第23話 敵も味方もノってます

 戦端は激しく、しかし、つつがなく始まった。


 『東方不敗とうほうふはい』、戦艦ドック爆破隔離によって出来た空間に魔獣達が殺到したのだ。


 そのことは炎成側も予期しており、あらかじめ戦力を配置して、その十字砲火にて彼らを迎えていた。


 現状『東方不敗とうほうふはい』各所に取り付いていた彼らの大半が、その空いた空間に移動していたのだ。


 ***


『単純ながら、こうも数がいると厄介だな』


 黒狼コクロウはうんざりを隠さずにボヤく。


 彼は『よろい』を全身展開しつつ、戦域の兵士全員に自身が知覚している情報を共有している。


 ふねの拡張知覚を借りて、周囲数万キロをつぶさにていく。


『あの馬鹿は遠慮しないし、その嫁もはしゃいでいるし、か』


 数百キロ離れた地点では赫鴉カクアが敵総大将らしき人物と周囲の被害を考えない激戦を繰り広げ、白星ハクセイは拠点防衛に奔走ならぬ奔航ほんこうしていた。


『で、こっちは魔獣共の対応と』


 黒狼コクロウは砲火から漏れた魔獣にすれ違う。


 すれ違いざま、知覚した魔獣の一番太い血管に一振り、延髄と心臓らしき部位に一突きいれる、をその漏れた数の分で数百いくらの振りと突き。


 バックステップで自陣に戻る頃には、それらの魔獣は絶命していた。


黒狼コクロウ様、あまり前に出過ぎぬように……と言っても貴方がこの場で一番強いのですが……』


 側近の従者が『よろい』を展開しておきなが、渋い声色で諫言かんげんする。


『単純に手が空いてたからな。無聊ぶりょうを慰めるには丁度いい』


 黒の『よろい』はくるくると短剣を回しながら、戦場を俯瞰していた。


 ***


『左腕はどうだ?』


『おうよ! 好調だぜ!』


『はしゃぐなよ、まだ付け替えて一ヵ月くらいだろ?』


 炎成エンセイ兵士達は新造量産『よろい』の『荒狗コウク』を纏い、『東方不敗とうほうふはい』内にて砲撃銃撃、近接戦闘を担当している。


『来たぞ』


 魔獣達は知性を持っているらしく、複腕にて自身の兄弟達の死骸を盾にし──つまりは道具を使って──砲火を抜けてくる。


 それに対応となると、


『そらそらぁ! どしたぁ⁉︎』


 勁力発振した剣にて迎撃する。


 肉盾の分、装甲という点で強化されている魔獣を『荒狗コウク』は難なく斬り伏せていく。


 肉盾の左右を一振りで斬って捨て、トドメとして一刀のもと、首を落とす。


 すると、魔獣達が結合する。


近接格闘魔獣ドラゴンだ! 気を付けろ!』


 頭部から首にかけてうろこを増やし、前脚はブレード、翼は砲門となり、そしてそもそもが巨大化した。


「graaaa……!!!!」


 砲門からは術式照射砲が放たれ、周囲を焼き尽くす。


『一人でかかるな! 複数でいけ!』


 放たれた照射による負傷者を退避させながら、炎成エンセイ軍は近接格闘魔獣ドラゴンを斬り刻まんと挑んでいく。


 次々と結合して、近接格闘魔獣ドラゴン達は炎成エンセイ軍と対峙していった。


 炎成エンセイ軍も負けじと三人一組スリーマンセルで挑む。


 一機が射撃砲撃で牽制。


 二機目が盾を構えつつ、ブレードや術式放射の余波を防ぐ。


 そして、本命の三機目が近接格闘魔獣ドラゴンに取り付く。


 鱗を増やしているとはいえ、可動域を確保する為に脆弱性を残している首を狙い勁力発振の一刀を振る。


 それを桜色の魔獣はブレードで防いできた。


 両者、拮抗きっこう


 すると、


『もう一発いっぱぁつ!!!!』


 射撃を担当していた一機が急速ブーストをかけて刀を重ねる。


 単純に二倍になった威力により、ついにブレードが切れた。


『トドメぇ!』


 盾を構えていた『荒狗コウク』が隙を逃さず首をねる。


『美味しいトコ持ってくんじゃねぇ!』


『うるせぇ! これは俺のポイントだっつうの!』


 すると、もう一体の近接格闘魔獣ドラゴンが、


 撃ち抜かれた。


『うかうかしてるな。まだまだいるんだぞ』


 空中からの支援だ。


 ***


 空のあるふねである。


 『東方不敗とうほうふはい』は五階層となっており、ワンフロアが一キロほどの高さだ。


 故に艦内に航空戦力を投入可能となっている。


『こちらいち、魔獣と交戦中!』


 そして、今回の航空戦力の担当は中央軍の量産『よろい』、『刃隼ジンジュン』達が担当していたのだった。


 楕円だえん状の飛行支援機に寝そべりながらや、立って砲火戦を繰り広げている。


 音速を幾重にも超えた機動で、魔獣と中央軍兵士がドッグファイトを繰り広げていく。


 数で勝る魔獣達はぶつからないというようなことは考えず、揉み合って墜落しようとも他が到達出来ればいい、という考えで壁のごとく迫る。


『狙わなくていい、とは気が楽だな!』


 対する中央軍兵士は、飛行支援機は魔獣に対して引き撃ちの態勢だ。


 支援機の飛行方向とは逆向きに立ち(ないし寝そべって)、火器を放っている。


飛行結合魔獣ドラゴンだ! 気をつけろ!』


 そうすると、らちがあかないと判断した魔獣達は結合して巨大な主砲と機銃を備えた形態へと姿を変えた。


 発射される。


 味方の魔獣諸共を巻き込んで照射される術式砲撃を、しかし中央軍兵士達は散開して回避。


『その命、貰い受ける!』


 内一機が接近。


 迫る主砲を飛び上がりで、飛行支援機と分離。支援機もその反動で下降し回避。


 『刃隼ジンジュン』は空中で勁力噴射を駆使して、機銃による対空防御をかいくぐった。


 前腕から勁力式刀を取り出して発振。


 逆手にて突き立てた。


『チッ……! 外したか!』


 しかし、魔獣もただではやられないとして、身をよじって急所の核を外させる運動。


 その隙にワイバーン型の魔獣が量産『よろい』に殺到する。


『ならば!』


 中央軍兵士は手にしていた刃を支えにして、ドラゴン型魔獣の上で、右腕部・両肩部火砲を構え発射。


『支援する。振り落とされるなよ』


 僚機達も旋回し、火力支援。


 次々と撃ち落とされていく魔獣たが、その壁はジリジリと迫っていた。


『離脱出来るか⁉︎』


『なら自爆して巻き込んだ方がマシだ!』


 飛行結合魔獣ドラゴンに取り付いている『よろい』は砲身が焼け付くのに構わず発射を続けている。


『故郷のアイツには愛していた、と言っといてくれ』


『……今言うか?』


『今言っとかないとタイミングがないだろ?』


 そうこう言っている間にもワイバーン型が迫ってきた。


『じゃ、そういうことだ。達者でな』


『おい、ま……!』


『待てやゴラァァァァ!!!!』


 極太の火砲一閃。


 術式勁力混合のエネルギー照射により、飛行結合魔獣ドラゴンにたかろうとした者達がぎ払われる。


『んな面白い話、それだけで辞めるなや!』


『何かと思えば炎成軍お前達か⁉︎ しかも出歯亀とはな⁉︎』


『オープン回線だからそもそも丸聞こえだっつうの! というかカッコつけんのも大概にせい!』


 そう言って飛行推進機構付き巨大携行火砲を放ったのは炎成エンセイ軍の航空部隊であった。


『なにはともあれ、直接火力支援ダイレクトカノンサポート、感謝する』


『ゼッテエ故郷のあの子に言ってやれよ?』


『……祝議は期待させてもらおう』


 取り付いていた中央軍兵士は、刺していたブレードをえぐり回して抜き、脱出ついでに一瞬最高出力にし首をねた。


 戦線は未だ活性化中だ。


 ***


 黒狼コクロウはそんな友軍達のやり取りを知覚しながら、一人戦場のあるところに立っていた。


「おやおや、将で皇太子が一人とは。危ないですよ?」


「やめなされ兄者。あえて、というヤツでしょうに」


 彼は桜色で六肢の魔獣と相対あいたいしていた。


 二匹おり、あおる片方は一本角、皮肉げにいさめるもう片方は三本角であった。


 黒が斬りかかる。


 左右二手に分かれる桜色は体毛から、金属質の外皮に変わって──『よろい』と言うべきか──となって彼を挟んだ。


「ツレないですねぇ!」


 拡散重視の術式放射。


 狼貌ろうぼうの『よろい』は短剣と運足でさばいていく。


 さばかれた光弾は壁や地面に流れた。


「うーん、『よろい』を貫くくらいはするのですが」


『……一つ問う』


 あれま、と一本角と三本角は拍子が外れる。


『お前らが白星ハクセイの子ってことでいいんだな?』


「おやおや、今更なことを聞くのですね」


「それを知ってどうするというのでしょうか?」


 ククッ、と二匹共が薄ら笑いをする。


『それならいい』


 黒狼コクロウは指で短剣を回して構え直す。


『これでアイツらを少しは分かってやれる』


 彼は回り込みながら、一本角との間合いを詰める。


 背後から三本角が横薙ぎの爪を放ってくる。


 が、兄の方にあえて受け太刀をさせて、そこを基点に跳躍と腕の力で飛び上がった。


 黒の『よろい』は一本と背中合わせになると、肘鉄ひじてつを叩き込み、体勢を崩させた。


「兄者!」


「気を抜くんじゃありません! 相手は『魔識皇剣ましきこうけん』なのですから!」


「ならば!」


 二体の魔獣は全身から桜色の粒子を撒き散らしてくる。


撹乱粒子チャフか』


 周囲数メートルの視認が難しくなるほどの術式による高密度粒子。


 その背後上段と正面下段からの尾によるぎ。


 黒狼コクロウは後ろを短剣でいなし、足元はいなしの軌道に乗って、回るように飛び上がり回避。


 着地際を狩られないように、勁力噴射で着地点をズラす。


「まだまだぁ!」


 しかし、その着地に二対四腕左右外側を撃ち抜くフック。互いの爪が当たらないように、かつ範囲の広い攻撃だ。


 それを狼貌ろうぼうの『よろい』は一刀を振り下ろす。


「ちぃ!」


「粘りますか⁉︎」


 両断、ではなく間隙かんげきが作られた。


 振り抜かれた爪の風圧は大地を数キロえぐりながらも、肝心の皇太子を仕留められていない。


 そして、その彼は気付けば左に短剣を持っている。


 先程のは切ったというより、波のような動きで爪のぎの隙間を大きくさせたのだ。


「しかし!」


 二体同時による拡散術式粒子放射。


 遥か先の内壁に、大きくあとを残させるような光弾の速射。


「……! 兄者っ!」


「ぐっぁ!」


 光弾が当たる。


 それは一本角に当たったのだ。


さばくだけでなく、撃ち返しますか……!」


『返してない。軌道を変えただけだ』


「ほとんどベクトル操作の域ではないですか」


 これだけの術式粒子下であっても、狼の眼は寸分も違わず、今もなおリアルタイムで全軍の知覚を補助している。


 加えて、剣のえは自在に形が流れ、近づくもの全てを降す。


 故に『魔の如くり、すめらぎに立つつるぎ』。


魔識皇剣ましきこうけん』であった。


「兄者……しかればこちらも……!」


「相分かりましたとも、……矢張り一筋縄ではいきませんね」

 

 彼の知覚が二匹から一匹に変わる。


 結合したのだ。


「こうすると元には戻れないのですけれど」


 四本角はそううそぶく。


『お前らが好きでやったんだろ』


「おやおや、手厳しい」


 術式放射。


 撹乱粒子チャフをまきつつ、口から高密度術式エネルギーを集中して放ってくる。


 地面の半層を裂くそれを黒狼コクロウは短剣をひるがえしてらす。


『威力は倍増か』


「それだけじゃないですよ!」


 黒の背後の知覚に桜色の巨体が周る。


 背後を取られた方は勁力噴射と自重落下を合わせた前転で叩き下ろしを回避。


 前転後地点に立っても今後は四肢による連撃が迫る。


「どうしましたか⁉︎ 守っても勝てないですよ⁉︎」


 しかし、勝ってる訳でもない。


 黒の『よろい』はひたすら自身の四倍圧の連撃をいなし、さばき、流させていった。


 短剣は左のまま、通常状態、勁力発振状態でリーチを伸ばすこともまじえながら、主の護衛を果たす。


「……信じているのですね」


『何がだ?』


 互いに一旦距離を取り、調息ちょうそく


 その合間の手慰めの会話だ。


「あの征服間男のことですよ」


『望まれない子なのに良く言う』


「ククッ、それはそうですね」


 再び互い距離を詰める。


 魔獣の左前腕ひだりまえうでの牽制が来れば、彼は弾いて大きく振らせる。


 右前腕みぎまえうで中腕なかうでが同時に来れば、一番上から軌道を変えて下ごと潰す。


 ワンセットラストとして、本命の左中腕ひだりなかうでの爪の貫手ぬきてが来れば、後転しつつ、擦過で火花が散る。


 返しに、脚が頂点に行く過程で相手の顎を撃ち抜いた。


『存外頑丈だな』


「え、ええ! 揺れるの我慢してますとも!」


『素直に倒れろ』


 そう黒狼コクロウあきれながらも、正面に構え直す。


「く、ククッ……! 音に聞こえし炎成エンセイの軍! 中々援軍がやって来ませんね!」


『お前らの数が尋常じゃないからな』


 黒の『よろい』は統括している知覚から、両軍が拮抗きっこう状態にあるのを確認する。


 火力と質で勝る炎成エンセイと中央の連合軍。


 増殖と数で勝るビサニティの魔獣軍。


 対照的な両軍の戦争は、その対照性故に長引いていく。


「良いのですか? 私達に構ってても?」


『大丈夫だろう。あの馬鹿もそれは分かってるだろうしな』


 皇太子は辺境邑へんきょうゆう次男のことも知覚しながら、返答を作る。


「はてさて、長期戦で困るのはそちらでは?」


『だろうな』


 彼は戦線がれているのも分かっていた。


 質で勝っているから、その質を維持出来なくなればこの拮抗きっこうが崩れるのは明白である。


『そんな訳だ。手早く死ね』


「おお、怖い怖い」


 彼は右に持ち替えた。


 速度は重さ。


 軽量級の『よろい』であっても、音を数百超えればエネルギーは計り知れない。


 それを桜色の魔獣は左前と中腕、全力で守る。


 重い金属音。


 すれ違い様に切り付けられたその部位の爪は大きなあとを残しながら、どうにか致命傷を防いだ。


「悪いですが、粘らせてもらいますよっ!」


 爪にまで神経の通っている生物ならではの、痛覚に耐えつつ魔獣は戦線が崩れるのを待つ。


『中々どうして、根性があるな』


 黒狼コクロウはクルクルと短剣を回しながら、関心。


 けれども、その眼には必殺の意気がこもっている。


しゃくに障るが十秒集中してやる』


 は? と桜色の魔獣は疑問を作る。


『分からないようだから言ってやる』


 一呼吸。



 魔獣の全身が粟立あわだった。


『そんな訳だお前ら、十秒踏ん張れ』


 ***


『『了解!!!!』』


 炎成エンセイと中央の軍は意気軒昂いきけんこうに、不敵に返礼した。

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