Heavy Rain④

 電気も点けずに暗い部屋のベッドで布団を頭から被り、壁を背にもたれ掛かりながらぼーっとしていると、ドアを叩く音と共に春陽が声を掛けてくる。


「入るよねね」


 しばらくして私からの返事が返ってくることはないと察したのか、黙ってドアを押し開けて入口で立ち止まる。真っ暗な部屋に何も言わずにドアを閉め、1歩もそこから動かずに話し始める。


「聞かせてねね」


「……どこまで聞いたの」


「母さんは全部見てた訳じゃないし、ねねが悪いって決め付けて見てるから。最初から全部」


「……私が中学に上がって少ししたくらい。珍しく酔ってたお父さんが部屋に来て……私の体を触ってきて、無理やり服を脱がさせられて、私は泣いて抵抗したけど口を塞がれて……」


 思い出すだけで徐々に吐き気が催して言葉が詰まり、手足が震えだして安定した呼吸も出来なくなる。


「ごめんねね。それだけでもう分かったから、もう思い出さなくて良いから」


 布団の音を立てて震える私に気付いた春陽は咄嗟に話を遮り、布団の上からぎゅっと抱きしめてきた。その感覚が嫌にあの時と重なってしまい、目に見えない恐怖で力一杯突き飛ばす。


「いやっ! 私に触らないで、ひとりにして!」


 どすんと音を鳴らしながら尻もちを着いた春陽に怒鳴ると、「ごめんねね」とだけ言って部屋から姿を消す。立ち上がっていた私は腰が抜けてベッドに座り込み、耳を塞いで目をぎゅっと瞑って布団に潜る。


 静かになってようやく聞こえた自分の大きな心音と、雨音のような耳鳴りが同時に鳴り響いて涙が溢れ出る。

 今ここで死んでしまえたらと何度も何度も何度も考えて来ては、そこまで出来る度胸も覚悟も無い私は、眠るまでひたすら目を閉じて耐える。

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NAMELESS 雨宮 祜ヰ @sanowahru

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