俺の男友達(約二名)が成長したらふつうに美少女だった
りんごかげき
俺の男友達(約二名)が成長したらふつうに美少女だった
「俺たちは一生の友達だっ! 高校生になったら、必ずこの裏山の『大きな木の下』で会おうぜ!」
「うんっ!」
「わかった」
それは、五年前の約束だ。
裏山と呼ばれる、小さな山。
まっすぐ伸びている『大きな木の下』で、俺たちは約束を交わした。
俺らは、それぞれ別々の小学校の生徒だった。
黒髪のモブっぽいのが俺、ルイ。
朱色の髪の活発な少年、ミコト。
白髪の大人しげな少年、ハルカゼ。
偶然、裏山で出会い、よく遊ぶようになった俺たちは、俺自身の引っ越しのため、お別れすることになった。
もともと、ミコトとハルカゼは、いつも喧嘩ばかりしていたし。この三人組は、俺がいなければうまくバランスが保てないのだ。
「高校生になったら、親父が下宿で一人暮らしをしてもいいって、言ってくれた。それまでお別れだ」
「ぼく、ルイのこと、絶対に忘れないから! 毎日ルイのこと考えて、ずっと、ずっと……、大切に想っているから!」
「あはは、ミコトはやっぱり素直だな」
「うっ、ま、まあね……」
ミコトは、女の子みたいにもじもじする。
きっと、中学生になったら、女子にモテるだろうと思った。
男子の俺から見ても可愛いやつだし。
「ルイ」
ずっと黙っていたハルカゼが、俺の瞳を見つめてきた。
そして、小さな声でいう。
「また、ね……」
ぐす。
そのまま泣いてしまった。
俺は慌てて、ハルカゼの肩をポンポンする。
「泣くなよ、ハルカゼ! 高校生になったら、帰ってくるんだからさ!」
「うん……」
「ハルカゼは、ほんと泣き虫だよなー。あはは……うえぇ……」
「もう、なんでミコトまで泣くんだよ!」
俺たち三人は、固く握手を交わして、目線を合わせて、クスクスと笑い合う。
そして、俺たちは一度、お別れすることになった。
♯
「
高校の入学式を終えた後、クラスで挨拶の時間を取ることになった。
この都時さんという女子生徒は、長い朱色の髪の毛をした、お人形みたいに可愛らしい女の子だった。
子供の時から一番伸びたのは髪の毛だろうなと思って、微笑ましく思った。
ちっちゃくて、キラキラした美少女だ。
「かわいい」「かわいいよね」「推しが決まった」「ずっとツンツンしていてほしい」
早速、女子たちがときめいている。
挨拶が続いて、やがてその子の番がやってきた。
「春風アリスです。趣味は室内ウォーキングと水分補給。夢は防音室で暮らすこと。よろしくお願いします」
まず、髪が白い。
瞳は切長で美しく、妖精みたいだ。
「かわいい」「かわいい子しかいないの?」「都時さんと、一日中喧嘩していてほしい」「つねに少し困っていてほしい。どうか幸せになって」
再び、女子たちが華やぎ始めた。
男子なんてさっきから真顔で仏像のようだ。
あまりに美しいものを見た時、男子の思考は停止するのだ。
「峯岸《みねぎし》塁《るい》です。趣味は散歩、夢は平和に生きること。よろしくお願いします」
俺の挨拶に、パチパチと拍手が起こる。
なぜか、約二名からものすごい視線を感じた。
あの、かわいすぎる都時さんと、美しすぎる春風さんからだ。
俺は、冷や汗タラタラになった。
♯
俺ことルイは、高校生になって、故郷に帰ってきた。
夢の下宿一人暮らし生活の始まりだ。
「覚えているかなー、ハルカゼとミコト」
本日、一人で裏山に来ていた。
あの時の約束を果たすためだ。
高校生になったら、『大きな木の下』で再び会おう。
けれど、ハルカゼとミコト、幼い頃に交わした約束なんて、忘れているだろうな? と思っていた。
「大切にしているの、俺だけかもしれない」
なんて思っていたら、誰かが軽やかに地面を踏む足音が聞こえてきた。
俺が振り向くと――!
「ルイ〜っ!」
ギュっ!
キラキラした燐光と共に、白髪の美少女が俺に抱きついてきた⁉︎
う、美しすぎる!
ミントみたいな甘い香り。
女の子の胸がギューっと押し当てられていて、その、ヤバイ!
「は、春風、アリスさん⁉︎」
「会いたかった、ルイ……」
春風アリス――教室の挨拶で目立ちまくっていた美少女が、涙を零しながら、抱きついたまま、ふわりと微笑みかけてくる。
「は、はるか……ハルカゼ⁉︎ 美少女じゃん!」
「る、ルイのバカ! は、恥ずかしいよ!」
ハルカゼは頬を赤く染めて、指先で俺のほっぺをツンツンしてくる。
は、いや、これはどういう――?
すると、ハルカゼは後ろを見る。
「あれ、さっきミコトもついてきていたんだけど」
「ミコト⁉︎ ミコトも来てくれたのか!」
「うん。でも、体力ないから置いてきちゃった。早くルイに会いたくて」
すると、遠くからちっちゃい人影が近づいてくる。
「あうっ」
人影は、コテっと転んでしまった。
俺たちは慌てて、ミコトに駆け寄る。
「おーい、ミコ…………都時さん⁉︎ 都時巫女さんッ⁉︎」
「……ルイ」
ブレザーのまま、地べたにペタッと座っていたのは、あのちっちゃい美少女、都時さんだった。
「ぐす……」
しおらしく泣いている。
「み、ミコト……、転んで痛かったか……?」
俺が混乱したままミコトに近づくと、ミコトの幼げな顔がこちらを向いた。
「ミコ……んっ!」
「……好き、ルイ」
ミコトのうすい唇が、俺の口に突然、重なった。
ガビーン! 凍りつくハルカゼ。
ミコトはうれしそうに笑っていた。
「ルイ……? わたし、あれからかわいくなったんだよ? こんなに髪も長くなったし。その、着ているものも、ちゃんと、女の子のだよ……? だから、ね? ルイ。また会えたら、恋人になろうと思っていたの」
「み、ミコト、巫女……、都時さ……」
「ミコトって、前みたいに呼んで……?」
「み、ミコト……、美少女になったの……⁉︎」
「ふふっ、呼んでくれた♡ あの頃とは、ちがうよ。かわいいものが、大好きだよ。ルイもかわいい」
ダメだ、混乱している。
昔、男友達だと思っていた少年二人が、どちらもじつは美少女だった……⁉︎
ミコトは、俺の頬を撫でたまま、うっとりしている。
次の時――!
「ミコト!」
ハルカゼが、涙目でミコトに怒った。
「近い、ルイから離れて!」
「わたしを置いていった、ハルカゼが悪いんじゃん」
「〜〜! あなたがその気なら、私、ルイと結婚するから!」
「「は⁉︎」」
俺とミコトの声が重なった。
ハルカゼは、俺にパッと振り返って、きれいな顔で微笑んで、甘く囁く。
「わ、私、処女だよっ! 子供の頃から、ずっとルイのこと、好きだったから。あとお金持ち!」
「しょ……⁉︎」
あの、高校一年生の男子には、刺激が強すぎます!
ミコトが地べたから立ち上がって、猛抗議してきた。
「わ、わたしも、処……そ、そういうこと、自分でもしたことないから! お金持ちとか、そんな価値観でしか人を見られないハルカゼじゃなくて、わたしと温かい家庭を作ろうよ! そ、それに、男子は小さくてかわいい女の子の方が好きでしょ?」
「ミコト! ルイはそんな趣味、持っていない。私の方がきれい!」
「わたしの方がかわいい!」
「「むーっ!」」
「あ、あの、混乱で頭が……」
「「ルイはどっちが好き⁉︎」」
ハルカゼとミコトは、プンプン怒って、ご尊顔を近づけてくる。
俺はプシューっと顔から湯気を出して、瞳をグルグルにした。
俺の男友達(約二名)が成長したらふつうに美少女だった りんごかげき @ringokageki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます