第26話 第二部 え! ハスラムが待っていた



「随分とゆっくりだったな」


 届け先に依頼品を渡して、玄関から出ると何故かいるはずのないハスラムがいた。


「え、いや、その、どうしてオマエがここにいるの?」

 どうにか期限ギリギリで届け終え、アレの恐怖から解放されてホッとして依頼主の家の門から出ると、現れた。


「三日前からここでオーリーたちが来るのを待っていた」


 自らだったり配下を家の前で見張らせていた。


「いや、だからどうして? 仕事早く終わったんだ」


 終わらせてから集合になっていた。


「歩きながら話そう」


 通りにはハスラムの美貌に引き寄せられた女性たちが遠巻きに集まっていた。


「目立つからな」


「何が?」


 オリビエの口からボソりと出た言葉をハスラムは意味が分からないと訊き返してくる。


「ハスラムの顔」


「そうか? あまり見えないはずだけど」


 魔法使いがよく着ているローブ姿でフードを深々と被っていた。

 ローブも本来自分が着用する上位の物ではなく、一般の物を着用している。


「隠していてもチラっと見えるのだけで十分人目を惹くってこと」


「ふーん」


 自分の容貌があまり好きでないハスラムはうんざりしていた。

 中性的ではなく男らしい容姿に生まれたかったと、よく子供の頃からボヤいていた。

 なので、見た目でキャアキャといわれることは嫌で周りを無視する癖があった。


「かなり嫌味をいわれただろう」


 この街に着いた時に依頼者の元にオリビエたちのことを訊きに訪ねていた。


「ああ」


 うんざりとなるオリビエだった。


 「期日ギリギリなどヘルダーのギルドでは恥ではないか?」から始まり、「今までここまで遅かった者はいなかった」とかなりの時間、傭兵たる者の矜持までをまぜこぜになった苦情を聞かされた。


 「こっちにも事情があるんだ!」とか、「期日前に届くのが当たり前と思うな!」といい返したかったが、我慢した。

 ギルドも客商売。印象を悪くするわけにはいかない。


「ギリギリでもちゃんと期日守ったからいいよな」


 ふとあの不安事、アレが脳裏を過った。


「依頼の期日内ならばそうなるけど」


 どこか顔色が悪くなっている姿にハスラムはあることを思い出した。


「大丈夫だ」


 自分自身が安心できる言葉が欲しいのだろうと。


「でさ、オレはいいとしても、どうしてハスラムがここにいるんだ?」


 約束の場所は賢者アーサーの家のはず。


「うーん、オレも色々あった」


 ハスラムはそれまでオリビエの目を見て喋っていたが急に逸らした。 


「そっちもかなりマズいことがあったんだ?」


 このらしくない仕草によほどのことだとオリビエ察した。


「そうなる、オーリーの方もそうみたいだな」


 共に仕事をしているフェリオがいない。生真面目なフェリオが仕事を終わらせる前に抜けることなど絶対にしない。相当なことが起こっているということ。

 お互いに大きなため息が出ていた。


「あのさ」


 オリビエは今までのことを怒られるが説明しなくてはならないと覚悟を決めた時だった、背後に嫌な気配がしてる。


「かなりのことをやらかしたみたいだな」


 恐る恐る振り返るオリビエに不安は的中したと、さっきよりも深いため息をつきながらハスラムは訊いた。


「フェリオが一緒でないから、相当な事だよな」


 まだ背後は普通に人が行き交っている。


「オレ、オレは悪くない。あ、ちょっとはかもだけど……」


「何をした?」


「だから、喧嘩騒ぎを見ていたら麻袋が飛んできて、それを受け取ったら」


 背後から殺気を含んだ気配がより一層強くなった。


「ほら、走れ」


 戸惑うオリビエの手首を掴みハスラムは大通から街外れの街道に通じる門へと向かう。


「何だあれ?」


 などと誰かが叫ぶと全身黒ずくめの一団が二人の後を追ってくる。


「前の連中か? 何をやった?」


「後でちゃんというから、早くあいつらをやっつけて!」


 魔術でドッカン! を希望していた。


「無茶いうな」


 まだ街中。人がたくさんいる。


「オレにこれだけの人数を回しているんだ、フェリオの方はもっと多いはずだよ! か弱い女の子がいっしょなんだ」


 か弱いといってもあんな状況で一人行動しているので度胸はあるようだが。


「門から外に出るぞ」


 間合いを詰めらてはいけないので走るスピードを落とさずに二人はひたすら街道へ出る門に向かった。



「ここでいいか」


 門を出て街道から外れた場所をしばらく走っていると急にハスラムは止まった。


「囲まれたぞ」


 遠巻きに黒ずくめたちが姿を現していた。


「人はいないか?」


 戦いになると背中合わせになっていると、背後からハスラムの声が聞こえる。


「大きな術使うのか?」


「かなりの手練れみたいだからな」


 ハスラムも早く行きたい場所がある。ちまちまと戦うよりは効率がいいと判断していた。


「いいなオレのマネをしたら、ヘルダーにいいつけるからな」


 これから唱える大技の呪文のコピー厳禁と、破った時の罰を口にした。


「オ、オマエなぁ」


 次に魔法で問題を起こしたら罰を与えるといわれているオリビエは、唸る。


「分かったから。さっさとやれ!」


 こんな間にも間合いはずんずんと狭まっている。後十歩ほど踏み込まれたら切っ先がかする。


 ドッカーン!


 オリビエの声の最後と轟音が重なった。


「えぐれているぞ!」


 右斜め前、森の奥へと続く獣道前辺りに大穴が空いていた。囲んでいた黒ずくめもその周りにはいない。


「ほら逃げるぞ」


 またオリビエは腕を取られ森の中へ走らされた。

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