第5話 姉との通話
「・・・削除?」
本来なら有り得ない事実に困惑する。普段からトークアプリを利用している人の中で全部のトーク履歴を削除する人はいないはずだ。ましてや家族のみならず彼女(?)の履歴まで消すのは意味が分からなすぎる。人生に疲れて自殺するから履歴を消したっていう理由や人間不信に陥って消したとか、そういう仕方ない理由があったら別だが、彼女(?)の家に泊まりに来てる奴がその二択を取るとは思えない。
「何をしたかったんだ?俺は?」
自分の筈なのに、まるで他人のような気分になる。一年間の記憶を保持した『氷河悠弥』に何があったのか。それを知る為の手がかりのひとつが消えた。収穫の無さに落胆するが、まだ手がかりとなり得るモノはある。俺はトーク画面をスライドして友達登録一覧画面へと切替える。そして、一人一人のアイコンを押して、背景写真や一言等を確認していく。というのも、アイコンや背景写真、等には時たまに俺との関係性などが分かるようなものがあったりすると思ったからだ。
「家族のアイコンと中学からの知り合いは除外して、それ以外で俺の知らない名前のを・・・」
知らない名前のアイコンをタップしていくがどれもこれも海や空、家族写真に彼女との写真と、俺に関係ありそうなものは無い。やがて、残り数件となり、『柳沼啓人』のアイコンをタップする。表示されたのは俺と一緒にサッカー日本代表の応援ユニフォームを着て、試合会場らしきドームを背にした写真だった。どうやら彼とは休みの日にもよく遊ぶ程の仲のようだ。
「後は・・・
名前の知らない花のアイコンの隣に書かれた名前。おそらく、俺の隣で寝ていた女の子だろう。
「一応、確認しとくか」
白色の星型っぽい花のアイコンをタップすると、予想通りの背景写真が出てきた。プリクラと同じで【付き合って一年突破♡】と書かれていた。
「・・・記憶の手がかりと言えるほどの進歩は無かったけど、彼女の名前を知ることが出来た。まぁ、トーク履歴全削除っていう謎は増えた訳だが」
収穫と言えば収穫ではあるが、一歩前進とは言い難い所でもある。
「さて、トークアプリについては一旦置いて、家族に電話してみるか」
トークアプリを閉じ、通話アプリを起動し、試しに母さんに電話をかけてみようと思ったが、時計を見て、今は仕事中だったと連絡相手を姉の
『もしもし、ユウちゃん?』
一年前と変わらない姉の声と俺の呼び方に懐かしさと安堵を同時に感じた。
「久しぶり・・・でいいよね?」
『何言ってんの?三日前に家族皆でご飯食べに行ったじゃない』
「・・・あ、あぁ、そうだったね!うん!忘れてたよ、あははは」
一年間の記憶の内、三日前の部分だけが断片的に知ることが出来た。その日は家族皆で過ごしていたということは、俺が彼女の家に居るのは昨日からという事だろう。
『まったくユウちゃんったら。休日だからって気が緩みすぎてるんじゃないの?そんなんじゃ、
「・・・?」
姉の口から聞き覚えのある名前が告げられた。陽葵というのは、昔からの幼馴染の名前だ。ただ、中学の時に転校したこともあり、会うことはもう無いはずだ。なのに、姉の口からその名前が告げられたって事はこの市に帰ってきたのか?そうだとしたら彼女の連絡先を知らないのは何かしらの理由があるってことだろうか?
「アイツはこの市にいないんだし、笑われることも無いでしょ」
『あれ?ユウちゃんと陽葵ちゃんって同じクラスじゃないの?』
正直、疑問を抱きたいのと、その答えを知りたいのはこちらも同じだ。
『あんな可愛い幼馴染を忘れるなんて、ユウちゃんったら、実は相当面食いだったりするのかな?』
「いや、そういうわけじゃ・・・ってよりも、
話が脱線し過ぎたので、無理くりに本題の方へと切り替える。
『・・・祈璃。あー、あの女の子ね』
「し、知ってるの?じゃあ、どんな子かも・・・」
『どんな子って、ユウちゃんの方が詳しいんじゃないの? というかあの子、ユウちゃん以外は興味なしって感じで私は苦手なのよね』
棘のあるような口調に変わった姉。普段の優しい姉からは信じられない態度に驚きを隠せない。それ程までに祈璃という子は異常ということなのだろうか。
『・・・ユウちゃん?』
「・・・な、なに!?」
姉の声にビックリする。どうやら考え事をしていたらしく、姉の声が聞こえてなかった様だ。軽く深呼吸して切り替える。
『いきなり反応しなくなる所はユウちゃんらしいけど、心配になることは変わらないんだからね?』
「ご、ごめん。気をつけるよ」
『心掛けるならよろしい。・・・あ、そうえば
姉の口から妹の名前が告げられた。妹の
「・・・柚來から?」
『えぇ、そうよ。ほら、電話なんかしてないで柚來に連絡しなさい。お姉ちゃんは今から用事があるから切るわね』
「あ、う、うん!」
『それじゃ、またね』
姉はそう言うと通話を切った。それを確認した俺は、次に柚來の連絡先に切り替えて通話ボタンを押す瞬間、
「・・・ユウ君、おまたせ〜」
ガチャっと扉の開く音がして、昼食の用意ができたらしい彼女の声が背後から聞こえた。
最近、彼女ができた。俺にその記憶はない 雪鵠夕璃 @ASUJA
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。最近、彼女ができた。俺にその記憶はないの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます