そして新しい日常が始まる。
早朝。
「じゃあ学校行ってくる」
「はい、いってらっしゃい!」
おれは母さんにそう告げて玄関を出る。
「あ、センパイ! おはようございます♪」
「…………」
すでに準備万端という感じでおれの家の前にいた灯梨は嬉しそうに尻尾を振っていた。
おれは無言でその脇を通って学校へと向かう。
「あ! 待ってくださいよ、センパイ!」
「なんで待たなきゃいけないんだ。おまえがついてくるのは勝手だけど……おれはおまえと登校するつもりはないからな」
「まーたそんなこと言って……ほんとツンデレなんですから」
「だーれがツンデレだ~~~?」
おれは後ろを振り返って灯梨をにらみつける。
しかし灯梨はけろりとした顔でおれを見返して、これはチャンスとばかりに話しかけてくる。
「そういえばセンパイの今日の朝ごはんはなんでした?」
「トースト」
「だけですか?」
「二枚食った」
「昼もコッペパンばっかりでよく体調不良になりませんね」
「鍛え方が違うんだよ」
「よーし、今日の昼は楽しみにしておいてくださいね! お弁当栄養たっぷりにしてきましたから……」
「なんでおれがおまえの弁当食べる前提なの……女の弁当なんか食えるか」
「そんなこと言ってー。この前は食べたじゃないですか」
「あれは仕方なく食っただけだ。勘違いするな!」
「ふふ、素直じゃないんだー」
石原はおれに詰めよってきて言った。
「お、おい、おまえそれ以上近づくな! 噛みつく気だろ!?」
「噛みませんよ!」
いいや、絶対この女はおれがいつか油断したところを狙って噛みつこうとしている。そうに決まっている。
「噛みませんから! そんなことよりせっかくこうしていっしょに登校してるんですから、もうちょっとコミュニケーション取りましょうよ!?」
「だからなんでおれが女とコミュニケーション取らんといけないんだ」
「センパイの女性恐怖症を治すためです!」
「それまだ言ってんの!? だいたい、おれは女性恐怖症じゃないって言ってるだろ!」
「だったら、なんなんですか? 昨日も私のこと急に抱きしめて……!」
「わーわー! それを大声で言うな、あのときは錯乱してたんだ!」
「じゃあセンパイのこと錯乱させれば、ワンチャンあるってことですか!?」
「おまえ、案外図太いよな」
「なにがですか?」
灯梨は顎に人差し指をあてて、きょとんとした顔でつぶやいた。
「だいたいなんでおれの家の隣に越してくるなら、あんな大げさな別れ際だったんだよ……騙された」
「そ、それに関しては昨日説明したじゃないですか! 私も両親から聞かされてなかったんです。新築ができる前に以前住んでた家の売却が決まちゃって……」
「新築引っ越しまでの間祖母の家で過ごしてたって? おまえんとこの親御さんもなんでそんな重要な話、おまえにしないんだ」
「サプライズとか……言ってました、あはは」
「さぷらいずぅ~? どういうこっちゃ……」
おれは疑わし気な視線を向ける。
「せ、センパイも私が戻ってきて嬉しいでしょう!? ですよね!」
「んなわけない」
「またまた~。そんなこと言って~……ほ、本当は私のことが~……」
灯梨は強引に押し切ろうとしてくる。
そうはいかない。ここはお互いの立場や考え方に関して、改めてはっきりと言っておく必要がある。
「はあ……どうやらわかってないらしいからもう一度はっきり言っておくな」
「は、はい……?」
灯梨はその大きな目をぱちくりさせ、おれをまっすぐと見つめた。
おれをそんな灯梨を見返して、彼女に聞こえるように大声で言った。
「おれは、おまえのことが嫌いなんじゃない」
「え…………それって……」
「おい、へんな勘違いすんな!」
灯梨が顔を真っ赤にしてなにやら先走りそうだったので、あらかじめちゃんと釘を刺してから言った。
「おれは、おまえを含めた――女が嫌いなの!!!!!」
女嫌いのおれが、後輩の変な女にストーカーされてるんだが。 犬狂い @inugurui
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます