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俺が『先に注文のお手本を見せてほしい』、と黒松みやびにお願いすると、彼女はにっこり笑った。
「任せてください! ホワイトココアチップフラペチーノのshort! pepeで!」
「かしこまりました」
店員さんも笑顔で受け答えする。
「未白さん。今みやびちゃんはなんと言った?」
「ホワイトぷらぺちー、ペペ……?」
クエスチョンマークをいっぱい浮かべる俺たち約二名を振り返って、黒松みやびは笑顔で教えてくれる。
「pepeとは電子決済のことです。お兄さまはそういえば、使っているところを見たことがありませんね?」
「まあ、使っていないからな」
未白こころは心配したのか、後輩を注意した。
「黒松さん。危険なことに手を出しちゃダメだよ」
「未白先輩純粋ですものね?」
黒松みやびはまた面白がって、そんなふうに言う。
未白こころは、俺以外の人と話す時、無表情になる。
じっと、その金色の瞳で見て、言葉を返す。
「中学生の君よりは物事を多く知っているつもりだ。本をたくさん読んできたからね」
「電子書籍で簡単に読めますものね?」
「ハッキングされるかもしれない」
「ハッキングされませんよ」
「言い切れない。信用したくない」
「それで、使ってみたらハマっちゃうパターンだろうな」
未白こころは圧倒的劣勢だった。
周囲から、なんだあの金髪金眼天然女子高生は? という感じで、温かく見守られている。
本当は立場が逆なはずなのに。
本人は不本意だろう。
「ま、そういうことで、注文してみてください先輩たち」
俺と未白こころはレジ係の人を見る。
しかし、やはりレジの人は俺たちよりも年上だからか、『かわいい子たちが来た』、とカフェデビューの微笑ましさを感じているようだった。無念。
「抹茶ラテのshortでお願いします。現金で」
「抹茶プラペチーノのG」
「かしこまりました」
店員さんは笑いをこらえているようだった。
俺は未白こころを見てツッコミを入れる。
「未白さん。プラペチーノじゃなくてフラペチーノだよ」
「プ…………」
俺に指摘された瞬間、未白こころは耳まで真っ赤になった。
俺の言葉には動揺するのだ、この子は。
どれだけ、尊敬されているのだろう。
横から黒松みやびも横槍を入れた。
「未白先輩。Gはグランデって読むんですよ。体細いのに大きいサイズ、飲めるんですか?」
「問題ない。せっかく来られた記念に大きい方を頼みたかった」
俺は堪えきれずに笑ってしまった。
「ははっ、未白さんは本当に面白いな……」
「お兄さまが笑った……?」
黒松みやびは呆然として、口から魂をぷかーっ。
未白こころは涙目て怒った。
「ど、堂島! 感情を垂れ流すな! 後でへこむんだからな!」
「うん、今だけ」
「もーう……」
やがて、運ばれてきたホワイトココアチップチップフラペチーノと抹茶ラテ、抹茶プラペチーノを持って、俺たちは席を探して、しばらくの間そこで休憩することにした。
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