小さな後悔を

葉月ヨウカ

2年の2月のこと

 僕が本を読み始めた理由は、学校の朝の時間の暇つぶし、というよりは友達がいなかったからである。

 今日から通うことなるN中学校は、生徒のほぼ全員がN小学校からそのまま来ることになる。

 しかし、家がなんだか微妙な位置にあるらしく、H小学校に通っていたがN中学校に入学することになった。

 当然知り合いもいないため、一人で本を読んでいるわけである。

 これから友達ができるのだろうか、いじめられたりしないだろうか、など不安でいっぱいだった僕が読んでいたのは何の本だっただろう。いまでは思い出せない。

 ただ、今でもはっきり覚えているのは、マサキのことだ。僕に最初に話しかけてくれた、天然パーマで、明るいやつ。

 「ヒカキン知ってる?」

 マサキはいきなりこう言ってきた。正直どういう反応をしていいかわからなかった僕は、適当に返事をした。

 このときは思いもしなかったが、僕はこいつと親友になる。


 N中学校は部活動になにかしら入らなければならない。リクに話しかけられてから一週間たち、それなりに話せるクラスメートも増え、なんとかやっていけそうだと感じていたときだった。

 「剣道部に一緒にはいらない?」と、少し日に焼けた、髪がまっすぐなハジメが言ってくれた。

 剣道部かぁと、正直思った。特に今まで何かをやってきたわけではない。小学1年生のときに一年間だけ空手をやっていた。ただ、あまり好きにはなれず、続かなかった。



 結局、僕はハジメと一緒に剣道部に入部した。驚いたことにマサキは剣道を習っているらしく、同じ部活になった。

 僕の中学生活は剣道部でのことがかなり大きなウェイトを占めている。練習はつらかったが、楽しかった。書きたいことは多いが、また別の機会にさせてもらう。

 ちなみに僕とマサキは生徒会にも入った。僕は会計で、マサキは会長である。なんで入ったのかはわからない。なんとなくである。


 2年生の2月、もうすぐで3年生である。生徒会の仕事はそれなりにあり、その日は結構遅くまで残っていた。2月13日、やることが終わり、荷物をとりに教室に行き、自分のロッカーを見る。

 自分の荷物以外にも、何かが置いてある。何か、と思う前に、すぐに考えついたのは、バレンタインのチョコである。胸がドキドキするのがわかり、誰からだろうと、わくわくしながら中を確認した。

 チョコと一緒に手紙が入っていた。読んでみる。正直に言う。僕はこのとき名前を見てがっかりしたのだ。


 次の日の朝、僕はいつも通り一番早く教室に入る。そわそわしていた。どんな顔をすればいいのかわからなかった。


 その子が、教室に入ってくる。何か言ってくるだろうか、それとも僕が何か言わなければならないのか、わからない。

 このまま、何もなかった顔をしていれば、本当に何もなかったことになる。そんな気がする。いや、そうなる。

 そして僕は後悔するのだろう。あのときしっかり返事をすれば良かったと。

 今度はそうならないように、僕は落ち着いて、言うべき言葉を頭の中でゆっくりと考え、

「ちょっといいかな?」と言ってみた。

 

 

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