第10話 打合わせ
「天抱さん、コラボのお誘いがたくさんきてます。」
ミーティングの開始早々、パソコンのモニターに映った佐倉マネージャーがそう言った。本格的な活動を始めてから、眞緒の元にはたくさんのコラボのお誘いがやってきた。同じラブシャイン所属の先輩は以前にもコラボしたことがあるので問題ないが、他事務所や個人ライバーなどは保留にさせてもらっている。
理由は簡単、眞緒が相手のことを知らないからだ。
今までの眞緒は活動を制限していたこともあり配信に関することは全て事務所と相談していた。同事務所内でのコラボはライバー間でのやり取りでコラボを決めていたものの、それ以外は真緒の独断で決めることはできなかった。コラボを機に他のライバーと仲良くなることもあるが、眞緒にとってコラボ相手とは今のところ仕事上の付き合いという認識であり、そこから友達に発展するとは到底考えられない。
「念の為私の方でお誘いのあったライバーに関することを資料としてまとめてきました。一応お渡ししておきますので、コラボしたいと思ったら私に教えてください。相手に連絡してみますので。私のおすすめはこの方達ですかね。規模が大きい事務所なので安心できますし、トーク力でも天抱さんを助けてくれると思います。ただ少々センシティブな発言が多い方達でもあるので、清廉潔白な配信が多い天抱さんと合うかは分かりません。」
「わかりました。ありがとうございます。」
佐倉マネージャーはあくまで選別はこちらに任せてくれるらしいので、ミーティングが終わった後でじっくり見てみることにしよう。眞緒は素直にお礼を言った。
「次は大事ですよ。天抱さんの3Dモデルについてです。」
佐倉マネージャーは目を輝かせてそう話し始めた。眞緒の顔が「3D?今のLive2Dで配信は十分では?」と考えているのを察した彼女は手元の資料を見ながら説明を始める。
「0期生、1期生、そして天抱さんの同期の2期生は全員3Dモデルを持っています。それを使って周年記念ライブや誕生日ライブ、公式生放送とかに出てもらってます。半年前にデビューした3期生も近々3Dモデルデビューするつもりなんですけど、2期生の天抱さんを差し置いて先に3期生を3Dデビューさせるわけにもいかないんですよ。」
半年前にデビューした3期生はそれぞれが独特な世界観を持っており、チャンネル登録者数が天抱まおを超えている人物もいる。それでも3Dが実装されていないのは、チャンネル登録者の数に関係なくデビュー順に3Dモデルを披露することで、余計な軋轢を生まないためでもある。このまま天抱まおが3Dモデルを持たないままでいると、その後輩たちはいつまで経っても3Dデビューができないのだ。
「そういうわけなので、近日中に天抱さんの3D化記念配信のレッスンが始まります。日程は決まり次第お伝えいたしますので。」
「わかりました。」
「次で最後です。天抱さん、ホラゲ配信しましょう。」
「お疲れ様でした...」
「ちょっちょっちょ!!通話切らないでください!!話終わってませんから!!」
遠慮なく通話を切ろうとする眞緒を佐倉マネージャーは慌てて引き留める。
「天抱さん!VTuberをやっていく上でホラゲ配信は切り離せないものなんです!配信を見ている皆さんは常に絶叫を待っているんですよ!?」
「それは私の担当ではないと思うんです!私がやらなくてもいいじゃないですか!他の人もみんなやってるんですから!」
「皆さんやっているからこそ天抱さんもやった方がいいと思うんです!最初は入門とかでいいと思うので!いきなりガチホラーじゃなくていいので!」
その後数十分に渡り平行線の話を続けた眞緒は、佐倉マネージャーの提案した『最終決定権を視聴者に委ねる』という結果に渋々了承した。
ニヤリと笑みを浮かべた佐倉マネージャーに気がつかないまま。
※※※
『お話しましょう/【ラブシャイン/天抱まお】』 Amadaki Ch.天抱まお
6983人が視聴中 29分前に開始
『・・・というわけで、ホラゲ配信ってどう思いますか?』
眞緒の質問にコメント欄は一層の加速を見せた。
:やれw
:やれ
:やりなさい
:まおママホラゲやるの?
:やるしかないw
:やれ
:¥10000 ホラゲ購入代
:ホラゲやるのひよってるやついる?
:やれw
『そ、そんなにですか...じゃあやるしかないですね...』
パソコンの前で眞緒はがっくりと頭を落としながら、ホラゲを調べ始める。
『...ホラゲの題名ってどうして“呪“とか“怨“とかの文字を使うものが多いですよね。文字だけで怖いってわかるからでしょうか。でもそれは漢字がわかる人限定ですし...英語が得意ではない人は英語の題名だけ見るとホラゲだってわかりにくいですけど、英語がわかる人が一発でホラゲだってわかる単語とかってあるんですか?”ghost”とか“horror”でしょうか。』
:ほえー
:確かに
:考えたこともなかった
:安直ではあるけどそうなんじゃね?
:漢字一文字で意味がたくさんあるから、短い文字で想像しやすくするのがいいんじゃない?
:不吉な意味の漢字たくさんあるからね
『あ!このゲームとかよさそうですよ!そういう怖い漢字全く使われてないです!相手から逃げながら建物から脱出するゲームみたいですね!』
そう言って眞緒は誰もが知ってそうな青い化け物が映った画像を画面に載せた。
:あぁww
:青○は確かにホラゲだ
:大道なところやな
:配信者の登竜門
:ホラゲの初心者にはいいと思う
:ドッキリ系の怖さだよね
『逃げるだけなら私でもなんとかなる気がしますね。やりたくはないですが、次回の配信はこれでいきましょうか。...本当にやるんですよね?』
:やれw
:¥1500 悲鳴代
:やりましょうね(圧)
:やれ
:さぁて、鼓膜の治療代溜めにゃいかん
:男の子なら一度言ったことは覆さないの!
『いや私女性なんですけど!?』
こうして眞緒の次回の配信が決まったのであった。
誤解が解けずに離婚されました。でも言えませんよ、VTuberやってるなんて... ひかもり @morihika
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