最強だった妹のアホ毛を直したら昔より最強になる事が判明した

白悟那美 破捨多

第1話「妹のアホ毛が直ったら最強だった」

これは、俺が妹と本当の幸せを手に入れるまでの物語である。


桜も散り、ゴールデンウィークという束の間の休息も終え、新しいクラスにも慣れ始めた5月中旬の教室。一限の授業を知らせるチャイムがなり、教師が入ってくる。


「えぇ、それではこの前やった小テストを返していく。今回はかなり難しく作ったため、中々高得点を取れる奴はいなかった。範囲が広かった上にマニアックな問題が多かったからな。だが、そんな難しいテストでも1人だけ100点を取った奴がいる」


授業開始早々、前回の授業で行った小テストの返却に、眠たそうな顔をしていた生徒達が怪訝な表情を浮かべ野次を飛ばす。

「あのテストで100点?だったら1人しかいねえよな」

「どうせ、綾瀬あやせだろ。あいつ頭良いしなー」

「間違いないよ。優秀な綾瀬くんだもん」

「だよねー。彩っちいつも100点だしー」

「はいみんな静かにー、さっそくテスト返していくぞー。出席番号順に取りに来い」


教師が生徒達の声を収め、早速テストの返却が始まる。1番目の生徒が余裕そうな表情で教卓に近づき、教師が満面の笑みを浮かながら言う。


「今回も100点だ。綾瀬、先生は嬉しいよ」

「いえ、これも先生のおかげですよ。先生の教え方が上手いから、僕も勉強がしやすかったんです」

「全く!嬉しいこと言ってくれじゃないか」

「流石綾瀬だよな。相変わらず優秀は伊達じゃないな!」


この綾瀬あやせ 士莎しさはよく「優秀」と言われる。

スポーツ、音楽、勉強、人柄、どれをとっても「優秀」としか言われたことがない。

大抵の人間ならばそれで良いのだろうが、俺はそれについて納得していない。


何故ならば、俺にはもっと優秀な妹がいるからである。幼少期から俺より何もかも才能が上だった妹だが、いつの間にかその妹はアホになっていたのだ。あんなに優秀だった妹がアホになり、俺は困惑していた。


だが、最近ある仮説を立てたのだ。


俺の妹、綾瀬あやせ 魅舞みまには知らない間にアホ毛が生えていた。

それこそが魅舞がアホになった原因だとは考えている。

魅舞は俺と同じ、この王山帝学園おうやまみかどがくえんの1年生で、俺は2年生だ。

王山帝学園は偏差値72の難所と言われているのにも関わらず、何故アホになった魅舞が受かったのかは全く分からない。

確かに昔の魅舞ならば、既にハーバードレベルの勉強はできていたが、今の魅舞はカタカナのツとシの区別もつかない程なのだ。

それがよくこの高校に受かったものだと、合格発表当日は姉と一緒に驚愕した。

なんやかんや普通に生活をしているが、俺は昔の魅舞に戻って欲しいと思う。

それは、俺が今まで努力していたのは、魅舞を超えるためであり、その存在がいなくなっては目標も何も無いからである。

でもいつか、魅舞が元の最強だった頃に戻ることを信じて、俺は今もありとあらゆる事を頑張っている。

テスト返しを終えて、その後何事も無く時が過ぎていき、帰りの会も終盤を迎えていた。


「それじゃあ、他に何か連絡ある奴は?」

「誰もいませーん」

「なら、解散」

「さよならー」

「綾瀬、また明日な」

「おう、じゃあな佐山さやま

「さてと、俺もそろそろ帰るとするか」

唯一の友達である佐山と少し話した後に、俺は家へ帰ろうと教室を出た。

一人で帰り道を歩きながら、明日佐山と何をして遊ぶかを考える。


(佐山は飽き性だから遊園地ってのもすぐ飽きるだろうし、そもそも男二人で遊園地ってのも軽く地獄絵図だよなー)

そんな事を考えていると、どこかで見たことのあるアホ毛の少女が俺の隣を横切って、すぐそこの川に飛び込んでいった。

「え、何?っていうかあれって」

俺の予感は的中していた。

そう、川に飛び込んだ少女はまさに妹だった。

「おい、魅舞!一体何を...」

川の先の方を見るとそこには子供が溺れていた。

(あいつまさか、溺れてる子供を助けるために飛び込んだのか!?)

俺は知っている。魅舞はアホになってからというもの、運動も出来なくなっている事を。

それは当然泳ぎもであり、泳ぐことが出来なくなっているのだ。

魅舞は既に子供の所まで行っていたが、川の流れが強く、流されかけていた。

「魅舞!」

俺は魅舞と子供を助けるために川に飛び込んだ。

「待ってろ!直ぐに兄ちゃんが助けてやる」

俺は常日頃から鍛えた体を全力で使い、魅舞が掴まっている岩の方まで泳ぎ手を掴む。

「大丈夫か!?」

「に..兄さん...」

「魅舞!無事で良かった!直ぐ地上に連れて行ってやるからな」

俺は魅舞と子供を抱えて直ぐに地上の方へと戻った。気づかない間に川の周りには人が沢山集まってきていた。

「すみません!誰かこの2人をお願い出来ますか!?」

俺は集まっていた人達の誰かに魅舞と子供を地上に上げてもらおうと思い呼びかける。

「士莎!何があったか分からないけど、とりあえず魅舞ちゃんとその子を!」

俺の呼び掛けに答えてくれたのは幼なじみの

済根峯すねみね 間乃音まのね だった。

「間乃音!済まない。こいつらを頼む」

「うん。でも士莎は?」

「舐めてもらっちゃ困る。これくらいなら余裕で登れるさ」

「確かに、士莎に心配は無用か」

「あぁ、心配してくれたのは素直に嬉しいよ。ありがとう」

「ふぇっ!?う、うん!」

間乃音のおかげで2人を地上に上げられたところでふと考える。

(何故子供が川で溺れていたのか?)

そもそも、川の流れが強いのは見たら分かる事だし、危ない事も分かるはずだ。

理由もなしに川に入ることは普通に考えればありえない。

子供が溺れていた地点をよく観察してみてみると、そこには石に引っかかっているダンボールがあった。その中には遠くて見えにくいが、明らかに小さな生き物が入っている。

(なるほど、あの子はあの生き物を助けようとしたのか)

ダンボールまではそんなに遠くないし、俺は川の流れに負けるほどやわではない。

それに、2人を助けておいて1匹を助けないなんて事は俺には出来ない。

「間乃音、あそこに引っかかってるダンボールの中に生き物が入ってる。その生き物を助けようとした子の気持ちを無下むげには出来ない。だから助けに行く」

「......分かった。でも怪我しないでね?」

「あぁ!まかせとけ!」

俺は生き物が入っているダンボールの引っかかってる石まで猛スピードで泳いだ。

「遅れてごめんな。もう大丈夫だ」

「ミャーン」

中に入っていたのは小さな黒猫だった。

「よし、地上まで連れてってやるから安心しろよ」

子猫の入ったダンボールを持って間乃音がいる地上の方へ向かう。

「士莎、大丈夫?」

「あぁ、このぐらい余裕だよ。とりあえず、この子を頼む」

「うん。可愛い猫ちゃんだね」

「そうだな、救えて良かったよ。しかし人騒がせな子猫ちゃんだ!」

間乃音に子猫の入ったダンボールを渡すと、周りにいた人達が俺を褒め称える。

「兄ちゃん、よくやったな!少しウザイが」

「君、お手柄だよ。ちょっとウザいけど」

「凄いよ兄ちゃん!ちょっとウザイけど」

俺は普段、成績や実力で優秀だと褒められることが多く、こういう褒め方をされるのが久々で少し照れる。

「とりあえず士莎も早く上がらないと風邪ひいちゃうよ!」

「分かってるよ、すぐに上がるさ」

そう言って俺が地上に上がろうとした時

「ッ!」

足がつってしまった。

久々に激しく動きすぎだせいで体がついて来れなかったのだろう。

俺はバランスを崩し川に落ちてしまった。

そして、自由に動きが取れず、川の流れに抵抗出来ずに流される。

「士莎っ!どうしよう!私は泳げないし、神威かむいさんを呼びに行く時間もないし、誰か!士莎を助けて!」

「無理だ!あの兄ちゃんはかなり鍛えていたからこの流れの強さでも大丈夫だったが、我々一般人じゃ何も出来ずに流されちまう」

「そんな!なら私が行く!泳げなくたっていい、このまま何も出来ないくらいなら私が行く!」

「落ち着くんだ嬢ちゃん!気持ちは分かるがそれじゃあ兄ちゃんが2人を助けた意味がなくなっちまう」

「それでも、ここで見殺しになんかできないよ!士莎!士莎ー!」


「大丈夫だよ間乃音さん。兄さんは私が助けに行くから」


泣き叫ぶ間乃音に、後ろから1人の人間が声をかける。

その声の主は、先程溺れていた少女だった。

「えっ、貴方、、、魅舞ちゃん?」

その少女は先程少年を助けた時とは違い、美しいフォームで川に飛び込む。

「ちょっと!魅舞ちゃん!」


あぁ、俺はここで死ぬのか。まさかこんな形で死ぬことになるなんてな。余裕とか言っといてだせぇな、俺。

でも、最後に魅舞達を助ける事が出来て良かった。

姉さん、魅舞、悪い、先に母さんと父さんの所に行くことになっちまって。

俺の意識がほぼなくなり、沈みそうになった時、誰かに手を掴まれ、そのまま川の外に引っ張られた。

「ブハッ!エッホ!ゲホッゴホッ!」

「兄さん、大丈夫!?」

「ゲホッゲホッ!...み...魅舞...?」

「うん、そうだよ。無事で良かった。とりあえず1回地上に戻ろう」

そう言って、近頃ののほほんとして、何も考えていなそうだった姿が嘘のように、凛々しさを見せる妹は俺を抱えて地上へと戻る

「魅舞...お前っ...元に戻ったのか?」

「うん、兄さんを助けるためにね」

「助けるためって...じゃあ今までのアホだったお前は一体」

「そうだね。それについてはちゃんと説明しないとだよね。何故私がアホになったかを」

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