もと料理人・烈は、恋人をかばって「吸血族」となってしまいます。
それは、食事のできない、食の幸せを奪われた人生を余儀なくされるということ。
さらにかばったはずの恋人にも去られ、絶望の底にいるかと思われましたが…
彼のもとに現れた、紅子と名乗る不思議な少女。
どこか風変わりな彼女に、一杯のお茶漬けをご馳走したことが縁で、列は「料理を食べてもらう喜び」を取り戻していきます。
「食べられない料理人」と、正体不明の少女に訪れた、驚くべき結末とは。
食の幸せを、人と人との繋がりを、心ゆくまでじっくりと堪能できる作品です。
読めば必ず、とても幸せな気持ちを思い出すことでしょう。
想いのこもった数々のメニューを、列や紅子とともに存分にご賞味ください。
美味いものを食べた時、「ほーん」みたいな鼻に抜ける声を上げたことはないだろうか。作中に登場した料理の数々は、どれもそんな美味しさが漂っていた。しかし、主人公の男は全て食べることができない。口にできるものは「血」だけという吸血鬼だからだ。
そんな彼が、クラシカルなセーラー服を着た女学生を保護した。紅子と名乗る彼女は、彼の振る舞う料理に懐き、次第に距離を縮めてゆく。その過程で、彼は自分が吸血鬼であることを告白するが……紅子はなんと……。そして、その先に待ち受けていた人生の転機に、読み手は目を離せなくなる。
吸血鬼の概念を逆手に取るアイデアは、数あるバンパイア作品とは違って悲壮感が少ない。前向きに生きようとする「一族」の創意工夫と温かい「家族」の絆に、うっとりとした優しい読後感を得られるはず☆