ハーフ＆ハーフ2 のための短編連作

第6話 初めてのハンバーグ

　わたしの家には料理の本がたくさんある。

　わたしは昔から料理本を買うのが好きだった。

　写真を見て、材料を見て、作り方を見て、どんな料理が出来上がるんだろう？　どんな味がするんだろう？　なんて想像するのが楽しかった。

　ツレはこの家に来てからというもの、その料理本ばかりを眺めていた。それ以外の本がないというのもあるが、次々にページをめくっては熱心に眺めていた。

「なにか食べたいものはあった？」

　ツレは小さくうなずくと、一番年季の入った一冊を取り出してきた。まぁ偶然かもしれないが、それはわたしが初めて買った一冊で、今も一番のお気に入り本だった。ツレはページをパラッとめくり、両手で開いてわたしに見せてくれた。

「お。ハンバーグか！　いいね。これは作ったことあるよ。すごくおいしかった」

　そう。この本のレシピはいろいろと作ってみた。どれも写真通りに作れて、すごく優しい味がしたのを覚えている。わたしが料理の楽しさを知ったのは、まさにこの本からだったのだ。

　そこでひらめいた。

「あのさ、このハンバーグ、自分で作ってみたらどう？」

　あれ？　なんか白くなってる。

　どうやら想定外すぎて思考がパンクしているらしい。

「あのさ、料理ってね、食べるばかりじゃなくて、作るのも楽しいんだよ。それにさ、この本の通りに作ればちゃんと美味しくできるんだよ」

　どうやらその言葉が効いたらしい。ツレはひとつうなづくと、決意の表情も凛々しく自分でエプロンを巻いたのだった。

　さて、ツレはどんなハンバーグを食べさせてくれるのだろう？

　今日はわたしのお腹がぐぅと鳴った。

　📞　📞　📞　📞

　ハンバーグ。お肉たっぷり、ソースがとろうり。外はこんがり、中は肉汁がはちきれそうで。

　ああ、きっと美味しいんだろうな。すてきですてきなハンバーグ。写真を見ているだけで幸せになれる。

　あんまり夢中で見入ってたせいで、声かけられたとき、反射的にハンバーグのページを見せてしまった。なんだか要求してしまったみたいではずかしいや。

　そしていま、ぼくの前にはハンバーグの素がたくさんならべられている。ハンバーグって、肉ばっかりでできてると思ってたけど、ちがうんだね。

　切ったらぜんぶボウルにつっこんで混ぜ捏ねる。さいしょ手を入れるとむにゅって手ざわりがヘンだったけど、捏ねてるうちに楽しくなってくる。

　ぐったり、ぐっちょり、いろんなものが混ざって粘って、もうなにがなんだかわからないけどいいんだ、だって、とにかく楽しい。

　次はこれを形にする。手のひらサイズにちぎってぴったんぺったん、さいごはちょっと勢いをつけ、ぺちゃんっとひだりの手のひらへ叩きつけて。すると手からはみ出た部分が割れてとびちった。

　やっちゃった、って思ったらかれはにいっとわらって、キッチン台に散らかったお肉をぼくの手のお肉のうえにのせた。セーフってこと？　ていうか、ぼくの作業をずっとよこで見てたの？　それははずかしいよ、ってゆうか反則だよ。

　そうそう。キッチン台が高いから、いすをもってきてもらって、そのうえに立って作業をしているんだ。視界がおおきくひらけて、おとなになった気分。ちょっとぐらぐらするけどね。ぐらぐらに耐えられるってのがおとなになる条件なのかもしれないな。

　さいごの仕上げに焼いて、ソースをつくるのはかれの仕事。火をつかうところを避けられて、ぼくはすこしほっとした。火はね、熱いんじゃなくて、痛いんだよ。ぼくは知ってる。

　冬は火がなきゃやってけないし、それに料理もやっぱり火が要るってのはわかっちゃいるけど、ぼくがやらないもんだからいつも火をおこすのは仲間の仕事だ。でもいつかぼくは、のり越えなくちゃいけないんだと思う。

　ハンバーグは、形はヘンでも味は美味しかった。だって味つけはかれがしたんだもんね。それでもハンバーグ本体をつくったのはぼくなんだから、ぼくの作品ってことでいいのかな。

　おなかが満たされると、どうしてねむたくなってしまうんだろう。寝ちゃっていいのかな？　いいよね？　からだを起こしていられなくなって、テーブルに突っ伏したら肩のうえにブランケットがかけられた。

　ぼくだけこんな幸せでいいんだろうか。

　はんぶん睡りにおちながら、そう思うと心臓がきゅっと痛んだ。

　でもここに仲間たちを連れてくることはできないし、せめて食べ物をもってってやろうとポケットに入れていたのも気づけば消えていた。まるで奇跡のような恩恵は、ぼくひとりっきりのものだと言われているみたいに。

　幸福をひとり占めしてしまっていいのかなあ。神さまがなにを考えているのか、ぼくにはわからない。