10話.[一緒にいるんだ]

「平太起きて」

「……これで何回目だ?」

「五回目、平太はちょっと遅い時間まで寝すぎ」


 体を起こして確認してみるとまだ六時だった。

 平日だから少し遅めなのは確かだが、それでも遅いということにはならない。


「今日から一緒にやる、朝ご飯作りも夜ご飯作りも」

「はは、洗濯は干してくれないのか?」

「それも手伝うっ、どうして平太は意地悪なの?」

「これで意地悪か、じゃあみんな意地悪だな」


 それでもやらなければならないことには変わらないから一階へ。

 洗濯物を干したり、自分と弟の弁当を作らなければならないから朝は少し大変だ。

 いい点は母が父の分を作ってくれるということだった、流石に四人分となるとな。


「はよー……」

「おはよう、泰之はいつも眠たそう」

「あんまり疲労が抜けないんだよなー……」


 可愛げのある妹が作ってくれた方が嬉しいだろうから朝ご飯作りは任せた――ら、すぐに涙目になってしまったから結局なしとなった。

 兄である俺は残念ながら直接いいことをしてやれないが、せめてと考えてしたのに上手くいかないものだ。


「……今度泰之に手伝ってもらって上手くなる」

「や、俺も上手くできないぞ」


 実際のところは分からないが逆にやらせないようにしていた。

 部活で忙しいし、集中したいだろうからこれでいい。

 これも感謝してほしくてしているわけではないので気にせず泰之には活動を楽しんでほしいところだった。


「じゃあ平太に教えてもらう、それでひとりでできるようになって『美味しい』と言ってもらえるようになりたい」

「兄貴はあんまり説明するのが上手くはないけど、それなら大丈夫だ」


 自身が分かればそれでいいから教えるのが下手でもいいと思っている。

 でも相手が影響を受けるということなら話は別だ。

 間違ったことをさも本当のことのように言ってしまうのは不味い。

 自惚れでもなんでもなく相手が詩であれば尚更のことというか……。


「ごちそうさま、今日も美味かったぜ」

「おう、あ、弁当を忘れるなよ」

「ああ、昼飯を食べないと途端に力が出なくなるからな」

「忘れたときの泰之はそれはもう酷い顔をしていたな」


 あのときは流石に見ていられなくて弁当を渡したものだ。

 その瞬間に分かりやすく顔が変わって、思わず笑ってしまったぐらい。

 詩にも見せてやりたかったが、残念ながら撮って残していないと……。


「私も放置されているときは酷い顔をしていると思う」

「放置って誰にされたんだ?」

「はぁ、平太はわざと言ってる」


 えぇ、俺かよ。

 それこそ他者からすれば嫌になるぐらい一緒にいるんだぞ。

 理由はとっとこ詩が引っ付いてくるからだが、それだというのにその発言は納得がいかなかった。

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