第27話 思わぬ展開



「どこへ行くんだ?」


「もう少しがんばれ」


 問いに答えてくれない。ただひたすら走らされていると、前方の木々の向こうにそびえる石壁が見えてきた。


「あれは?」


「こっち」


 また疑問に答えてくれず腕を取られ連れて行かれる。


「どこへ行くんだよ」


 ただ壁に向かい歩いているだけだった。


「オレ、フェリオと合流しなければいけないんだ」


 ミリーに黒ずくめ。一人では大変なはず。


「どこで会う約束をしているんだ?」


 壁の前でやっとハスラムは止まった。


「街から森を越えたところにあるクラセラ城」


「ああ……」


 オリビエから出た城の名にハスラムは、渋い顔になった。


「黒ずくめがらみなんだな」


「そうだよ」


 とてつもなくマズいことが絡んでいるから急ぎたいとオリビエは掴まれていた手をはたいた。


「今までのこと説明するから、すぐにでもフェリオのところに行かせて!」


 飛んできた麻袋を受け取ってしまい、黒ずくめがらみのごたごたに巻き込まれたことを簡潔に話した。


「麻袋か。ロス商会が管理しているものか?」


「ロスって、オレが麻袋からみで知っているのは、トザレとミリーって人」


 聞いたような名前だった。


「ミリーは、ロス商会の会長の娘だ」


「はぁ?」


「人の名前はちゃんと覚えろ。で、麻袋の中身を知っているのか?」


「知らない。あんなのが追いかけてくるぐらいの物だから貴重で高価なものなんだろう? それを知ったら落ちてきた物を落とし主に絶対に返さなければならないことになるから、知りたくない」


 知らなければ親切心からの届け物で済む。これ以上深入りをすれば、ギルドがからみややこしくなる。


「って、ハスラムもまさか関係者?」


 ふと気付いた。詳しいなぁと。


「なってしまったよ。オーリーと同じでな」


「え!」


 まさかハスラムも別口の好奇心からの野次馬で巻き込まれた? と思ったが、ありえないと即座にその考えは封じ込めた。

 そうなると国からみだろうか。だとすれば、かなり大事な気がする。


「オレは、先にアーサー殿の所に着いたんだ。けど、当人は誘拐されていた」


「は?」


 予想外のことで信じられないとオリビエはハスラムを見る。


「アーサー殿の家の前にグルラン帝国の軍関係の者がいて、事情を聞いた」


 オリビエたちとの約束の日よりもかなり早く着いた。

 二人が来るまでの間に挨拶程度の知り合いだったアーサーに事情を話して力になってもらわなくてはならない。


 危険なことに巻き込むが、アーサーは紫の一族のことや残した宝のことを調べているので、研究者意識をくすぐり興味を示してくれて協力を得やすくなるのではと考えたからだ。


 それでも事が事。どう切り出そうかと悩んでいれば、本人はいない。

 そして誘拐された原因は、紫の一族の残した宝で賢者の球がからんでいた。

 真贋鑑定のためにアーサーの元へ届けられる予定だった。


「賢者の球って、伝説のって宝だよな。フェリオ喜ぶかなって、今はそれどころじゃあないけど」


 嫌な予感がしてくるオリビエだった。


「賢者の球は、ロス商会の責任者たちが運んでくる予定だとグルラン帝国の兵士はいっていた」


 賢者の球がらみのことはグルラン帝国側の問題で、他国の自分は関われない。いや、関わりたくない。

 逃げようとしたが、訪ねたアーサーが絡んでいて嫌でも関係者になってしまった。


「この壁ってやっぱり城壁?」


 このどデカい壁の正体は城壁かと思うと同時に顔が引きつってくる。


「ここってクラセラ城ってことか……、ミリーさんやトザレはロス商会の人ってことか」


「集合場所がここならばな」


「じゃあ、あの袋の中は賢者の球ってこと!」


 怖いが確認した。

 これにハスラムは頷く。


「あああ……」


 喋る気力が失せてくる。

 賢者の球は、紫の一族が作った魔力が強い宝。

 そんな物の側に近付くなと注意を受けたばかりだ。

 まさかまた聖魔剣がからんでくるのではないかと顔がひきつる。


「本物かは分からない。世の中には賢者の球候補がバカほどあるからな」


 そのほとんどは、鑑定され偽物と判明している。


「黒ずくめが狙っているんだろう、あの麻袋の中の。かなり本物の可能性が高いよな?」


 カーリーの紅竜の石もそれだと知って狙っていた。


「分からない」


「あれにまたくっつくのかなぁ」


 恐々と左手首を見る。


「それも分からない」


 危険物が増える可能性は潰したいが、今は運に任せるしかない。


「どうでもアーサーさんを取り返すしかないか」


 ならば前に進めだとオリビエは歩き出した。


「こら、待て」


「だって壁沿いに歩くんだろう?」


「そうだけど、こっちだ」


 振り返るオリビエに進んでいた方向と反対側に顔を動かした。


「この先に秘密の通路があるから」


 しばらく歩き、止まった所の壁をハスラムは変なリズムで叩く。

 その音に反応して、壁に大人が一人しゃがんで入れる大きさの扉が現れて開いた。


「おかえりなさいませ」


 壁の中からこんな声と兵士が一人出てきた。


「こちらが、ご友人の方ですか?」


「ああ」


 端的に答え、オリビエを先に入れてハスラムも入った。



「この城ってグルラン帝国のものだよな」


 城の秘密通路は、襲われた時の退避通路で国家機密でもあった。

 今は同盟を結んでいるが、他国の重鎮のハスラムに使わせていいのかと、暗く細い通路を歩きながらオリビエは不安になる。

 罠とはいわないが、「秘密を知ったな!」と後で襲われないかと。

 だが、ハスラムは見張りの兵士にも使うことを認められていた。これは杞憂なのだと分かっていても。


「きっとフェリオもいると思う。あれといっしょに」


「フェリオだけがいい」


 やっかい事が起こりそうだが、まずは相棒の安否が心配になるオリビエだった。

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風の鎮魂歌 天野久美 @ryo63

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