どこかの世界の物語

収録作品2『聖魔物語』『こはる日記』『白戸村』『よろずの八記商店』『銀杏の雨』『河童神』『辛子豆腐』『探偵ミサキハルカの日常』『コーヒーを一杯いただけませんか』『桜の町』『黒歴史』

21

パーツは､揃った。

宿命の歯車は、動き出す。

誰も止めることは、できない。

結末が決まりきった物語の中で、どう足掻いていくのか。

それとも､そのまま飲まれてしまうのか。

全ては､君の選択にかかっている。

　　　　　　　「聖魔物語

　　　　　　　　　第1章5節　宿命の歯車」

　　　　　　　　　　　　　　　※一部抜粋

　　　　　　　　　　1月1日 真鯛（マダイ）

　　　　　　　　　　魚言葉　宿命

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22

本を読んでいると娘が近づいて来た。

「ママにもお年玉あげる」

と言って私にお年玉袋を渡した。

中身を見てみると､クレヨンで描かれた絵が1枚入っている。

その絵は､私の似顔絵だった。

　　　　　　　　　　　「こはる日記8」

　　　　　　　　　　　　　よつや　こはる

　　　　　　　　　　　　　　　※一部抜粋

　　　　　　　1月2日 金目鯛（キンメダイ）

　　　　　　　魚言葉　お年玉袋

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23

お節料理を初めて作ってみた。

こういうのは、できたやつを買ってくれば、良かったけど……。

正行さんと一緒に過ごす元日。

なかなか会う日がなくて、いつか私の手料理を食べて欲しかった。

私の小さな夢が叶うと思ってしまったら、とても気持ちが落ち着かない。

　　　　　　　　　　「こはる日記2」

　　　　　　　　　　　　　よつや　こはる

　　　　　　　　　　　　　　　※一部抜粋

　　　　　1月3日　金時鯛（キントキダイ）

　　　　　　魚言葉　お節料理

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24

地震雷火事親父よりも恐ろしいことがある。

それは､この村の儀式である。

この村には、化物が住んでいる。

化物は、村の守り神として祀り上げられている。

儀式というのは、化物にお供え物を献上することである。

お供え物として、献上するものは……。

ここから先は、破られて読めなかった。

　　　　　　　　　　　　　「白戸村」

　　　　　　　　　　　　　　　宇崎　玄太

　　　　　　　　　　　　　　　※一部抜粋

　　　　　　　　　1月4日 石鯛（イシダイ）

　　　　　　　　　魚言葉　地震雷火事親父

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25

私は､先祖伝来の家宝が眠る蔵に来た。

硬く閉ざされた戸を開けると､カビ臭い匂いと埃や塵が舞っていった。

今回の目的は家宝ではなく、昔私がこの蔵に隠したあるものを取りに来たのだ。

誰かに見られる前に､片付けなくては……。

　　　　　　　　　　　　　「白戸村」

　　　　　　　　　　　　　　　宇崎　玄太

　　　　　　　　　　　　　　　※一部抜粋

　　　　　　　　　1月5日 平政（ヒラマサ）

　　　　　　　　　魚言葉　先祖伝来の家宝

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26

あ〜だるい。

ごみ収集車が来る前に、早くゴミを出さないと……。

誰が好き好んで、クッソ寒い外に出ないといけないんだ。

全部あいつのせいで、俺は家政婦の真似事をする羽目になった。

いつか､絶対あいつに復讐してやる。

　　　　　　　　　　「よろずの八記商店」

　　　　　　　　　　　　　　　花形　竜星

　　　　　　　　　　　　　　　※一部抜粋

　　　　　　　　　　　1月6日 烏（カラス）

　　　　　　　　　　　魚言葉　ごみ収集車

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27

会社更生法を申請することにした。

心の何処かでは､詰まった物が取れたような気がしている。

これでよかったと何度も言い聞かせた。

自分が今できることをしよう。

そうでもしないと､自分の無力さに押し潰れてしまう。

　　　　　　　　　　　　　「銀杏の雨」

　　　　　　　　　　　　　　　江東　久志

　　　　　　　　　　　　　　　※一部抜粋

　　　　　　　　1月7日　銀鮫（ギンザメ）

　　　　　　　　魚言葉　会社更生法

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28

羽織袴を着た青年がこちらに来た。

青年は不気味な笑みを浮かべ、耳元で囁いた。

「あいつに都合よく利用されて、可哀想やな。自分が誰かも知らないで、のうのうと生きられて、良かったな」

突然、右腹が熱くなった。

首を下げて見ると、腰刀が刺さっていた。

　　　　　　　　　　「よろずの八記商店9」

　　　　　　　　　　　　　　　花形　竜星

　　　　　　　　　　　　　　　※一部抜粋

　　　　　　　　　　　　　1月8日 モンツキ

　　　　　　　　　　　　　魚言葉　羽織袴

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29

こんな噂知っている？

とある池に河童巻きを投げてお願いすると、神様が現れて願いを叶えてくれるんだって。

　　　　　　　　　　　　　「河童神」

　　　　　　　　　　　　　　　新井　梧楼

　　　　　　　　　　　　　　　※一部抜粋

　　　　　　1月9日 胡瓜魚（キュウリウオ）

　　　　　　魚言葉　河童巻き

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30

スーパーにドーム型の豆腐が売られていた。

上京して早10年。

地元にいた頃は、よく好んで食べていた。

しばらく、地元には帰っていない。

久しぶりに食べたくなってきた。

手に取り、カゴに入れた。

　　　　　　　　　　　　　「辛子豆腐」

　　　　　　　　　　　　　　　早川　満月

　　　　　　　　　　　　　　　※一部抜粋

　　　　　1月10日 振袖魚（フリソデウオ）

　　　　　魚言葉　辛子豆腐

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31

何でも依頼を受けてくれるという評判が名高い店に来たのは、いいけど……。

本当にここで合っているのか？

見るからに、ゴミ屋敷──物が乱雑する雑貨屋。

不安しかないが、中に入ることにした。

　　　　　　　　　　「よろずの八記商店」

　　　　　　　　　　　　　　　花形　竜星

　　　　　　　　　　　　　　　※一部抜粋

　　　　　　　　1月11日 大鮃（オヒョウ）

　　　　　　　　魚言葉　評判の店

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32

先日、腸捻転で友人が入院したと、連絡が入った。

今日は､そいつの見舞いに行くことになっている。

手ぶらじゃあ……あれだし何か買うか。

私は、ショッピングモールに向かった。

この日が私にとって最悪の日になるなんて夢にも思わなかった。

　　　　　　「探偵ミサキハルカの日常9」

　　　　　　　　　　　　　　百合崎　未来

　　　　　　　　　　　　　　　※一部抜粋

　　　　　　　　　　　1月12日 平（ヒラ）

　　　　　　　　　　　魚言葉　腸捻転

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33

眠れないなら、私が添い寝してあげましょうか？

あら、照れちゃってかわいい。

あなたは､怖い顔よりその顔の方がずっといいわ。

　　　「コーヒーを一杯いただけませんか」

　　　　　　　　　　　　　　　宮住　志鶴

　　　　　　　　　　　　　　　※一部抜粋

　　　　　　　　1月13日 赤鱏（アカエイ）

　　　　　　　　魚言葉　添い寝

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34

お菓子のはかり売りをするバイトをしている。

何故ここにいるのかと言うと、理由は二つある。

一つ目、ここの店主が腰を痛めて、代わりにやって欲しいと頼まれたからである。

二つ目、金が欲しいからである。

　　　　　　　　　「よろずの八記商店6」

　　　　　　　　　　　　　　　花形　竜星

　　　　　　　　　　　　　　　※一部抜粋

　　　1月14日 黒牛の舌（クロウシノシタ）

　　　魚言葉　はかり売り

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35

結婚式の前祝いとして、母から色打掛をもらった。

先祖代々受け継いでいる代物である。

嬉しかったが、どこか寂しい気持ちがあった。

この気持ちがなんなのか､私はわからなかった。

　　　　　　　　　　　　　「辛子豆腐」

　　　　　　　　　　　　　　　早川　満月

　　　　　　　　　　　　　　　※一部抜粋

　　　　　　　1月15日 真狗母魚（マエソ）

　　　　　　　魚言葉　前祝い

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36

技術の授業で半田付けをする授業があった。

確かあのときは、立方体のラジオを制作していた。

あの独特な匂いにはどうも慣れないが、作業自体は楽しかった。

　　　　　　　　　　　　　　「桜の町」

　　　　　　　　　　　　　　　　清水　蛍

　　　　　　　　　　　　　　　※一部抜粋

　　　　　　　1月16日 ブロウ・フィッシュ

　　　　　　　魚言葉　半田付け

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37

納豆烏帽子を被った人形が置いてある店を左に曲がり、真っ直ぐ進むと鳥居がある。

そこがあんたが行きたがっている場所だ。

これで、俺とあんたは赤の他人だ。

もう、俺はあそこには関わりたくねぇ。

　　　　　　　　　　　　　「河童神」

　　　　　　　　　　　　　　　新井　梧楼

　　　　　　　　　　　　　　　※一部抜粋

　　　　　1月17日　糸引鯵（イトヒキアジ）

　　　　　魚言葉　納豆烏帽子

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38

小学生の頃､嫌いな宿題が出された。

帰り道に大きな草むらがあった。

周囲を確認してランドセルの小さいポケットから、プリントを取り出して草むらの中に捨てた。

翌日、宿題の丸つけをするために配られたが、私の物はなかった。

私は、忘れたことにした。

　　　　　　　　　　　　　　「桜の町」

　　　　　　　　　　　　　　　　清水　蛍

　　　　　　　　　　　　　　　※一部抜粋

　　　　　　　1月18日 鱗鮃（コケビラメ）

　　　　　　　魚言葉　宿題忘れ

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39

ありえない。

どこで計算を間違えた。

私の完璧な計画が頓挫する。

失敗したら、また世界が消える。

もう､誰も失いたくない。

私だけ取り残されるのは、もう嫌だ。

　　　　　　　　　　「聖魔物語

　　　　　　　　　　　　第6章2節　洪水」

　　　　　　　　　　　　　　　※一部抜粋

　　　　1月19日　赤翻車魚（アカマンボウ）

　　　　魚言葉　計算間違い

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40

サークルの飲み会で乾杯の音頭をとる係に選ばれた。

この係は、とても名誉なことであり、誰もが私に注目する。

私は､この場の支配者だ。

うまく捌くことができるか否か、それによって私のキャンパスライフは大きく左右する。

　　　　　　　　　　　　　「黒歴史」

　　　　　　　　　　　　　　　佐田　健人

　　　　　　　　　　　　　　　 ※一部抜粋

　　　　　　　　1月20日 勘八（カンパチ）

　　　　　　　　魚言葉　乾杯の音頭