはお前と一緒に服を選びたいと言い出してな」
「あ、なる!」
ぽん、と手を叩きながら、納得した様子の沙夜。
「つまり、あたしとルナさんが彩姉ぇに似合う服を選ぶ、というわけだね!」
「あぁ、そういうことだ。まあ、無理にとは言わん。行きたくないなら――」
「絶対行くぜ! 面白そうなイベントだし! 何より、TS作品のお約束をするチャンス!」
「お前は一体何を言ってるんだ」
というか、なぜそれでテンションが高くなる。
「俺は、お約束なんかする予定はねーぞ」
「お、フラグ建築! これはさらに期待大!」
否定したら、余計にテンションを上げるだけだった。
こいつ、こういう時マジで手強い気がするぞ、まったく。
「……とりあえず、OKってことでいいんだな?」
「もちのろん! いやー、今から楽しみだぜー」
「そうかい。んじゃ、参加する方向でルナに言っとくよ」
「あざます!」
会話もそこそこに、俺と沙夜は夕食を終えた。
「というわけだそうだ」
『わかりました。じゃあ、沙夜ちゃんも行くという事ですね! これで、彩羽ちゃんに似合う衣装を着させられます!』
「……お手柔らかに頼む」
『はい! 全力で選びますね! 可愛いの!』
電話越しからでも、ルナが気合を入れているのがわかる。
こいつ、俺が女になってからやけに強いな……。
ある程度慣れた頃には俺、いろんな意味でルナに勝てなさそうだ。
「全力は出さんでいい。……で、集合時間だが……」
『あ、そうでしたね。それでは……十時頃はどうでしょう?』
「十時か……あぁ、それでいいか。そんじゃ、十時に……駅前集合でどうだ?」
『わかりました。それで行きましょう』
「了解だ。んじゃ、また明日な」
『はい。楽しみにしてますね、彩羽ちゃん!』
「あいよ」
通話終了。
寝る前はこうしてルナと通話するが、今日は金曜日という理由であまり話さない。
と言うのも、俺たちは基本毎週土曜日はデートしてるからだ。
変に電話しすぎて寝不足になったら問題だからな。
まあ、他の日はよほどの予定がない限りはするんだがな。
「……さて、そろそろ寝るかね」
部屋の電気を消し、俺は明日に備えてさっさと寝ることにした。
翌日。
俺と沙夜は適当に朝飯を食べ、服を着替えた後、少しだけゆっくりしてから駅前に向かった。
時間は九時四十五分。
まあ、丁度いい時間だろ。
さて、ルナはどこにー、っと。
「お、いたいた」
「どこどこ? あ、ほんとだ。おーい、ルナさーん!」
俺がルナを見つけた後、沙夜が直後にルナを発見。
嬉しそうに破願させ、手を大きく振りながら大声でルナを呼ぶ。
こいつ、よく外で大声出せるな……俺、ちょっと恥ずかしいんだが。
向こうも気付いた(否が応でも気付く)ようで、俺たちの姿を見つけるなり、嬉しそうにしながら、ぱたぱたとこちらに駆け寄ってきた。
「おはようございます、彩羽ちゃん、沙夜ちゃん」
「おっはよう! ルナさん!」
「あぁ、おはよう、ルナ。今日も可愛いな」
挨拶と同時に、ルナを褒める。
俺は基本、こういうことは恥ずかしがらずに言う質だ。
事実だしな。
「ふふっ、ありがとうございます、彩羽ちゃん。彩羽ちゃんも可愛いですよ?」
「ぬぐっ……」
くっ、今の姿だとそう返されるのか……。
今までは、
『彩羽さんも、カッコいいですよ』
だったんだがな……。
「おー、すごい。ナチュラルに褒め合ったよこの二人! さっすが恋人!」
俺たちのやり取りを見た沙夜がからかう。
「うっせ。……んじゃ、早速行くか。ルナ、場所はいつものか?」
「はい。この辺りですと、あそこが一番品揃えがいいですからね」
「あいよ」
「それじゃあ、しゅっぱーつ!」
と、なぜか沙夜がリーダーかのように振舞うのだった。
ルナが言ったあそこ、というのは、つい最近買い物デートで使用したショッピングモール『サクラタウン』だ。
このサクラタウンは、俺たちが住む『桜神市』で最もでかいショッピングモールで、ここに来れば大抵何でも揃ってる、と言われるほどの品揃えを誇る。
食品、衣服、生活雑貨、娯楽物だけでなく、映画館やちょっとしたアトラクション施設なんかもあり、地元民じゃ人気の場所だ、
学生も休日とかでよく利用しているため、ちらほらとウチの学生も見かける。
ここは遊び場にもなるからな。
ちなみに、俺もルナとのデートでよく使ってるし、沙夜と出かける時もここに来てる。
俺が生まれる前からあるしな、サクラタウン。
「それで? まずはどこに行くんだ?」
「そうですね……最初は、無難にユニシロに行きましょう」
「本当に無難だな」
「無難だねー。でも、あそこなら彩姉ぇが気に入るような服があるかもよ?」
「あー……そう、だな。んじゃ、まずはそこに行ってみるか」
「はい!」
「おー!」
最初はユニシロに行くことになった。
……そして、俺のデスマーチが始まる。
「あー、ルナ? これはさすがに……」
ユニシロに到着し、俺は早速試着室に入れられた。
俺にも少しは選ばせろ、と言ったんだが、
『『お楽しみ!』』
と、仲良く声をそろえて言われちまった。
彼女と妹相手だから、二人ペアだと強く言えねぇんだよなぁ……。
よって、俺は試着室で待機。
待機からほどなくして二人が戻ってきたんだが、手渡された服を手に持って俺は微妙な表情を浮かべた。
「大丈夫です! 彩羽ちゃんなら似合います!」
「いや、そういうわけではないんだが……」
ってか、どこにそんな根拠があるというのか。
「彩姉ぇ! 大丈夫大丈夫! あたしとルナさんを信じて!」
「お前が混じってなきゃ、マイナス10%くらいで信じたよ、俺」
「彩羽ちゃん、それは結局マイナスでは!?」
「それくらい、嫌ってことだよ」
ぎょっとした目でツッコミを入れてくるルナに、真顔でそう返す。
「と、とりあえずでいいです! どのみち、彩羽ちゃんの私服購入にかかる費用は私が出しますから!」
「それ、完全に俺ヒモじゃね?」
「え? 彩姉ぇ、ルナさんと付き合った時点でヒモ人生確約状態だよね?」
「普通に働くぞ俺は!? ってか、バイトしてるし!」
「でも、彩姉ぇ今休んでなかった?」
「そ、そりゃお前……こ、こんな姿、だからな……ははっ」
「彩羽ちゃんが遠い目を……! 大丈夫です彩羽ちゃん! 彩羽ちゃんがもし、失業しても専業主婦になるという選択肢がありますから! むしろ、養います! 私!」
「それだけは断固阻止する」
「そんなっ! 一生働かなくてもいいんですよ!? お世話もうちの者がしますし、彩羽ちゃんは毎日自堕落に生活すればいいんです!」
「俺にヒキニートの称号を授ける気かお前は!?」
必死に言うことがヒキニートになっていいですよ、というのは明らかにやばすぎるし、そもそもそれを彼女に言われたのがショックなんですがマジで!
くっ、これが金持ちっ……!
「つーか、俺お前の親に将来会社の仕事を手伝うように、って交換条件出されたじゃねーか。お前との交際に関して言った時」
「それは彩羽ちゃんが彩羽さんだった時の話です。今はちゃんです。さんではありません。……というより、そもそも彩羽ちゃん。働かなくても普通に生活していけますよね?」
「ぬぐっ……!」
ルナの指摘に、思わず眉をしかめる。
「え、そうなの?」
この情報に関して、俺は沙夜には言ってなかったんで、きょとんとした様子だ。
「はい。たしか、『TS病』を発症させた人は、月二十万円が支給されます。無駄遣いさえしなければ、問題なく普通の暮らしが可能な金額です」
「すごっ! 彩姉ぇお金持ちじゃん!」
「い、いや、そうは言うが……俺、よほどがない限り使わんぞ……?」
「えー! いいじゃん! どうせお母さんたちからの仕送りもあるんだし、何かに使っちゃっても!」
もったいない、と言わんばかりの沙夜。
いや、言いたいことはわからんでもないが。
「使わねーよ! これはな、使わなきゃどんどん貯まるんだよ。だから、極力使わないようにして、将来――いや、なんでもねぇ」
言いかけて、俺は途中でやめた。
……言えるわけねーしなぁ、ルナの前で。
「彩羽ちゃん、今何を言おうとしたんですか?」
「気にすんな。下らねぇことだから」
「そんな~。教えてくださいよ~」
「言わねぇ! ……どうせ、いつかわかんだし……」
「むぅ~っ!」
「ふくれてもダメだ。……ってか、話すだけなら出るぞ? ここ」
「あ、そうでしたそうでした。……ささ! 着てください!」
思い出したように、ルナはどうぞどうぞとジェスチャーしながら、服を着るよう勧めてきた。
いやこれ……。
「……なんか、その……似合わないだろ、これは」
「似合います!」
「似合う!」
「お、おう……」
俺に手渡された服は……まあ、うん。
上は、やたら肩がむき出しのシャツ(多分、オフショルダーって奴だと思う)に、膝丈より少し上くらいのスカート。あとベルト。
プラスでニーハイ。
あー……。
「着なきゃ、ダメか?」
「「うん」」
「……俺、着たくねーんだけどなぁ……」
だが、着なきゃ試着室から出られない気がするし……仕方ねぇ。着るか。
カーテンを閉めて、着替える。
……そういやこの衣装、肩がむき出しだからブラの紐が見えるんじゃね……?
ま、いいか。どうせ、わかりづらいだろうし。
そんじゃま、ささっと着替えるかね……。
彩羽ちゃんが着替えを始めると、試着室の中からごそごそと衣擦れの音が聞こえてきました。
たまに、
「こう、か? いや、こうだな」
という声が聞こえてきて、どうやら試着に難儀しているみたいです。
彩羽ちゃんは数日前までは男性でしたし、最初は慣れませんよね。
気長に待ちましょう、と思っていると、
「お、おい、着れたぞ」
やや遠慮がちな彩羽ちゃんの声が聞こえてきました。
来ました!
「わかりました! それでは開けますね!」
「おう……って、ま、待て! まだ心の準備がっ――!」
私は、彩羽ちゃんの制止も聞かず、バッ! と勢いよくカーテンを開けると、そこには……。
「ちょっ、ま、マジで心の準備くらいくれよ……」
顔を真っ赤に染め、恥ずかしそうにする彩羽ちゃんの姿が。
こ、これはっ……!
「おー!」
「か、可愛い……」
「あ?」
「可愛いですっ! 彩羽ちゃん!」
「お、お、おう……そ、そうか……」
オフショルダーの彩羽ちゃん、しかもミニスカート+ニーハイソックス……! ブラ紐も見えていますし……!
「私の目に狂いはありませんでしたッ……!」
「お前、嬉しそうだな……」
「それはそうですよ! 彩羽ちゃんはダイヤの原石! いくらでも可愛くできると思っていましたから! ね、沙夜ちゃん!」
「うんっ! いやー、彩姉ぇの肩だしいいね! 肌綺麗だし!」
わかります、沙夜ちゃん!
彩羽ちゃんの肩だしスタイル……眼福です!
やはり、彩羽ちゃんの完璧な体は素晴らしいですね。
「ぐっ、そ、そうやって褒められると……照れるんだが……」
「照れた彩羽ちゃんも可愛いです! これはもう、買いですね!」
「買うのかこれ!?」
「はい。買います。そして、彩羽ちゃんには是非とも、今後とも着てほしいと思っています」
可愛らしい服を着て一緒にデートしたいですし。
「……まだ、一着目、しかも一店舗目なんだが……」
「気に入ったら即買いです。私は今日、そうするように決めていますから」
「お前、ノリノリすぎんだろ……」
「むしろ、可愛い人に似合うお洋服を選ぶことに、ノリノリにならない人はいないと思います」
「たしかに!」
「……」
あら、彩羽ちゃんが頭が痛そうにしていますね。
ですが、ここで妥協しては、御縁家の名が廃ります!
とは言っても、私が単純に彩羽ちゃんの可愛い姿を見たいだけなんですが。
「それでは、そのワンセットを購入したら、次のお店に行きましょう!」
「賛成!」
「ん? 次の店? ここはもういいのか?」
「はい。このお店で彩羽ちゃんに似合う、ベストな物はそれだけですから。ささ、着替えて行きましょう!」
「……マジかー」
そんな、彩羽ちゃんの辟易としたため息が聞こえましたが、私と沙夜ちゃんの二人はうっきうきで移動を始めました。
「な、なぁ、ここは……なんだ?」
次のお店に到着するなり、彩羽ちゃんは苦い顔をしました。
「えっと、女性服専門店ですね。よくありますよ?」
「そうだよ、彩姉ぇ。何か問題があるの?」
「いや、問題ってーか…………ここ、なんかファンシーすぎね……?」
彩羽ちゃんがそう評したお店は、『Cute&Cute』という、可愛い系のお洋服専門のお店。
『可愛ければなんでもOK!』が売りのお店ですね。
ここにあるのは、どれも可愛い系の物ばかりで、そういったファッションが好きな人たち御用達のお店なのです。
「そうですか? でも、たしかにこのお店は可愛い系のお洋服が多いですが、今の彩羽ちゃんなら問題ありません」
「単純に恥ずいんだが……」
そう言って、頬を掻く彩羽ちゃん。
たしかに、元男性であれば、このお店を見ると少しだけ恥ずかしいと思えるかもしれません。
何せ、これから着ることになりますからね!
ちなみに、入ってすぐフリルが多くあしらわれたお洋服がお出迎えします。
『いらっしゃいませー。何かお洋服をお探しですか?』
「はい。こちらの方に似合うお洋服を購入しようと思っていまして、何かありますか?」
『まあ! とても可愛らしいお客様ですね! えぇえぇ! もちろんございます! ささ、こちらへどうぞ!』
彩羽ちゃんを一目見た瞬間、店員さんは目を爛々とさせて、彩羽ちゃんの手を引っ張って試着室へ連れて行きました。
「おー、店員さんの目がきらっきらだ! 彩姉ぇさっすが!」
「何が!? って、ちょっ、この店員力強っ!?」
振り払おうとする彩羽ちゃんでしたが、思った以上に店員さんの力が強かったらしく、引きずられるようにして連れていかれました。
「ルナさん、あたしたちも行こ!」
「はい。彩羽ちゃんに似合うお洋服を見つけましょう!」
「うん!」
さぁ、着せ替えショーの始まりです!
十数分後。
「……ごふっ」
カーテンが閉められた試着室の中から、血反吐を吐くような声が聞こえてきました。
彩羽ちゃんに一体何が!?
「彩羽ちゃん? 大丈夫ですか? 開けますよ?」
「い、いや、開けるな! 絶対開けるな!」
「それは振りですね! では開けさせてもらいます!」
「ちょっ、まっ――!」
彩羽ちゃんの制止を聞かず、私は試着室のカーテンを勢いよく開け放ち、その先に広がっていたのは、
「み、見るなぁっ……!」
顔を真っ赤に、恥ずかしそうに体を抱いている彩羽ちゃんがいました。
しかも……
「か、可愛い……可愛すぎますっ!」
ひらっひらで、ふりっふりな洋服を着て!
え? え? なんでしょうか、この可愛い人は!
今彩羽ちゃんが身に着けているのは、ロリータ系のワンピース。
黒を基調に、リボンやフリルの一部が赤くて、彩羽ちゃんによくお似合いの服装。
しかも、お人形さんみたいですし……はぁぁぁぁ~~~~っ! 可愛い!
綺麗系な顔立ちですけど、こういう可愛い系のお洋服が似合うなんて……彩羽ちゃんのポテンシャルが凄まじい!
「おー、彩姉ぇロリータ系似合うねぇ! ほんとに可愛い!」
「や、やめてくれぇ……こんな俺を見ないでくれぇ……!」
よっぽど恥ずかしいのか、彩羽ちゃんは顔を真っ赤にして両手で覆ってしまっています。
その恥ずかしがる姿すらも魅力……!
『お客様、よくお似合いですよ! 誇っていいです!』
「誇れるかっ!」
店員さんの誉め言葉に、彩羽ちゃんは嚙みつきました。
「次、次こっち着て彩姉ぇ!」
「い、嫌だよ! こんなひらっひらした服! ってか、俺の内面的に似合わねーだろこれ!?」
「いえ! そんなことはありませんっ! 俺っ娘な女の子且つ、綺麗系の美少女さんが、その正反対とも言える、可愛い系の代表的なロリータ系のお洋服を着るギャップが素晴らしいんです! 似合ってます!」
「なんでそんなに熱いんだよ……」
「彼女ですからっ!」
「……」
やっぱり、彩羽ちゃんは可愛いです。
「というわけだから、これ着て! ね? ね?」
「……拒否権は?」
「「ない(です)」」
「…………ちくしょーめ」
泣きそうな表情で、彩羽ちゃんはカーテンを閉めました。
ごそごそと着替えをする音が聞こえ、音が無くなったのは大体五分くらい経過した後でした。
「着替え終わったー?」
「……一応、な」
中から聞こえてきた返事は、少しだけ沈んでいるように感じました。
そんなに嫌なんでしょうか?
「じゃあ開けるぜー」
テンション高めで、沙夜ちゃんがカーテンを開けました。
そこには、またしてもロリータ系の服を着た彩羽ちゃんが!
「さっきよりかはマシだけどさ……これ、変じゃね……?」
自身の体を見下ろしながら、彩羽ちゃんが困ったように呟きました。
次に彩羽ちゃんが着た服は、シャツと上着に、スカートとニーハイソックスのセットでした。
白いシャツには大きめなリボンが付いていて、色々なところフリルが付いていてキュート! スカートは灰色がメインで、太腿の中ほどの丈なんですけど、よく見ると、二重構造になっているみたいで、白いフリルも見えました。うん、可愛いです!
上着もスカートと同じ色ですけど、よく見るとフード付きのパーカーのようなデザインで、フードには猫耳があって、腰元にはリボンもついていました。
こ、これは何と言いますか……
「シンプルな可愛さ……! しかも、猫耳が付いているのがポイント高いです! 彩羽ちゃん、とってもキュートですよ!」
「……お前、本当に楽しそうだな……」
「彩羽ちゃんが可愛いお洋服を着てますから!」
「そっすか……」
フリフリなお洋服もいいですけど、こういうシンプルなお洋服が一番かもしれませんね。
あとは、キャスケットとかもあるといいかもしれません。
「とりあえず、ここのお店は終わりにしましょう。あ、店員さん。いま彩羽ちゃんが着ているお洋服と、先ほどのお洋服は買わせていただきます」
『ありがとうございますっ! 今現在試着中の物は、そのまま着ていきますか?』
「それは嫌――」
「お願いしますっ!」
「ルナ!?」
「グッジョブルナさん!」
『かしこまりました! それでは、先ほどのお召し物は袋に入れさせていただきます』
「お、俺の私服……」
「それも私服になるので、モーマンタイですね!」
「問題だらけだよ」
真顔でツッコミを入れられました。
可愛い系のお洋服を購入して、私たちは次のお店に。
「はぁ……次はどんな店なんだか……俺、可愛い系はもう嫌だぞ……?」
「安心してください、彩羽ちゃん。次はきっと気に入りますよ」
「ほんとかぁ……? 俺、お前と沙夜のにやけ顔を見るだけで、ぜんっぜん信用できねーんだが。……実際、さっきの店の服、着させられたまんまだしな……」
着ている服の襟首辺りに指をひっかけ、ややどんよりとした雰囲気で話す彩羽ちゃん。
すごーく嫌そうな表情ですけど……。
「可愛いので大丈夫です!」
可愛さの前では、無力ですね!
「うんうん! 彩姉ぇの可愛さは世界一だから安心して! というか、あたしは彩姉ぇの可愛さで自慢できるからOKOK!」
「お前、そんなこと考えてたのかよ」
「ふっふっふー。これでも、彩兄ぃが、彩姉ぇになってから、あたしたち『美少女姉妹』という風に言われ始めてるからね!」
「なんだと!? 初耳なんだが!」
「だろうね。彩姉ぇ、そういう噂全然気にしないタイプだし」
「ぐっ……な、なぁ、ルナは知ってたのか……?」
図星を突かれるも、気を取り直して私に噂について尋ねてきました。
「そうですね。僅か数日で、瞬く間にそういう風に言われるほどでしたし。むしろ、彩羽ちゃんの耳に入っていないことにびっくりです」
「なん、だと……」
あ、本気でショックを受けてますね、これ。
彩羽ちゃんの噂を気にしないというところは、決して悪いことではなく、むしろいいことだとは思うんですけど、それでも多少は気にした方がいいのかもしれませんね。
「これを機に、色々と気にしてみてはどうでしょう?」
「あー……」
「そうそう。彩姉ぇは気にしなさすぎなんだし、ちょっとは噂に耳を傾けよ? ね? ね?」
「…………はぁ、そうだな。もしかすると、変な噂が立ってるかもしれねーしなー……今度から気を付けるわ」
おぉ! 彩羽ちゃんが気にし始めました!
いいことです!
「んで、次の店ってのはどういう服を売ってるんだ?」
「あ、はい。次のお店は……あ、見えてきました。あそこです」
「ん? ……見た感じ、カジュアル系、か? いや、にしてはやたらクール系が多い気がするな……」
「はい。あそこは彩羽ちゃんが呟いたようなお洋服を取り扱うお店です。さ、行きましょう!」
「あ、あぁ」
私は彩羽ちゃんの手を引っ張って、お店へ入って行きました。
再び試着室。
もうカットです、カット。
今回、彩羽ちゃんに着てもらうのは、ずばり、カッコいい系です!
彩羽ちゃんはもともとカッコいい人でしたし、今は綺麗系の美少女さん。
であるなら、カッコいい感じのファッションの彩羽ちゃんを見たくなるわけで。
正直なところ、可愛い系よりもこっちがメイン、と言っても過言ではありません。
現に、私と沙夜ちゃんはわくわくしてますしね!
「……あー、とりあえず着れたんだが……」
「わかりました! では早速見させていただきます!」
「少しは躊躇ってくんね!?」
「「無理でーす!」」
「沙夜まで!? あ、ちょっ――」
シャーッ! と勢いよくカーテンを開け放ちました。
するとそこには……
「あ、あー、どうだ? 変じゃなきゃいいんだが……」
「……Oh」
「これは……」
「お、おい、二人とも? なんか言ってほしいんだが?」
あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!
な、なんですかなんですか!? このカッコいい人は!
あ、いえ、私の彼女さんなんですけど!
ちょっとした軽い気持ちで、黒のショートトップスとカーゴパンツを渡してみたんですけど……ど、どうしましょう! 似合いすぎて鼻血出そうです!
「ってか、なんでまた肩出しなんだ? しかも、へそ出しだしよ……あと、肩は剥き出しなのに、袖はあるのな」
などなど、服の感想を彩羽ちゃんが言っていますが、今の私に彩羽ちゃんの感想は聞こえてきていませんでした。
それ以前に、魅力的すぎて……!
あと、セットで黒のキャップも渡してみたんですけど、もうピッタリすぎますよこれ!
「お、おぉ……い、彩姉ぇがすっごいかっこよく……!」
隣にいる沙夜ちゃんも彩羽ちゃんの姿に、見惚れているみたいです。
姉妹であっても、見惚れてしまうほどなんですね、彩羽ちゃんは。
「……ふふ」
「ん、どうしたルナ? 急に笑って」
「いえ……私、心の底から彩羽ちゃんと恋人でよかったなぁ、って思いまして」
「なんで!?」
「彩羽ちゃんのその恰好がもう……カッコよくてカッコよくて……今にも鼻から鼻血という幸せビームを発射してしまいそうなくらい、魅力的すぎて……」
「鼻血を幸せビームとか言うなよ」
「……彩羽ちゃん」
「あ、あぁ、なんだ?」
「いや、もう、本当に無理ですこれ。私、決めましたよ」
「何を?」
「……この後、指輪を買いに行きましょう」
「………………んんっ!?」
私が発した言葉に、彩羽ちゃんは一瞬固まったのち、驚き顔をしました。
もう駄目ですね、これは。
私の愛が抑えられそうにありませんよ!
「たしか、このショッピングモールにはブライダルジュエリーを専門に扱うお店があったはず……行きましょう! 行って、今すぐ! 指輪を買いに行きましょう!」
「待て待て待て待て! 落ち着けルナ! 気が早すぎるって!」
「早くなどありません! いずれ結婚するんです。それが少し早まっただけです!」
「いやいやいや!? 少なくともまだあと一年あるんだが!?」
「一年なんてあっという間です! 特に、二年生はやることが多くて余計にあっという間だと聞きます。それなら、今すぐしておいても問題はありません!」
高校二年生という時期は、後輩と先輩の板挟み状態。
さらに言えば、進路に関する授業も増えてきます。
行事だって増えますし、何かと忙しい時期なので、あっという間になることでしょう。
私のお兄様とお姉様の両名共に、一番忙しかった、そう言っていましたから間違いありません。
「問題しかねーよ! ってか、そう言うのはせめて俺の方からやらせてくれよ!」
「え!? 彩羽ちゃんが買ってくれるんですか!?」
まさか、彩羽ちゃんからそう言ってくれるなんて……。
「未来でな!」
「……今じゃないんですね……」
彩羽ちゃんの返しに、落胆しました。
未来ですか……。
「当り前だろ。むしろ、今すぐはちょっと……」
「むぅ……いいと思いましたのに……」
「何をもってして、高二で婚約指輪を買ってもらえると思ったのか」
「気合と愛?」
「それでできたら、世の中のカップルみんな買ってるわ」
「まー、ルナさんの家、お金持ちだもんね。やっぱり、その辺りの価値観がずれてるのかな?」
「おい、沙夜。そういうこと言うんじゃねーよ」
「っとと、そだね。ごめんなさい、ルナさん」
「あ、いえ、お気になさらず。むしろ、ちょっと冷静になれました。すみません、彩羽ちゃん。少し暴走してしまって……」
「少し? あれが少しなのか?」
少しです。
誰が何と言おうと、あれは少しです。
「……ったく。婚約指輪は未来に投げるとして……服はもうないのか? ないなら終わりでいいだろ、これ」
「あ、はい。そうですね。他にも色々とあるんですけど……このお店には、彩羽ちゃんにお似合いのお洋服ばかりで、時間がいくらあっても足りないので、また今度にします」
「そんなにあんの!?」
「うん、あるねぇ。彩姉ぇ、カッコいい系似合うし」
「そりゃ……まあ、元男だし」
それは関係ない気がしますが、言わないでおきましょう。
彩羽ちゃんだって、女の子になってしまったことには多少思うところもあるでしょうし。
「では、それを購入して行きましょうか」
「了解だ。……んじゃ、これを着て――」
「「さっきのお洋服(服)でお願いします」」
「畜生っ!」
彩羽ちゃんの慟哭を無視しつつ、私たちはお店を出ました。
「はぁ……前の生活から想像もできねーよ、これ……」
「まあまあ、今さっきのお店で服選びは終わりだから」
「だとしても、だ。俺、元男なのに、こんな可愛い服を着させられるとは……」
自分の服装を見下ろしながら、俺はため息交じりに呟く。
気持ち的に、嬉しいわけはない、よなぁ……。
いやまあ、この二人、特にルナに褒められるのは嬉しいっちゃ嬉しいんだが、『可愛い』と褒められるのはあまり嬉しくはねぇよなぁ……。
『TS病』にならなけりゃ、こんなことにはならなかったんだろうが……
「~~~♪ ~~♪」
目の前で鼻歌を歌いながら、嬉しそうにするルナを見てると、まあいいか……という気持ちになる辺り、やっぱ心底惚れてるんだな、と認識させられる。
しかし……。
「俺、やっぱこういうの似合わねーだろ……」
如何せん、この服に関してはそこまで似合ってるようには思えない……というか、似合わないだろと。
元の体が、まあ……筋肉質でところどころ傷があったからなぁ。
「性格とのギャップがいいんですよー」
そう言いながら、にこにこ顔のルナ。
可愛い、可愛いんだが……それは俺に向けないでほしいところだ。
ってか。
「こういうのは、ルナの方が似合うだろ。性格とかビジュアル的に」
可愛い服担当は俺じゃなくて、ルナだろ。
「そうですか? ですが、褒めてくれてありがとうございます」
「彩姉ぇ、多分無駄だよ」
「……だな。仕方ねぇか」
これはもう、諦めるしかないわ。
「……それで? これからどうするんだ?」
「あ、はい。そろそろお昼にしようかなと」
「そうだな……そろそろいい時間だし、飯にするか。で、どこに行く?」
「私は、そうですね……和食でしょうか」
「あたし、洋食」
「彩羽ちゃんは?」
「俺? そうだな……たしか、串揚げ食べ放題の店がここにはあったな……前々から気になっててよ、そこがいいと思ってる。だがまあ、油物なんで嫌だったら別にいいからな」
年頃の女子的には、カロリーとか気になるだろうし。
俺の場合は……どうなんだ?
噂では、『TS病』を発症させた人は、太りにくい体質になるらしい。
それ故に、大食いに目覚めた発症者もいるとかいないとか。
その噂が本当であれば、俺はあまり気にしないでいい、という事にはなるが……それは俺だけの話。
この二人は純粋な女子なんで、太る、ということには敏感なはずだ。
まあ、ダメもとで言った提案なんで、別にいいんだが。
「いいですね。私、串揚げって食べたことが無いので、食べてみたいです!」
「おー、彩姉ぇ、良い提案だぜー。そこにしよ!」
「いいのか? こう言っちゃなんだが、カロリーがえらいことになるぜ?」
「一食くらい平気ですよ。さすがに、連日はアウトですけど」
「そりゃそうだ。んじゃ、早速行くか……っと、悪い。トイレ行ってくる」
いざ出発、といったところでトイレに行きたくなった。
「あ、はい。では、私たちはあそこのベンチで待ってますね」
「あぁ。悪いな。すぐ戻る」
そう告げて、俺は一旦二人から離れた。
「ふぅ……」
トイレから出て一息。
なんか、この体になってからというもの、以前よりも近くなった気がするな……。
というか、前の体の感覚で我慢しようとすると、漏らしそうになるのが困る。
早いとこ慣れないとだな、これ。
じゃないと、いつ暴発して社会的死を迎えるからわからん。
こういう時、発症者は苦労するな……。
「しっかし、少し遠い位置だったな」
最初は別れた付近にあるトイレに行こうとしたんだが、そこはなぜか空いてる個室がなかったため、仕方なく少し離れたところへ。
男と違って、色々勝手が違う、って言うのも厄介な点だ。
男は二種類あるが、女は一種類しかないんで、結果的に待つ時間が長くなる。
そういや、去年のクリスマスとか、イルミネーションが綺麗な場所に言った時、やたら女子トイレは混んでたっけな……。
今年から、色々と困りそうだ……。
「さて、あいつらはー、っと……ん?」
ルナたちが待つベンチの所まで行くと、何やら少し騒がしい。
何かイベントでもやってるのか? と疑問に思いつつ、俺はルナたちのもとへ向かうと……
「すみません、私たちは待っている人がいるので、あなた方と一緒には行きません」
「そうだそうだ! あたしたちは、人を待ってるの!」
『いいじゃん、どうせ碌な奴じゃないんだろ? なら、俺達と一緒に遊ぼうぜ?』
そこには、何やら複数人の男に絡まれてるルナと沙夜の姿があった。
あれ、どう見てもナンパ、だよな……?
しかも、時代錯誤も甚だしい奴。
……なんだろうな。彼女と妹の危機だってのに、妙に冷静な俺がいる。
いやまあ、理由はわかるんだが……。
『こちらα。お嬢様、並びに、彩羽様の妹様が不埒な輩に絡まれております』
『了解した。危険行動をしようとしたタイミングで介入せよ』
あいつの家のボディーガードが、な。
しかも、一般客に紛れ込んでるんで、傍からじゃ全然わからん。
だが、明らかに不自然なほど自然な体捌きなんで、なんとなくわかる。
あと、サングラスは外せ。
っと、呑気に考えてる場合じゃないな!
『なぁ、いいだろう? きっと楽しいって』
「嫌です」
『あー、埒が明かねー。いいから一緒に――』
「おい。俺の彼女と妹に手を出そうとすんじゃねーよ」
俺は手を掴まれそうになってるルナの前に割り込み、男の腕を掴んだ。
「彩羽ちゃん!」
「彩姉ぇ!」
「ったく、お前は可愛いんだから、もうちょっと気をつけろ。いや、まさかこんな人目が多い場所で堂々と、ナンパする方もナンパする方だが」
『なんだと? って、ヒュー! 姉ちゃんもイケてるじゃん。姉ちゃんも一緒に――』
「行くかバカ野郎。こちとら、彼女と妹の三人で遊びに来てんだよ。あ、いや、デートだデート。妹がいるが、デートしてんだよ。邪魔すんじゃねーよ」
妹がいようが、今日という日はデートと言える。
こーんなどこの馬の骨ともわからん男共なんかに邪魔されてたまるかってんだ。
『なっ、テメェ――』
リーダー格らしき男が逆上する。
手を振り上げて、こちらを殴ろうとした……のだが、
『待ってくれ!』
男たちの内の一人が、リーダーっぽい男を止めた。
『なんだよ、止めんじゃねーよ』
『兄貴、よく考えてみてくださいよ。今しがた、この姉ちゃん、そっちの銀髪の嬢ちゃんのこと彼女って言った上に、デートって言いましたぜ?』
『あ? それがなんだよ』
『おそらくこの二人……百合カップルです!』
『いきなり何言ってんだお前』
それは俺も思うぞ、リーダーっぽい奴。
ってか、何この状況。
『百合に挟まる男は、ぶっ殺されます』
『物騒だろ!?』
『そうです、物騒なんです! ですんで、ここはやめましょう。というか、俺が兄貴を殺します』
『こっわ! お前こっわ!?』
『あー、すいませんね、お三方。うちのバカな兄貴にはきつく言い聞かせておきますんで、ご容赦を。とりあえず兄貴は、百合系のアニメ、もしくはマンガを見るところから始めましょう』
『ちょっ、なんだお前!? 普段の下っ端感はどこ行ったんだ!? お、おい、他の奴らも……って、布教済みだとぅ!? お、おい、離せや!』
謎のコント? らしきものを繰り広げたのち、男たちは去っていった。
「一体、なんだったんだ……?」
わけのわからない状況を目の当たりにして、俺は困惑した。
一応ナンパ……だったと思うんだが、一人を除いて全員が百合好きだった、ってことでいいんだよな?
だとしてもなんだ……この釈然としない気持ちは。
「彩羽ちゃん、さっきのって……」
「……まあ、大きな騒ぎにならなかったんだし、とりあえず、飯行くかー」
「あ、はい」
「OK!」
目の前で起きたことを忘れ、俺たちは目当ての店へを向かうのだった。
その後、昼飯を食べた後、ゲームセンターに行って遊んだり、ちょっとした雑貨屋に行ってアクセサリーなんかを見たりなどをして、その日は解散となった。
かなり充実した一日になって、大満足だ。
できることなら、今後のこういう日常であるとありがたい限りだ。
彼氏×彼女→彼女×彼女になったカップルの日常の話 九十九一 @youmutokuzira
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