カップ焼きそばの作り方
※ツイッターのハッシュタグ「#物書きのみんな自分の文体でカップ焼きそばの作り方書こうよ」のお題でつくったものです。
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透明なビニールをペリペリっと剥がして、ふたを開ける。かやくの袋も忘れずに出して、中身をカップに入れながら、お湯が沸くのを待っていた。
「よし、おわり。おなかすいたー」
先ほどまでリモート仕事をしていた彼女が、猫のように伸びをする。
「お疲れ様。あとちょっとでお湯が沸くよ」
「ありがと」
コロナの影響で、わたしたちは二人とも、リモート勤務をしている。別々の会社に所属していて、別々の仕事をしているけれど、リビングで机を二つ並べて、まるで同じ会社の同僚みたいだ。
それで、お昼もこうして一緒のタイミングで食べる。ほぼ日替わりで食事の準備を分担しているけれど、どちらかが忙しい日はもう一方が変わったりして、その辺りは臨機応変にやっている。
「あ、沸いた」
静かになったポットから、カップにお湯を入れる。
と、そのタイミングでマグカップを持った彼女がキッチンにやってきた。わたしはマグカップを受け取ると、冷蔵庫から麦茶を出して注ぐ。
「はい、どうぞ」
「ありがとー。さすが」
「まあ、いつものことだし」
ついでにわたしの分のマグカップも一緒に、テーブルに持っていってもらった。
待つこと、5分。
いい感じのタイミングで、彼女は再びキッチンに戻ってくる。
「湯切り、やるよ」
「え? あ、うん?」
「同時にやらないと、ほら。片方の麺がのびちゃうでしょ」
確かに、手は二本しかないから、一人でやると二つのカップの間に、若干のタイムラグが生まれてしまうのは、そうだけど。
「じゃ、やりましょ」
さすが、うちのアイランドキッチンは広い。二人で並んで湯切りするのに十分なスペースがあるって最高。
ただしその代わり、ローンの返済のせいでケチケチしないといけないから、こうやってお昼をカップ焼きそばで済ませる日もあるわけなんだけど。
「ねー、仕事、今日どんな感じ」
「ん、今日はもう終わった。あとは内緒で来週の分の仕事してる」
「じゃあ、もう今日は終わりにしちゃお」
お湯をシンクに捨てながら、彼女はそんな誘惑をしてくる。
今日は金曜日で、午後にミーティングとかもなくて、社長は午後出張だから帰ってこないし。確かに、サボりどきではあるけれど。
返事を悩みながら、ソースの袋を開けてカップの中へ投入する。麺に絡ませて、ぐるぐる混ぜる。
「はい、からしマヨあげる。二つ使いなよ」
「やったー」
わたしはそんなにからしマヨネーズが嫌いってわけでもないけど、別に好きってわけでもないから。こういうときは、辛いもの好きの彼女にあげたほうが、マヨも喜ぶと思うんだ。
「完成!」
「食べよ食べよ」
子供みたいに喜ぶ彼女と、お箸とカップを一つずつ持っていって、リビングに並んで座った。
「いただきますっ」
「いただきまーす!」
むしゃむしゃと勢いよく麺をかき込む彼女。本当に美味しそうに食べるなぁと感心してしまう。
「それで? どうする?」
さっきの誘惑は、どうやら本気の話みたいだ。
「そうね、とりあえず」
わたしも麺をすすりながら、答える。
「その口についたマヨネーズ、なんとかしてからにしよっか」
それを聞いた彼女はきょとん、とした顔でわたしを見つめる。
まったく、もう。にぶちんめ。
だからほっぺたをつっつきながら、教えてあげたんだ。
「わたし、辛いの、そんなに好きじゃないんだから」
空になったカップをテーブルに放置したまま、わたしがソファに寝転ぶと、すぐに追いかけてくる気配がある。
もう、さっき、ちゃんと言ったのに。
午後の仕事は、からしマヨの味で始まるみたいだった。
真夜中のコンチェルト〜百合短編集〜 霜月このは @konoha_nov
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