第2話 シンジくん

新人くんに豊の古着を着せて、2階の窓辺に座らせ傍らにノートパソコンを置いた。

豊は面白がってそんな事をしている。

初め嫌がっていた朝子も2階に上がると「シンジくん、お疲れさま」と声をかけるようになっていた。


「新人くん、電気つけて」というと電気をつけてくれる。「新人くん、3分経ったら教えて」というとアラーム音で知らせてくれる。

もっといろんな設定をすればできる事が増えるんだよと豊は楽しんでいる。

そしてうっかり「シンジくん」と呼びかけても反応がある。

「シンジくん、生まれはどこ?」

「…」新人くんは答えられない質問には目を閉じる。朝子が面白がって話しかける度に新人くんは目を閉じて眠ったようになってしまう。

「あーあ。シンジくんったら、狸寝入りなんかしちゃってもう。さて、私も洗濯物を片づけようっと」と一階に降りて行く。

豊はそんな朝子を楽しい気持ちで見ていた。

さて。俺も下に降りてお茶でも飲むか。


豊が階段を降りて行った足音を確認すると、

新人くんは、ふぁ〜〜〜っと伸びをした。

そうして肩に手を当て首を左右に傾けてコリをほぐすと、パソコンを立ち上げてパチパチと操作し始めた。



そう。すでに新人くんは自分で動く力をつけていたのだ。


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豊はソファーに座る朝子を見つめる。

朝子は洗濯物を片づけようと言って下に降りたはずなのに、ソファーに座ってテレビを見ていた。

「あれ?、洗濯物たたむんじゃなかったのかい?」

「うん。これ終わったら」朝子はテレビを見たまま答えた。

「そんなテレビ面白いのか?」以前はバラエティ番組などくだらないと言っていた朝子らしくないと思って豊はそう言ったのだが、朝子の気に触ったらしい。

朝子は無言でテレビを消すと「今やりますよっ」とイライラした感じで庭に出て洗濯物を回収してきた。

もうすぐ陽が傾く。イライラした朝子から離れて少し散歩でもしようと思い、豊はスマホと自転車の鍵を持ち「ちょっと出かけてくるよ」と玄関を出て行った。


朝子は取り込んだ温かい洗濯物をたたむとそれぞれの場所にしまって廻った。シーツを抱えて2階に上がる。寝室に行く前にチラッと新人くんを見ると新人くんもこちらを向いて目をパチパチと動かしていた。

「シンジくん、お疲れさま」と朝子が言うと「オカアサンオツカレサマ」と返ってきた。

朝子は目をパチパチさせて「シンジくんお話しできるの?」と問う。

シンジくんは「オハナシクダサイ」と返した。

(なんだ、こちらの言った事にオウム返ししているだけか。)朝子は寝室にシーツを置いてまた階段へと向かう。

階段を降りて行く途中でアラームが聞こえた。階段を引き返しながら「シンジくん、アラーム止めて!」「シンジくん、なんの音?」と答えるはずのないシンジくんに言うと「ベランダニフトンガアリマス」と言う。ボリュームが大きくなって聞きやすく、朝子は「あ! そうそう、忘れてた!」とベランダに向かった。

これは助かった。

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