09話.[嫌な予感がする]
「あれには驚いたよ、帰った後もふたりで固まっていたからね」
「悪い、俺もあんなことをするとは思わなくてさ」
今日は上江に直接呼ばれて出てきていた。
皐介も何気にごろごろと寝転んでここにいるから安心する。
当たり前のように一緒にいるようになって、俺の方がいつの間にか云々と言いたいところだがな。
「それにしても詩ちゃんは変わったね、初めてのときなんてすぐにでも平太の後ろに隠れそうだったぐらいなのに」
「でも多分あれが本当の詩なんだ」
我慢しないでどんどんと出してほしいと思う。
家族が相手なら詩としてもやりやすいだろう、それでその反応を見て友達にも出していけばいいんだ。
「いいことだよ、明るい子はもっと好きだからね」
「上江も明るいからよかったな、あ、詩の真似か?」
「それは違うよ、この流れで言うわけがないでしょ」
上江ももう慣れているのか慌てるようなことはなく菓子を食べているだけだった。
昨日から食べ過ぎだ、胃もたれとかしないかとこっちの方が心配になる。
でもまあ皐介がいても本当のところを出せているというわけだからやっぱり順調に進んでいるということなんだよな。
あとはいつか告白をして、長期化できるように頑張ればいい。
「でも、ちょっと複雑かな、いや……振っておいてあれだけどさ……」
「「複雑?」」
嫌な予感がする、だからって今更なにかが変わるわけでもないが。
「……だって私のときより嬉しそうなんだもん」
「求められて嬉しいが、上江と付き合えているときだって普通に嬉しかったぞ。女子は上江さえいてくれればいいと思っていたからな」
「そうなんだ、それならまだいいかな……」
当たり前だ、嫌々付き合っていたわけではないのだからそうなるのが普通だ。
いやでもまさかいまになってこんなことを言ってくるなんてな。
きっかけを作ったのは彼女だから謝ったりもしない。
「ちょちょ、ふたりだけの世界を構築するのはやめていただきたい」
「しないよ、それに俺はもう帰るから安心してくれ」
元々長くいるつもりはなかった、呼ばれたからちょっと付き合おうと出てきただけだから。
「え、そこまでしなくてもいいんだけど……」
「邪魔したくないんだ、皐介も上江のことを気に入っているからさ」
「……分かった、だけどちゃんと相手をしてよ?」
頷いて外へ、鍵は上江の家だから上江に閉めてもらった。
もう四月になる、だからそこまで気温も低くはない。
そういうのもあっていつもなら早足になるところだが、今日はゆっくりと家まで歩いたのだった。
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