第24話 恋懸け少女の秘密
「振ったぁぁぁぁぁ!?」
翌日。腰も抜かさんばかりにヒロマルは驚いた。
昼休みの教室にいたクラスメイト達が一斉に窓の外を見る。そこには気持ちのよい、秋晴れの青空が広がっていた。
「お前ら違う! 雨が降ったんじゃねえっ!」
慌ててツッコんだヒロマルは、しかしそのまま空気が抜けてゆく風船になってしまった。見る見るうちに元気がなくなり「シュウウウウ~」という音まで聞こえてきそうだった。
「ヒロマル、雨じゃなきゃ一体何が降ったんだ?」
「コイバナだよ。恋夢がトンでもないコイバナを振っちまった! あああああ……」
マジかよぉー、とヒロマルはうなだれたが、一緒に弁当を食べていた冬村蜜架達は箸を止めようともしない。むしろ恋夢のしたことはさも当然で、ヒロマルがショックを受けたことの方が解せぬという顔をしている。
「昨日、やたら校門のところで女子達がキャーキャー騒いでるなと思っていたけど、まさかあの美槌烈音が来てたなんて……」
「ありり、嬉しくねーし? 恋夢、ヒロっちラブだからレオ様バッサリ振ったしー。そこはザマァとか思わね?」
「いやいや何をおっしゃる涼美ヶ原さん、バッサリ斬るにはなんつーもったいない話を……うわぁぁぁ」
まるで自分が失恋したみたいにヒロマルは「なんてこった」と、頭を抱えた。
「美槌烈音って超ド級のカリスマアイドルじゃん! 日本中の女子が彼氏にしたいナンバーワンイケメンだろ? それを恋夢、お前……」
「だって恋夢の彼氏はヒロマルくんですもの」
「でも相手が相手じゃん! オレなんか所詮お試し彼氏なんだし、少しくらい考えたって……『もしかしたらレオ様こそ私の本当の運命の王子様?』とかさー」
「ぜーんぜん、ですっ!」
ケンもホロロに恋夢は顎をツンと上げる。机の上にドテッと伸びたヒロマルは「美槌烈音でもダメなのか……」と、ため息をついた。
「だって、ヒロマルくんじゃないもの」
「オレの百倍イケメンだぞ? 金持ちだぞ? ファッションもイカしてるし頭いいし歌だって上手いのに! カッコいいじゃん! いいオトコじゃん!」
「……でも、ヒロマルくんじゃないもの」
ヒロマルは「オレじゃハードル超低すぎだろ? 美槌烈音じゃハードル超高すぎだろ? 一体全体恋夢の価値基準ってどーなってんだ?」と腕組みして考え込んだ。
恋夢は困ったように笑っている。
「ううっダメだー、さっぱり分かんねぇ」
「まぁヒロマルくんじゃ恋夢ちゃんの女心なんて所詮分からないでしょ。バカの考え休むに似たり」
「誰がバカじゃい、本物河さん!」
バカッて言う奴がバカなんだぞ! と子供理論で目を剥くヒロマルへ、本物河沙遊璃は「はいはい、沙遊璃はおバカでございます」と苦笑しながら水筒から注いだお茶を差し出した。
「はい、恋夢ちゃんもどうぞ。珍しいお茶、もらったの」
「沙遊璃ちゃんありがとう。わ、凄い香り……どこのお茶なの?」
「内証」
沙遊璃は薄目で笑ったが、それに気づかない二人は勧められるまま紙コップを口につけ……
「美味しい……でもなんか……ヒロマルくん?」
「おお、いい気分だけどなんか……頭がぼうっとすんな。本物河さん、これは……?」
「大丈夫、お酒なんか入ってないわ。気分を楽にするハーブティーよ」
何のハーブなのか、飲んでしばらくするとヒロマルと恋夢の様子が明らかに変わった。酔ったような、眠そうな顔でフラフラと上半身が揺れている。クラスメイト達は何気なさを装いながら、固唾を飲んで成り行きを見守っていた。彼等はこうなることを予め知らされていたのだ。
本物河沙遊璃は素知らぬ振りで「美味しいでしょう? お代わりをどうぞ」と、空になった二つの紙コップへ琥珀色の液体を再び注ぐ。
「沙遊璃ちゃん……美味しいけど、あの、恋夢なんだか……」
「恋夢ちゃん、大丈夫だから。さぁ、ヒロマルくんも……」
「おお……ありがとう……」
陶然となった二人は言われるがまま、沙遊璃の注いだお茶を啜った。泥酔に似た状態は更に深まり、二人とも今にも倒れてしまいそうにユラユラしている。
「ヒロマルくん、恋夢ちゃん、美味しかった?」
「おお……」
「……はい」
沙遊璃の顔に笑顔が浮かんだ。一見、嫋やかな美少女の微笑みだったが、周囲の目にそれは、糸に絡めとられた獲物を見つめる毒蜘蛛の笑みにしか見えない。
「二人ともいい子ね、ふふふ……。じゃあ、今から私がいいと言うまで目を瞑っていて。安心して。大丈夫、悪いようにはしないから私の言うことを聞くのよ……さあ……」
催眠術のようだった。沙遊璃のささやきに二人は揃って頷くと瞳を閉じる。
目を細めてそれをじっと見つめる沙遊璃へ冬村蜜架が恐る恐る「本物河さん……」と、声を掛けた。
「ええ、上手くいったわ。それじゃ、この間の学級裁判で決めた通りに準備して。あまり大きな音を立てないようにね」
事前に打ち合わせていたクラスメイト達は静かに動き出した。
窓に理科室から持ち出した暗幕を掛け、扉には「写真現像用暗室として使用中。入室禁止!」と書いた紙を貼り、鍵を掛ける。
教室の中が薄暗くなるのを待って、沙遊璃は用意した燭台に青い蝋燭を一本だけ点けた。香料を含んだものらしく、甘くエキゾチックな匂いが漂い始める。燭台を二人の前に置き、手にした手帳を見ながらブツブツと呪文らしい言葉を繰り返しつぶやく。
「準備は整ったわ。時間はこの蝋燭が消えるまで。さ、こちらに集まって。あと、術が解けるから大きな声は出さないでね」
「ほ、本物河さん。これが貴女が言っていた『二人の真実を聞き出す方法』?」
「ええ。これはね、暗黒大陸アフリカに伝わる古い古い呪術なの」
「そんなものを一体どうやって……」
尋ねたクラスメイトへ振り向いた沙遊璃の笑顔は下から蝋燭の炎に照らされ、さながら魔女のようだった。
「中学生の頃、叔母様がアフリカへの旅行先で知り合った呪術師の方から本をいただいたの。翻訳するの、大変だったわ。最初は胡散臭い紛い物だなんて思ってたけど試しにいじめっ子を呪ってみたらなかなかどうして。ふふふ……」
怖じ気づいたように口を噤んだ少女は、そのいじめっ子がどうなったか聞くことが出来なかった。
「さて、これから聞き出したことは絶対に誰にも口外しないでね。ヒロマルくんも恋夢ちゃんも嘘をつけない。後ろめたいことも、恥ずかしいことも隠さずにしゃべるから」
「……」
「例えば『表向きは友達面してるけど実はあの人が大嫌い』、『万引き癖がある』、『週に何回自慰してる』……普通なら絶対言えない、隠している心の闇を覗けるの。でも覗かない限り二人の真実は分からないから。みんな覚悟してね……」
脅迫じみた宣告に震える女子達もいたが、ここまで来たらもう引き返すことは出来なかった。沙遊璃はそっけなく「じゃ、始めるわ」と、向き直る。
「恋夢ちゃん、ヒロマルくん。ゆっくり目を開けて。ゆっくりとね……」
言われるとおりに二人は目を開いたが、その瞳はどちらも虚ろで焦点が定まっていなかった。
「ではヒロマルくん。まずは貴方に聞きます」
「うん」
「恋夢ちゃんのこと、好きですか? 友達とか妹じゃなく、恋人として……」
一同は思わず息を呑んだが、ヒロマルが大きく頷いたのを見て安堵のため息をついた。……二人は相思相愛だったのだ。
「では、どうして恋夢ちゃんを本当の恋人にしてあげないの?」
「恋夢には……もっと幸せになって欲しいから」
ヒロマルは、のろのろと顔を上げて答える。
「恋夢ちゃんはヒロマルくんの恋人になりたいって、あんなにいじましく願っているのに?」
「オレなんかより恋夢をもっと幸せに出来る奴なら世の中に大勢いる。ソイツと結ばれて欲しい」
「何故、そこまで頑なにこだわるの?」
「恋夢には、辛いことや悲しいことが今までいっぱいあったから」
冬村蜜架がうなずく。思い当たることがあったのだ。
(オレなんかじゃダメなんだ。アイツはもっと幸せにならなきゃいけないんだ……)
今まで幾度かヒロマルがつぶやいていたのを彼女は知っていた。沙遊璃は今度は恋夢へ尋ねかける。
「恋夢ちゃん。貴女には辛いことや悲しいことがいっぱいありましたね。言い辛いでしょうけど……話してくれますか?」
恋夢は、悲しそうに微笑むと右の前髪をのろのろと上げた。
「恋夢の右目、左目より少し小さいでしょう?」
「ほとんど見分けはつかないけど……」
「目許が腫れて少し小さいの。だからこうして隠してます」
「腫れたのは……病気?」
「いいえ、恋夢は生まれてすぐ殴られたり蹴られたりして捨てられていたそうです。そのとき腫れた跡が残って、こんな目になっちゃったの」
クラスメイト達は思わず声を漏らした。
……それは余りにも悲しい、恋懸け少女の秘密だった。
「私『要らん子』だったんです。どんな親か知らないけど、恋夢に死んで欲しかったんでしょう」
「恋夢ちゃん……」
思わず声をあげた冬村蜜架を沙遊璃は素早く手で制する。
しかし、その手は震えていた。
「ヒロマルくん、貴方はそれを知っていたのね」
「恋夢は施設から学校に来ていた。左右の目の大きさがほんのちょっと違うくらいでバケモノなんて言われてイジメられて、いつも泣いていた。死にたいって……だからオレは、お前の兄ちゃんになってやるって恋夢に……」
クラスメイト達はようやく知った。
これほど可憐な美少女に好かれ、付き合えと周囲から散々迫られながらも「妹だから」と躊躇してずっと踏み出せなかったのは……そんな経緯で兄妹になったからだったのだ。
「恋夢をイジめた奴を片っ端からブン殴ったり、家の窓ガラスに石を投げて割ったり色々やらかしたなぁ。担任にも怒られたんだけど『恋夢をイジメたアイツには何も言わないくせにオレだと怒るのか、奴の親から金でももらってんのか!』って逆ギレしてオレもブン殴られたっけ」
ヒロマルは照れ臭そうに振り返るが、笑う者は誰もいなかった。涼美ヶ原瑠璃は「なんでぇ、ヒロっちはガキの頃から今のヒロっちそのまんまじゃねーか……」と無理やり笑いながら何度も涙を拭った。
「だけど七年前……恋夢を養女にしたいという人が施設に来たと聞いた。最初聞いたとき恋夢を守るのはオレだ! とかイキがってたから正直嫌な気がしたけど、その人たちは……」
ヒロマルの瞳から涙が零れ落ちた。
「子供が欲しいのに病気で出来ず、ずっと辛い思いをしていた御夫婦だったそうだ。子を持てない親、親に捨てられた子が、互いに欠けたものを求めあうみたいに親子になるんだって施設長のおばさんから聞いてオレ、一生分泣いた気がする。そんな人達ならきっと恋夢を実の子以上に大切にしてくれるだろう。そうか、これでいいんだ、こんなふうに恋夢を幸せにしてくれる人が、オレ以外にちゃんといるんだって気が付いて……」
冬村蜜架は思い出した。
自分の作った弁当を親が会社で自慢して恥ずかしいと話す恋夢へヒロマルが静かに「よかったな……」と言った途端、彼女が泣き出したことを……
あのやり取りと涙の裏には、こんな悲しい真実が隠されていたのだ。
「恋夢もいつか本当の恋をして、誰かと一緒になるだろう。でもそれはバカばっかりやってるオレじゃなくていい。頭がよくて、お金持ちで、いつも恋夢に優しくて、寂しい想いなんてさせないイケメンでなきゃいけないんだ」
「……だから、恋夢ちゃんが美槌烈音を振ったって聞いてあんなにショックだったのね」
「うん。でもアイツよりもっといい男なんているのかなぁ。ま、世の中は広いんだ、どっかにいるだろ。オレよりソイツでいい。人より辛くて悲しい思いをしたんだから恋夢には誰より幸せになって欲しい。好きならその娘の一番の幸せを願ってこそ、本当の男だろ? なぁ……」
「ヒロマルくん……」
聞いていたクラスメイト達の半数以上が既に泣いていた。
冬村蜜架は「そんなことも知らずに私、学級裁判なんかしてゴメンなさい」と俯いて肩を震わせた。その肩にしがみついて涼美ヶ原瑠璃も「ヒロっち、ばかやろう……テメェは最高の大ばかやろうだ……」と、大粒の涙をボロボロこぼしている。
「恋夢が引き取られる時、辛くてオレは会えなかった。そんな時、ちょうど親父の転勤があって、あの街をそのまま離れてこの緑ヶ丘へ来たんだ。さよならも言えなかったから時折思い返しては胸が痛くてな……どこかで元気にしてるだろうか、親御さんとちゃんと家族になれただろうか、彼氏くらいもう出来たかなって。そしたらさ」
泣き顔のままヒロマルは屈託なく笑った。
「この間、学級裁判なんてフザけたもんが始まってよ。綺麗になった恋夢が連れて来られて、再会出来て喜んでたら突然『恋人になって下さい』だろ? 驚くやら、嬉しいやら、困ったやら。いやはや、自分でもどうしたものやらってカンジさ。ははは……」
本物河沙遊璃は震える手でハンカチを取り出すと「ヒロマルくん、ありがとう。よく話してくれました。貴方は立派よ」と、彼の頬に伝う涙をそっと拭った。
「恋夢ちゃん」
「はい」
「貴女に、より幸せになって欲しいからヒロマルくんは自分は身を引きたいと言っています。受け入れることは出来ますか?」
「出来ません。絶対に」
ヒロマルに同情して泣いていたクラスメイト達は息を呑む。
恋夢の応えは静かだが、凛としていた。
「ヒロマルくんはイジメられていた恋夢の為に戦ってくれました。恋夢が泣いてる時はいつも傍にいてくれた。同情しても自分は泣くまいとヒロマルくんが歯を食いしばってこらえてたのを恋夢は覚えてます……クリスマスには、おかしなトナカイのコスプレで施設に来てくれました。みんなへのプレゼントってヒロマルくんのお母さんが作ってくれたホットケーキと唐揚げを山のように担いで」
「恋夢ちゃん……」
「このヘアスタイルもヒロマルくんの贈り物です。バケモノって言われていた恋夢をヒロマルくんは美容室に連れて行ってくれたの。貯めてた自分のお小遣いを全部持って……話を聞いた美容師さんは右目を隠すこんな素敵な髪型にしてくれました。恋夢は一生これがいい……」
「……」
「学校の体育祭。バケモノ扱いされた恋夢とフォークダンスで手を繋いでくれる人は誰もいませんでした。でも、ヒロマルくんが来て恋夢と踊ってくれました。繰り返し繰り返しずっと……」
「……」
「好きにならないはず、ないでしょう? ヒロマルくんは恋夢だけの、たった一人の王子様なんです。他の誰も代わりになんてなれません」
この頃には教室の中にいるほとんどが泣いていた。泣いていない者も懸命に涙をこらえている。
恋夢が何故ヒロマルをここまで一途に恋慕うのか……彼等はついに知り得たのである。
「恋夢の女の子の『初めて』は絶対にヒロマルくんに捧げたい。もし病気で心臓が必要なら命だってあげる。恋夢はヒロマルくんを愛しています。今までも、これからも、ずっとずっと……」
「恋夢ちゃん、あなたそこまで……」
うつろな目で「ヒロマルくん……ヒロマルくん……」と泣きながら繰り返す恋夢を前に、沙遊璃も思わず声を失った。
見れば、小さな蝋燭はもう燃え尽きようとしている。
「恋夢ちゃん……」
「はい」
「話してくれてありがとう。私、貴女を必ずヒロマルくんと結びつけてあげる」
か細く燃え残っていた蝋燭の灯火はついに小さな煙を残してフッと消えた。
「……」
クラス中が嗚咽とすすり泣きでいっぱいになった中、それまで虚ろだった恋夢とヒロマルの瞳の焦点が、ゆっくりと元に戻り……
「あれ?」
「え?」
ようやく気が付いた二人は、知らぬ間に自分達が泣いていたことに驚いたが、自分達の周囲では、クラスメイト達が号泣していたので更に驚いた。
二人に向かって感極まった涼美ヶ原瑠璃が思わず「ヒロっちぃぃ! 恋夢ぅぅ! お前ら、お前らよぉぉ!」と叫ぶ。二人の向こうで本物河沙遊璃が頭上で腕を交差させてバッテンを作ったのに気づいた冬村蜜架が、慌てて彼女の口を塞いだ。
そうなのである。今聞いたばかりの二人の過去は決して口外してはいけないのだ。漏れれば当人達の悲しい心の傷をえぐってしまうことになる。
「『お前らよぉ』……って何?」
「い、いや、なんでもねぇし……」
「待て待て、言いかけて『なんでもない』じゃないだろ。つーか、みんな泣いてるじゃん! 涼美ヶ原、一体何があった?」
もちろん、ヒロマルも恋夢もついさっきまで自分達が何を話したかなど知っているはずがない。
「いや、ヒロっち、そ、その……」
見回せば、抱き合って「うわぁぁぁん!」と泣いている女子達、歯を食いしばって涙をこらえている男子、顔を覆って泣いている者、うずくまって泣きじゃくっている者……泣いていないのは誰一人いない。
ヒロマルと恋夢は思わず顔を見合わせた。どう見たって、ただごとのはずがない。
「すずみん、恋夢に教えて。一体何が……」
「さ、さぁ、何があったし?」
「スットボけてないで話して下さい! 恋夢、すずみんの友達でしょ? マブダチって言ってくれたじゃない!」
「そ、そうだけど、その……」
友達だからこそ話せないのだ。涼美ヶ原瑠璃は目を逸らして口をパクパクするしかなかった。
ヒロマルも「ユウジ、なんで泣いてるんだよ! 砂原さん一体何があったの?」と周囲のクラスメイトへ手当たり次第に尋ね回る。
だが、まさか二人の過去を知って泣いていた、なんて言えるはずがない。皆、泣き顔で狼狽えたまま「その……」「あの……」と口をモゴモゴするばかり。
「なんだよ! どうしたんだよ、みんな!」
笑い事ではない雰囲気の理由を誰も話してくれないのに苛立ったヒロマルが叫び、恋夢も真剣な表情でうなずく。
このままだとマズい、一体どうやって二人を収めれば……そう思ったものの、みんな右往左往するばかりでどうしたらいいのか分からない。
何でもないと言って二人が納得するはずがなく、といってバカ正直に話す訳にもいかない。
(ど、どうしよう……)
(どうゴマかせば……)
誰も彼も途方に暮れるばかりだった。
業を煮やしたヒロマルが、途方に暮れた彼等のなかに担任が混じっているのを見つけ、「めぐ姉、先生なんだからちゃんと話してくれよ。一体何があったんだよ!」と詰め寄った。
「ああ、その……あの……あうあう」
いつも頼りにならない担任の女教師は、ここでもまったく頼りにならなかった。ヒロマルの厳しい視線を前に半泣きでオロオロするばかり。年上の女性に見えないほど情けなかった。誰か助けてと言わんばかりの視線で彼女は周囲を見回したが、助けてやりたくても誰も助けようがない。
睨みつけるヒロマルと懇願する恋夢の視線の圧に耐え切れなくなっためぐ姉は、とうとう観念したように口を開いた。
「あ、あの……実は……」
(め、めぐ姉! 言ったら駄目ーー!)
クラスメイト達が心の中で口々に制止した……そのときだった。
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