第二膳 前半 『カレーの冷めない距離』
ギイィ、タン!
古くて重い
あー。やはり懐かれたか……。
私の人柄というよりは、料理のせいであろう。「茶漬け」をたいそう珍しいそうに、おいしそうに食べておったから。
「まぁ、入れ。」
そう言うと柱の陰から覗かせていた顔が嬉しそうにほころび、天井の高い薄暗い空間にひときわ明るい色が入ってくる。
はじめて会った時は驚いた青い玻璃のような瞳もよく焼けた卵焼きの色の髪も、さすが三度目ともなると少しは慣れた。手には小さな箱があり、その中で鈴の音がしている。
きっと先日のお礼にと、何か土産でも持参でわざわざ訪ねてきてくれたのだろう。
竈の前に立つ私の横に来ると少年は鼻をひくひくとさせ、何とも言えない笑顔を浮かべる。
で、あろうの。
部屋の中いっぱいに香辛料の香りが広がっておるのだ。
「今日はカリイと申すものを作った。良かったら食べていかぬか?」
くつくつと煮えている鍋を指差し、続けて食べる仕草をしてみせる。
子どものちょっと驚いたたような表情。
内面で葛藤しているのか、やたらと足元と天井で視線を往復させている。
その間に私は勝手にカリイの支度をはじめる。
そのようなつもりで参ったわけではないことも分かってる。
図々しいと思われるのが嫌なのも分かっている。子どもには子どもの矜持というものがあろう。
しかしカリイの誘惑に勝てる人間はそうそういない、と私は思う。
今のところ同輩には理解者はおらぬのだが。確かに慣れぬ間は漢方のような匂いに閉口したものだ。
「実はまだ試作でな。試しに食べてみてくれぬか。それに一人で食べるより二人で食べる方がもっとおいしかろう。」
真新しい指南書通りに作ったカリイを硬めに炊いた米のぐるりに注ぐ。土間の隣の板間に箱膳を出して皿を乗せると、子どもを手招きする。
子どもはいそいそと板間に上がった。
お腹がグーと鳴る音が『いただきます』の代わりだった……
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