第394話
時は少し巻き戻り……
その日、王宮と冒険者ギルドから緊急召集を受けたのだが、俺は何方か片方にしか行く事が出来ない。
先々を考えるなら冒険者ギルドに行く方が良いが、バーンガイアの準貴族になっているのだから、この場合は優先すべきは国の方だろう。
招集を無視して、これで冒険者ギルドからギルド資格を停止させられたとしても、現状としては問題無いが、冒険者ギルドにも召集に応じれない報告くらいはした方が良いか。
そう考えて、いつもの様に俺の屋敷にやって来たナグリに、ギルドには召集に応じれない事を伝えて欲しいと頼んでおき、俺は王城へと向かう事にした。
ナグリは『了解ッスよ』と言ってはいたが、今回の招集理由は一体何なのか。
招集理由が魔獣とかと戦う様な事であれば、正直、遠慮したい。
そうしてやって来た王城だが、俺以外にも何人かの貴族が集まっていた。
この貴族共は、王都に別荘を持っていて領地が比較的近い連中だ。
コイツ等は生活するのであれば、普通に王都の方が流通も多く、領地が近いから管理も出来るから、領地に戻る理由が無いのだ。
しかし、こういった緊急の招集が起きると、必ず参加しなくてはならず、場合によっては命の危険性が高いから、王都に住み続けるというのも考え様だ。
そして、やって来た宰相により今回の緊急招集の内容が告げられたのだが、その内容に頭を抱える。
現在、王都へ向けて魔獣が接近しており、その対処の為に冒険者ギルドと連携する事、それでもどうにもならない場合、王都に籠城し、近くの領地からの援護を待つ事と、かなり悲惨な状態になっていた。
問題は、騎兵士団と魔法師団、そして冒険者ギルドの冒険者達が対処出来るのは3方向だけで、殲滅を終えた戦力が救援に向かうまで、残りの1ヵ所を此処に居る貴族達の保有戦力で耐えなければならない。
当たり前だが、保有戦力と言っても各貴族が護衛の為に連れて来ている戦力など高が知れている。
出現した魔獣によっては、全く役にも立たないだろうが、耐えるだけなら何とかなるだろう。
俺が戦えば良いとか思われそうだが、実はそれが出来ない状態になっている。
と言うのも、あのバーラードが変化し『
現状、手元に残っているのは、ガタが来始めている剣が数振りしか無く、今回の戦いを乗り切れる数では無い。
一応、あの戦闘の後に王都の武器屋や鍛冶屋で探したのだが、一度に大量の剣を購入してしまうのは他の客への迷惑にもなるので出来ないし、鍛冶屋もそれだけの数を作るとなると時間が掛かり過ぎて、仕事にならなくなる。
毎回、数本ずつ買ってはいるが、それぞれ癖が違って、それぞれで把握するのに一苦労している。
そう考えると、使い捨て前提でも全て癖に殆ど誤差が無かったあの剣達を打った、『シャナル』にいるゴゴラ達の腕は相当に良かったんだな。
さて、悩んでも仕方が無いが、どうやって剣を消費せずに乗り切るべきか……
「師匠、どうしましょうか?」
悩んでいたら、そこにやって来たのはノエルだった。
そう言えば、ノエルは
ノエルには一応、使い捨てられる剣が無くなっている事は説明してあるが、この『どうしましょう』の意味は、俺が戦えない事に対してでは無く、この場にいる他の
正直、この連中が連れて来ている戦力など、最低限の護衛として連れて来ているだけだろうから、期待するだけ無駄だろう。
下手をすれば、見た目と武具にだけ拘った『実戦経験は殆ど無く、訓練しかしていない連中』なんて事もある。
そして、こういう連中は自己顕示欲だけは人一倍強く、他の誰かが活躍したりすれば、それを妬み、僻み、蹴落とそうとする。
なのに、自らは積極的に前に出ず、後ろから美味い所だけを狙い続ける。
俺が半眼になって、あーだこーだ言い合っている連中を見ていたら、宰相の視線が俺の方を向いているのに気が付いた。
おい、まさか……
「さて、此処に居る方々で、大規模な魔獣の群れと戦った経験、若しくは兵を率いた事が有る方はいますかな?」
何時までも話が纏まらないと判断したのか、宰相がそんな事を聞くと、その場にいた連中が黙り込んだ。
マジか、コレだけいて誰も群れと戦った経験が無いのかよ。
「……時間が無い為、今回は私の独断で決めさせて頂きます。 レイヴン名誉男爵、貴方に防衛時の全権と指揮権を一任致します」
うわぁ、面倒臭ぇ……
宰相がそう言った瞬間、他の連中の視線が俺の方に向いたが、その視線はどう見ても友好的なモノではなく、明らかに敵意を含んだ物。
宰相からしてみれば、此処に居る面々で、一番戦力として確実なのが俺だった、というのは分かるが、言われる方としては非常に迷惑。
他の連中からしてみれば、『名誉貴族がしゃしゃり出て来るな!』と言う感じなんだろうが、それならお前等がやれよ、と言いたい。
「………条件がいくつかあるんだが」
「防衛に関する条件であれば問題ありません。 レイヴン名誉男爵に全権を任せます」
俺が引き受ける条件を言おうとしたら、宰相がそう遮ってきた。
まぁ無理な条件は出すつもりは無いが。
そうしていたら、遠巻きに見ていた連中の一人がこっちの方に歩いて来る。
「ボーマン様! こんな新参の若造に何が出来るというのですか! こんな若造を頼るより、騎士団の方から人を回してもらった方が確実に」
「残念ですが、王都に迫って来ている数が多過ぎる為、騎兵士団、魔法師団共に、最初から此方に人を割り振る余裕がありません」
文句を言った男に対して、宰相がそう答えると、予想していた答えと違ったのか男の顔が唖然としていた。
男の言った『騎士団から指揮出来る者を呼ぶ』と言うのは尤もな事だが、どうやら状況は想像以上に悪い様だ。
「俺が提示したい条件はそこまで難しい訳じゃない。 数名、連れて行きたい奴等がいるから、許可させろというだけだ」
「その程度でしたら問題はありません。 他には?」
「武器を少しで良いから融通して欲しい。 手持ちが枯渇気味でね」
つまり、今回だけ王城に保管してる武器を寄こせ、と言う提案なのだが、それを聞いた宰相は少し考え込んだ後、『悪用を防ぐ為、防衛線が終わったら返却して頂きたい』と言われた。
まぁ悪用するつもりはないが、後々問題にされるのは具合が悪いから、返却は了承した。
そして、連れて行きたい面々の名前を告げると、宰相の表情が若干曇った。
そう言う反応になるのは分かるが、実力を考えて十分だと判断したから、今回連れて行く事にした。
「………もし何かあれば、大問題になると理解していて、連れて行くのですね?」
「もしもの時は俺がいる。 問題は起きないだろう」
「……分かりました。 そもそも全権を一任していますので、貴方の判断を信じましょう」
「お待ちください! 我々はこんな若造に使われるなど納得出来ません!! それならば、私が指揮した方が、まだ全員が納得出来るでしょう!」
綺麗に纏まり掛けていたのに、空気を読まずにぶち壊してくれたのは、先程宰相に文句を言った男。
そして、その言った言葉に対して、周囲にいた連中も頷いている。
此処に来て、防衛戦後に他人より有利に立とうとか考えてるんだろうが、宰相は時間も無いと言っていたのに、そんな事を言ってる暇は無いだろ。
「そうかそうか、つまり、アンタが今回の防衛に関する全責任を持ってくれるって訳だ」
「な、なんだと!?」
「もし防衛に失敗して王都が襲撃されれば、トンデモない被害が出るが、その責任は指揮権を持って任された奴が取る事になる。 全権を任されるってのはそう言う事だ。 その覚悟が無いなら引っ込んでいろ!」
もういい加減面倒になり、男に向かってそう怒鳴ると同時に、少しだけ殺気をぶつけてやる。
ぶつけた殺気は本当に少しであり、戦闘時にぶつける様な殺気を10とすれば、ぶつけたのは2とかその程度だが、男はその場に白目を剥いてぶっ倒れていた。
……コイツに任せていたら、全滅していたな。
他の連中が慌てているのを尻目に、俺は武器を受け取る為に宰相の後を付いて行った。
当たり前だが、ノエルも俺の後を付いてくる。
さて、あの連中には一切期待出来ないと分かったし、どうするか考えなけりゃならなくなったが、全員集めれば問題は無いだろう。
幼女な魔女と森の熊さん ~異世界でポーション創ってのんびりスローライフがしたいのじゃが?~ 砂くじら @serozero
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