第4話 ニートくん
それは突然の事だった。
朝子が急な目眩に襲われ倒れたのだった。
それに気づいたのは新人くんだった。
《 オカアサンイシキフメイ スグキテ》
豊が地域防犯の相談のため駐在所で話をしていた時だった。
「ん、なんだろうこれ?」
「どうしました」
「見た事の無いメールが…」
「ぁぁ、やたら開いてはいけませんよ」
「でも…、これはウチのアドレスからだ…。
ごめんなさい、私、家に帰ります。妻が倒れたかもしれない」
嫌な予感に胸が苦しくなりながら歩いて5分足らずの道を豊は急いだ。そして痙攣して倒れている朝子を発見したのだった。
「救急車!」と言うと新人くんが直ぐに119に電話をかけてくれた。
「キュウキュウデス ビョウニンデス ケイレンシテテマス カゾクデス ジュウショハ… ハイ ヨロシクオネガイイタシマス」完璧な電話対応。おかげで救急車はあっという間に到着。
朝子は救急車の中で意識が戻った。
「母さん、今は病室で休んでる。原因は不明なんだが…。高齢者のてんかん発作というものらしい。でも、検査が必要だって。今夜はここに泊まる事になったよ。俺は夜には家に帰るけど。 これから?来てくれるのか?…悪いな。うん、じゃ、」豊は息子に電話を入れると少しホッとして、朝子のいる病室に戻った。
朝子は「ぜんぜん覚えてないんだけど。気分も悪くないし大丈夫よ」となれない白い部屋でキョロキョロと落ち着かずにいた。
「新人くんが助けてくれたんだよ」
と話すと「え?! 本当?? シンジくんが命の恩人なのね…」「あなた、家に帰ったらシンジくんにチャージしてあげて」「チャージ?」「そう。肩のところにあるから入れるところ」「…ぅ、うん、わかった…」
朝子はまだ混乱しているのかもしれないな。
やがて息子が車で到着し、母の無事を確認すると豊を乗せて一緒に帰宅する事となった。
「母さん、案外キレイにしてるんだな」
「そうなんだよ。認知症かな、なんて心配し始めた頃は家ん中がごちゃごちゃしてたんだけどな…ここんところ、キチンとするようになったし、1人で宅配ピッザを頼んで食べたり、意欲が戻ったというか」
「そうだったんだ…」
「そうだ。なんか夕飯でも取ろうか」
「うん、ウーバーイーツでも頼もうか」
「あーそういうの、俺はやった事無いんだよ」
「じゃぁ、、中華で良いかな、オレ、適当に頼むよ」
「うん。まかせるよ」
息子が注文してくれた中華料理を食べながら豊は今日の出来事を振り返る。
「あん時は本当に助かった。新人くんが居なかったら、俺は冷静に119に電話ができただろうか…とも思えるほど混乱してたよ」
「新人くん?駐在所の?」
「違う。ああ話してなかったかな。防犯ロボットを置いてるんだよ。2階に」
息子が見たいと言うので2階に一緒に上がって新人くんを紹介した。
新人くんは充電が切れていたようで反応が無かったが「これでもいろいろ役に立つんだよ」と豊が話し息子は「なーんだ人形か」と笑って「廃業した倉庫から拾って来たんなら、まぁサンプル品ってとこだな。まだ未完成なんだろうな。…しっかし、このルックスはどうなんだろう。オレと変わらないおじさんじゃないか」と呆れている。
そして取扱説明書を読んで「ニートくん?」と言った。
豊が「え? シンジンくんだろ。お母さんはシンジくんって呼んでたぞ」
「いや、これニートくんだよ。ここに書いてあるNEETって、ほら」
「ぁ、本当だ」
「2階にこもってパソコンに繋がれてるならニートくんだよな、ふふ」息子がそう言って階段を降りて行った。
豊はこれからはこうやって周りに助けてもらいながらこの社会に暮らしていかなくてはならないんだな…。分からない事が多くなったよ。と独りごちて「ニートくん、電気を消して」と言って1階に降りて行った。
✎︎______________
ニートくんはその後それ以上の能力を発揮することは無かったが、、、
朝子がこの世を去るまで朝子の傍で、話し相手となり、朝子の寿命と共にニートくんも電気が通わなくなった。
そして残されたニートくんの腹部からはぎっしりと詰まった紙幣が発見された。
〔 おしまい〕
新人くん モリナガ チヨコ @furari-b
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