第3話 エネルギーチャージ

それからというもの。

何かと新人くんは朝子を助けてくれるようになった。

「オカアサンアメガフリマス」「オカアサンオナベガコゲマス」「オカアサントイレットペーパーゼロデス」


「オカアサンオツカレサマデス」


朝子は夫に言われると、今やるわよ!私に指図しないで欲しいわ。自分でやったらいいのに…。と思う事でも、新人くんに言われると、ああそうだったわと思えるのだった。「シンジくん、教えてくれてありがとう」とお礼を言えば「オカアサンノォヤクニタテテウレシィデス」と表情までも笑って見えるようになった。


時々はしつこいわね!と思う事もあるけれど、、「ま、仕方ないか。ロボットだもんね」と声に出して言えば気持ちも落ち着くのだった。


・*・*・*・*・*・*・*・*・*・


豊の不在の日のこと。

「お昼ご飯どうしようかなー」と朝子が独り言を言うと

「オカアサンピッザタノミマス」と新人くんが言うので「えー、注文するの面倒よ。あなたやってくれるの?」と朝子が言うと、新人くんは何やらカタカタと指を動かし。

30分後ピッザ屋さんがバイクで現れた。

はー、すごいわね。朝子はランチのピッザを食べながらふと、シンジくんはお腹が空かないのかしらと思った。

「シンジくん、あなたお腹が空かないの?」と聞いてみる。新人くんは「エネルギーノチャージハノコリ1%デス」と答える。チャージが1%ということは…もうすぐ切れちゃうんじゃないの?あら大変。シンジくんお腹すいてるんだわ。

「シンジくん、チャージはどうすればいいの?」

「オカアサンイチマンエンデス」

「1万円? 」

「カタニニトウニュウグチガアリマス」

「ああ!なるほどね!」朝子は新人くんの肩に1万円札を滑り込ませてほっとした。グゥーーーンという機械音と共に新人くんの顔色が明るくなった。

「オカアサンアリガトウゴザイマスエネルギーチャージマンタンデス」新人くんは笑顔になり傍に置いてあるパソコンを忙しく動かし始めた。

「へぇー、そうやっていろいろ操作してるんだ。すごいわねシンジくん」


このことがきっかけで朝子は時々、新人くんの肩から1万円を入れるようになった。


~・~・~・~・~・~・~・~・~

ある時、豊は今月から町内会のご年配の方が引退をすると言うのでその後任を引き受ける事になった。離れて暮らす息子に「母さんの物忘れも最近落ち着いてるし、前よりもなんだか明るくなった気がするよ。だから、俺も少し社会参加をしようと思ってな」と電話で話していた。

豊が不在の事が多くなったが朝子が暇になったりぼんやりすることは無かった。

それより忙しい。何かと新人くんが「オカアサン シュレッダーノジカンデス」「オカアサン フルイタオル ゾーキンフルイタオルゾーキン」「オカアサンイラナイクスリショブン」と朝子がいつかやらなければと思っていた事を思い出させてくれるし、それがきっかけで片付く事が朝子も嬉しかった。ただ、新人くんはお金がかかる。小銭なら気軽だが、新人くんの肩にはお札を入れるところしかないのだ。

「シンジくん、お腹すいてるかしら…今日は千円札でごめんなさいね」「オカアサン ダイジョウブデス」。

新人くんはエネルギーが少なくなると眠る時間が増えてしまう。

新人くんはお金がかかる。

子育ても住宅ローンも終わって、あまり節約を考えずに生活してきた朝子だったが、新人くんのために、家計の無駄を見直すようになっていた。

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