第4話 トークアプリ


彼女が昼食を作りに行って数分が経った。その間、暇なこともあり、今ある情報を整理する。


①一年前の記憶がない。


②スマホのロックが解けない。


③一年前に彼女と付き合い始める。


④柳沼啓人という友人がいる。


⑤陰キャが陽キャになっていた。


とまぁ、これくらいだ。まだまだ情報としては少ない方だが、ゼロからにしては大収穫と言える方だろう。


「最優先は家に帰る事なんだが・・・一年の間に引っ越してたとかはないよな?」


流石に家から壱条高校まで歩いて通える距離だし、引越しは無いと思うがこうも一年間の記憶が無いと不安になるもんなのか。実際に自分に起きると、記憶喪失になった人の気持ちが嫌という程分かる。


「あの子が戻ってきたら、電話借りてみるか」


記憶喪失だけに留まらずその後も知らない友人や彼女がいるという情報に頭がついていかず、家の電話を借りるという簡単なことにさえ気づけなかった。とりあえずやる事も決まった俺はスマホケースに入れていたプリクラを再度取り出す。さっきは表しか見てなかったが、もしかしたら裏になにかヒントになりそうなものがあったりして、と裏返す。


「・・・そりゃ、無いよなぁ。謎解きゲームじゃあるまいし」


わかっていたとは、いえ落胆する。そんな簡単に記憶のヒントがあるわけも無い。そもそもプリクラの表面に文字を書くならわかるが、裏面に書く人なんていないだろう。


「はぁ…。わんちゃんケースの奥ん中に入ってたり・・・お?」


スマホケースの更に奥を試しにいじくってみると、カサっと紙のようなもので指に触れた。俺はヒントになるかもと希望を抱いて、その紙らしきものを取り出す。


「・・・紙の切れ端?」


手帳サイズの紙を半分に割いた切れ端。そこには汚い字で数字が書かれていた。どう考えても、この汚さは俺が書いたものだ。然し、書いた覚えがない。とはいえ、恐らく、これがスマホのロックなんだろう。俺はスマホの画面をつけて、口で読み上げながら数字を打っていく。


「えーっと、823910っと」


最後に0を打ち終えると、画面が切り替わる。


「お!開い・・・た?」


ロックが解けた待受画面には、元から入っているアプリとトークアプリのみが表示されているだけだった。高校生にしては余りにもアプリの量が少ない。とりあえずアプリストアに移動し、購入済み欄をチェックする。


「ん?真っ白かと思ったけど、色々とSNSアプリを使ってた痕跡はあるのか」


そうなると、なぜ消したのかが疑問だ。一年の間にアプリを消しざるおえない何かが起きたのだろうか。それとも単純に使わなくなったから消したのか。後者の考えは然し、直ぐに否定する。彼女がいるのなら写真を投稿するアプリ等は必需品の筈だ。


「まぁ、分からない事は後にして、トークアプリの方を確認してみるか」


スマホに表示されているトークアプリ。それは一年分の記憶が無い俺でもさすがに知っている。全く変わっていないこともあり、ちょっと安心する。俺はトークアプリをタップして開く。暫しの起動演出が流れて数秒。沢山という訳でもないがいくつかのアイコンが表示された。登録されてるのは数個のグループトーク、家族、知り合い。なんというか記憶のない一年の間に登録件数が増えた気がしてならない。というのも、さっき電話をかけてきた柳沼啓人を始め、知らない名前が多すぎる。俺の記憶にある限りは家族と知り合い数名しか登録されていなかったはずだ。


「このトークのどれかに記憶の手がかりがあればいんだが・・・」


俺はトーク履歴を確認する為に、アプリのホーム画面からトーク画面へと切り替える。すると無数のトーク履歴が表示されるが、登録されている全てのアイコンの隣に『トーク履歴は削除されています』と記されていた。

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