人の世

@song_book

Aからの恵み

 私は運の悪い男だ。

 生まれてこの方女なんてできたことがないし、もちろん交わったこともない。宝くじも買ったはいいものの、300円すら当たったことがない。ましてや中学時代の修学旅行なんて風邪をひいて行けなかった。

 そんな私にも一つ誇れるものがある。それは周りの環境に恵まれていたところだ。もし、神だとかいう人間の信仰からできた虚像が私の人生の幸運と不運の割合が1:1で出来ていると言ったとしても私はきっとそれを信じるだろう。それほど私は周りの環境に恵まれ、それらに助けられながら生きてきたのだ。

 私には幼稚園の頃からの友達が一人いる。今日はそいつをAと呼ぼう。Aはよく人の悪口ばかり言うような奴だった。だが、あいつは学校ではいつも猫をかぶっていたから友達も多かったし女もよく集まっていた。私もそんな彼の後ろを金魚の糞のようについて回っていた。何故なら彼には地位と名誉があったから、彼の近くにいれば私も彼と同じような気がしたのだ。正直なところ私とAは当時、人気にも地位にも天と地程の差があっただろう。だが、Aも私のような、いわゆる陰キャラとかいう存在を近くに置くことでその人柄の良さを周囲にアピールしたかったのだ。そんなAの華々しい学校生活も遂に終わりを迎える。ある日突然Aの女だった橋場という女が今までにあったAの愚行を匿名で全校生徒に暴露したのだ。あの時のAの顔と言ったら、鳩が豆鉄砲どころかマシンガンでも喰らったみたいな顔をして、たいそう愉快だった。

 その一件以降Aはすっかりおとなしくなり、私は人生の教訓をAから学んだ。それは人の悪口は不運を吸い寄せるということだ。そして、まだこの時の私はあの橋場という女が、私の人生に大きく関係してくることは知る由もなかった。

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

人の世 @song_book

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る