第2話 運転免許と母

 高校3年の時、大学には電車で通うから必要ないと取らなかった運転免許。大学に通うようになってから少し出かけるときの移動手段が欲しくなり親に原付の免許を取りたいと相談した。その話を聞きつけたおじいちゃんがお金は全部自分が出すから自動車の免許も取るように言ってきた。もちろん親はありがたいばかりで反対する理由もなく、すぐに手続きは済んだ。

でも要領が悪い私は自動車学校に通い始めてから3か月も仮免許が取れずおじいちゃんからも「早く俺を乗せてくれ」なんて言われて親戚が大勢いるところで話のネタにもされた。

「私、原付だけでよかったのに。」

「まぁまぁそう言わずに、自分のペースでいいからもう少し頑張ってごらん。」

私が愚痴を言うといつもお母さんがそれに答えてくれた。自分でもそんな愚痴言わずにおじいちゃんがお金まで出してくれたんだから最後までやらないといけないことなんてわかってる。お母さんはそんな私の考えまでわかっているかのようにいつも私に寄り添ってくれた。雨の日は車で送ってくれて、家を出るときには見送ってくれて、私が行きたくないなんて駄々をこねると「たまには休んでもいいんじゃない?」と言ってくれてメンタル面でもすごく救われた。お父さんはというと口を開けばまず「俺を1番に乗せてくれ」だ。あきれて言葉も出なかった。ちなみにお母さんは「あんたの運転する車は怖くて乗れないね」と笑ってた。そこまで言わなくていいのに。

それから3か月、トータルで6か月もかかって自動車学校を卒業した私は念には念をということで徹夜で勉強して本試験に挑んだ。試験が終わって免許センターの外に出るとお母さんが迎えに来てくれていた。お母さんは「お疲れ様」とだけ言うと車の助手席を開けて私に乗るように言った。私はお母さんの隣に座りバッグに入れていた水を少し飲んだ。

「ねぇ、私が家まで送っていこうか?」

「冗談でもやめてくれ。」

2人で大笑いして帰った。

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こころに響かないかもしれない話 日暮茜 @higurasi_akane

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