第138話 最強論
今度こそドクター・シータは死んだか。奴ならあの巨大なイーターを内側から食いかねないが、さすがにそれはないだろう。
もしそんなことが起きれば、あのイーターがアークドラゴンの下半身を食べていて、それごとドクター・シータが捕食して、ドクター・シータは完全なるアークドラゴンの力を手に入れ、さらに海中の巨大イーターの力をも手に入れることになる。
俺はアークドラゴンには難なく勝ったが、海中の島級イーターに勝てるイメージが沸かない。
いや、考えておくべきだ。想定しておくべきだ。あのイーターと戦う必要が出てくる未来を。
戦うとしたらどう戦う?
奴は海中のイーターだ。魚みたいなもので、水中でなければ真価を発揮できないかもしれない。
逆に俺は水中では不利だ。
だったら空気鎧で超巨人化し、やつを大陸上に引き上げるか?
そうすれば案外跳ねまわることしかできないかもしれない。ただし、それはそれで大地震が起きて
とにかく、俺は魔導師の中では最強となった。
俺が真の最強の存在となるためには、あとは別種族の最強を倒して、最強の生物となるだけだ。
未開の大陸にはアークドラゴンのようなネームド・オブ・ネームド級の強いイーターがゴロゴロいるという話だが、イーター最強はおそらくあの海中イーターだろう。
最強の魔術師はマジックイーターの
これは偶然なのか分からないが、マジックイーターにはジャック、クイン、キング、エースというトランプのような名前を持つ者たちがいて、ポーカーでの強い順に高い地位にいた。
だから、そういう根拠もあって、裏ボスなど存在せずにエースがマジックイーターの中でトップであることは間違いない。
問題はマジックイーターではない魔術師だ。
たいていの魔術師はひっそりと生きているし、その中にエース・フトゥーレより強い者がいてもおかしくはない。
実際、エース・フトゥーレの最後の未来視で、俺が負けるほどの強い魔術師が存在すると言っていた。
まあ、ひっそりと暮らしているのなら、わざわざ探し出す必要もない。警戒していればいいだけだ。
そもそも、俺が最強にこだわることに大それた意味はない。
言うなれば、ゲーム感覚だ。
この世界がライトノベルの中なのか何なのか、いまだによく分からないが、この異世界に迷い込んだ俺は特殊な能力、つまり魔法を授かった。それも応用の幅が広く強い魔法を。
だったら世界最強を証明してみるのも一興、その程度の動機でしかない。
元の世界は好きではないが、いずれは帰ることになるのだろう。
だから帰る方法を探しつつ、もし自由に行き来できるのであれば、こちらの世界で暴れまくって元の世界へ逃げ込むのもありだし、こちらの世界の居心地がよくなれば、そのままこちらの世界で生きるのも悪くない。
いや、帰ったほうがいいか……。
最強の証明だの何だのと息巻いてはいるが、俺はアレには勝てないだろう。関わりたくもない。
しかし俺のせいでアレに寄生されたシャイルを残すのは気が引ける……。
いやいや、これはどうせ夢や幻のような架空の世界の話だし……。
「…………」
いや、まだ決めきれない。
俺は暗い夜空にポツンと浮かぶ
……悩むのは早いか。元の世界に帰る手段を俺はまだ見つけていない。
それに、エース・フトゥーレが視た未来の中で俺が魔術師に負けるというのなら、少なくともそのときが来るまでは、俺はこの世界に留まっているということだ。
まずはその魔術師を倒すこと、それが先決ではないか。
例の紅いアイツはおそらく、この世界の住人ではない。魔導師でも魔術師でもイーターでもない。
最強のイーターと最強の魔術師を倒せば、俺はこの世界の最強になれるのだ。
その後でアレ――紅い狂気――と戦うかどうかを決める。
戦わないにしても、シャイルだけは救ってやりたい。
「はぁ……」
俺は牙の抜けた自分に溜息を禁じえなかった。
きっと地獄を見ることになるだろう。
もっとも、それを考えるのは気が早い。
まずは負けると預言された最強の魔術師に勝たなければならないのだから。
―――――――――――――――――――――――
【あとがき】
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
第三章 《共和国編》はここまでとなります。
次話からは第四章 《最強編》で、最強のイーターや最強の魔術師と戦い、真の世界最強を決める話になります。
引き続きお楽しみください。
また、★の発生型魔法で評価をいただけると今後の活動の励みになります。
物語が面白いと思っていただけたら、ぜひ評価や応援、フォローのほどよろしくお願いいたします。
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