魔術師になりたかった男

ボン

第0話 パイカル登場

2015年4月初旬、


どうやらあの「パイカル」がいるらしい。編入生オリエンテーション会場の教室の各所から囁き合う声が聞こえて来た。


俺はスマホで「パイカル 高専」で検索してみる。

ヒットしたページを開くと


そこには長髪で片目を隠すようにした白面の青年の画像とプロフィールが出て来た。

「パイカル」の異名を取るプロゲーマー、エクストリームスポーツアスリートとある。



本名「白 乾児」(ツクモ ケンジ)

1995年4月1日

東京都生まれ

身長175㎝

血液型B型

都立工科芸術高等専門学校(バウハウス)卒業


2010年〜2014年 インターナショナルe-スポーツフェスタ シューティングゲーム部門優勝。

2013年 北米パルクール選手権優勝

2014年 TVスポーツ特番「サルトビ」完全制覇。

2013年 Wintel 国際学生科学技術フェア 最優秀賞


「圧倒的な身体能力を持ちエクストリームスポーツ、またe -ゲームなどで活躍中だがチートもここまで来るとむしろ清々しい。」とある。

だがネット情報が正しいとは限らない。

実際の俺の風貌は正面から見ると日本人だが横顔は西洋人という絶妙なバランスで成り立っており、なめし革のようなブロンズ肌に鳶色の鋭い眼差し。

まあ自分で言うのも何だがワイルドだが洗練された不良といった印象だ。


今日は朝から工学部の編入生向けオリエンテーションが行われていた。

この大学では基本的に他大学からの編入生の受け入れを行なっていないのだが、工学部のみが毎年、高専卒業者を対象に十数名程の編入生を受け入れており、今年度は14名がここに居た。


俺が通っていた高専は別名「ハッカーのホグワーツ」と言われ、全国からプログラミングやデザインに詳しいオタクが集まっており、かくいう俺自身、3DCADによるデザイン分野では幾つもの賞を取り、コンテスト荒らしなどと言われている。


元々高専卒業後はアメリカの大学に進学するつもりで、一年間アメリカの高校へ留学して現地の高校の卒業資格を取るかたわら、高校生の「科学のオリンピック」と言われるWintel国際科学フェアでも大賞を取り、800万円相当の賞金を得た上にカーネギーメロン大学への奨学金付入学資格まで手に入れた。

他にも趣味と実益を兼ねたアルバイトにとe -ゲームや各種スポーツイベントに参加したのだが、実際自分がこれ程の成果を出せるとは思っていなかったが。


だがそんな俺に大きな転機が訪れた。ニューヨークにあるミリタリースクールの卒業を1月後に控えた時、俺にとって数少ない親族である伯父が交通事故による不審な死を遂げたのだ。

当時左翼政権から保守政権が帰り咲いたのと

同じくして、官僚の不審死が相次いで起きていた中、自衛隊の統合幕僚本部で要職に着いていた伯父が亡くなった事でネットなどでは暗殺説などが囁かれた。

帰国後、伯父の四十九日の供養と形見分けを終えたある日、俺宛にタイムカプセル郵便が届いた。

そこには、銀行の貸金庫のものらしきキーが入っており、後の事を俺に託すと書かれていた。


金庫には遺言と俺の名義のDINKS用マンションの登記簿と学資保険の証書が入っていた。

そして遺言に沿う事が伯父への弔いであり、何よりも正しい事と思えた俺は

実家を出て、太田区のマンションに移り、受験の準備を始めた。

うまい具合に高専からは芸大を除く殆どの国公立大学への編入ルートがあり、また試験科目も一般の受験生と比べ少ない。

これは受験生を振るいにかけるというよりも、大学の講義について行けるかどうかを見るためのものだからだ。


俺は都内にある国立大学の建築科を受験したが受験科目は英語、数学と面接だけだった。


試験は高専の卒業研究に配慮して初夏に行われ、合格通知と共に送られて来た筆記試験の点数は、どちらも平均スコアは9割に達していた。


また出願時には高専よりの推薦書に参考資料としてTOFLE 100点のスコアを提出した事もあってか、2次面接は英語で行われたが、「アメリカではミリタリースクールに留学したのは何故か?」という問いには「元々親の仕事の関係で中学の2年間を同じニューヨークのミリタリースクールに通っていた事。」「最新のサイバーセキュリティーに興味があった事。」、「フェンシングチームがニューヨークでは強豪である事。」

当時にそれらを総合的に考えた場合、最適解だったと思う。と答えた。


それらを答えたところ、「フェンシングでオリンピックに出るつもりはあるか?」と聞かれたので、「選ばれれば是非出たい。」と答える。

また併願校はあるかとの問いに、「ペンシルベニアのカーネギーメロン大学への入学資格を得ているが、海外へは国内の大学を卒業後に再びチャレンジしても良いのではと考えている。」と伝えたが、特に親父の事は聞かれなかった。



編入生向けオリエンテーションを終えてその後、学生課で学生証を受け取ると、各種の手続きを行う。

夜はオリエンテーションの司会進行を務めた昨年編入組の学生達が幹事となり、渋谷で歓迎会が行われるという事だが、明日は本郷校舎にて健康診断を受けてから、

駒場での新入生向けオリエンテーションに参加する事になる。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔術師になりたかった男 ボン @bon340

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る