第11話

「なぁ結局、あの女性の正体は何だったんだ?」


 シャザーレィが沈黙したあと、2人は町まで急いで戻り、教会へと駆け込んだ。

 幸いバニラの負傷は重いものではなく、傷痕も残さず綺麗に治療することができた。


 その翌日、バニラは今回のお礼にとクレイを酒場まで誘い、こうして一緒に食卓を囲んでいる。

 クレイはきっと、疑問に思いながらも、バニラの状態を考えて今まで聞かずにいたのだろう。

 バニラは小さく首を傾げ、考えながら答える。


「……たぶん、バーサタイルの中でだけ生き続けられるレイス……みたいな存在じゃないかとは思うんだけど」


 レイスはアンデッドの一種であり、強い妄執に取り憑かれ人間を無差別に襲うという。

 命の恩人である彼女がそれと同種だと言いたくはないが、現状では他に説明のしようがないのだ。


「もうバーサタイルからも出てこないみたいだし、これ以上は調べようがないかな」


 残念ながらそれが結論になってしまう。

 もちろん今回の騒動は協会に全て伝えてあるが、どの程度信じてくれるのかは分からないし、追跡調査は期待できないだろう。


 そんな答えにでも納得したのか、クレイはそれ以上を聞くこともなくエールに手を伸ばす。

 バニラはタイミングを慎重に見計らいながら、できるだけ自然に口を開く。


「……わたし、シューター技能を勉強するつもりなんだよね」


「え? うん、いんじゃね?」


 クレイはテーブルの料理に夢中でおざなりな返事を返す。

 なんでこういうときは鈍いんだろう、とバニラは苦笑してしまう。


「だからさ、銃を使えるようになったら相性バッチリだと思わない? 前衛がクレイで、後衛がわたし」


 クレイは一瞬虚を突かれたようだったが、すぐに言葉の意味を理解し顔いっぱいに笑みを浮かべる。


「うおおっ、マジか! やっったあぁぁ!!」


 大袈裟なまでの喜びようを見せるクレイが、勢いあまってバニラに抱き着く。

 バニラは耳まで真っ赤になりながら、それでも黙って彼の背中にそっと手をまわす。


 それはマギテックにあるまじき非論理的で、根拠も何もない思い付きだったけれど。

 もしかしたら、彼女は私を導くために現れた女神様だったのかもしれない。


 バニラはふと、そう思うのだった。

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女神のバーサタイル しらは。 @badehori

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