第17話:包囲
「だっ、ダインスレイヴだ!!」
何人かが、慌てふためいて
「ダインスレイヴ、ダインスレイヴだ!! リプロスの ……… サーベル使いだ!!」
その指揮官の一人は、命からがらに、声を振り絞る。
――― ダインスレイヴ、
――― リプロス、
――― サーベル使い、
検問の、戦闘員達の脳裏に、一つずつ、言葉が落ちていく。そして不意に、その記憶と情報の、深い沼の中で、化学反応が起きて、
「塹壕戦の悪魔」
古参も、新参の兵士も、その言葉を知っていた。見た者は、知っていたし、未だ見ざる者も、話には聞いていた。
検問全体に、緊張が
「あのバラックを包囲しろ!!」
誰かが叫んだ。
それが合図になって全員、銃を手に疾走った。
「包囲しろ、早く」「四人だ、うち二人はまだ子供だ」「子供でも油断するな、ダインスレイヴだぞ」「全員、軽機関銃を持て、ライフルじゃダメだ」「眼を離すな、モノ凄いスピードで疾走ってくるぞ」「不死の走獣、奴らは疲れたりしない」「武装解除したのか?」「なんでサーベルを持ってるんだ?」「なんで
蜂の巣を ……… ブッ叩いたような騒ぎ。
バラック小屋を中心に、遠巻きに疾走り回る足音。
そして、
静寂が、
荒野を支配した。
聞こえるのは、風の音だけ。包囲が、完了したのだ。ここまで約 ――― 三十秒、さすが、と言わねばなるまい。ここは中近東・地中海地域。有史以来、片時も、戦闘の絶えざる土地なのだ。
**
ひんやりと暗い、静まり返った室内。
グリフィスは振り返り、ルナを見た。心配だった。ルナは
「ルナっ! ………」
グリフは、ルナに駆け寄るも、すぐに立ち止まった。
少女のような優しげな眼差しを涙に揺らめかせ、子供のように
「ルナ ………」
そうだ、グリフは思い出す。ルナはもう、少女じゃない。か弱くとも、今はショックに
闇夜に行き迷う少女のように怯えて立ち
「ルナッ!! ―――」
高い、少女の声がして、横からフランチェスカが、走ってきて、ルナを抱き止めた。自らの
「ルナ、ルナ、大丈夫か? ルナっ!」
「わたし ……… んっ、ぼくっ ……… ぼくっ!」
「おまえは悪くないッ!! ———」
叱るような大きな声で、フランは言った。泣き顔のルナの、その
「おまえのせいじゃないッ!! ルナ、おまえのせいじゃない ………」
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