第13話 飛び出してくるんだね

 炎成エンセイはてんやわんやであった。


 飛行都市戦艦『東方不敗とうほうふはい』の出現が原因である。


 陽昇ヨウショウ国内は十年計画が前倒しされ、皇族含む貴族が対応に阿鼻叫喚。


 国外は同盟敵対問わず抗議が殺到していた。


 不幸中の幸いと言えば、『東方不敗とうほうふはい』の出現位置がビサニティに収まっていたことだった。


 そのビサニティからも声明はあるにはある。


 が、


 そんな渦中であっても艦への積み込みは続行されているのであった。


 ***


「はい、ではその通りに」


「うい、承認、次。うい、承認、次」


 『東方不敗とうほうふはい』行政区画にて。


 白星ハクセイは関係各所の連絡の報告や確認に。


 赫鴉カクアは次々と流れてくる術式書面の捺印、署名に忙しなく手を動かしていた。


「どうぞ。華茶です」


「おう、サンキュ」


 侍女服を着た白星の分身体の一つが香る器を二つサーブする。


 そこで一区切りついたのか、彼と事務担当の分身体が受け取った。


「やっぱ、忙しいな。ソッチはどうよ?」


「現場は輸送艦航行で少々手間取ってますね。浮遊・飛行技能持ちの武侠で対応させてます」


「シクってオジャンよか、安全第一で着実にってヤツだな」


「はい。あとは本日は他国からの視察団がお越しなりますね」


「おう、時間も時間だし、そろそろ移動すっか」


 二人が立つと、もう数人の侍女服姿の白星ハクセイが現れ、着替えを手伝うのであった。


 ***


「遠路はるばるお越しいただき、感謝します」


赫鴉カクア殿直々の出迎え、大事とお見受けする」


「いえ、私が現在、この艦で位が一番高いだけですので。本来の主は皇帝陛下になります」


 外交館相当の区画にて、握手を交わす赫鴉カクアと視察団代表。


 親子とも見てとれる二者の間には波はなくとも、剣呑な雰囲気が漂っていた。


「して、そちらの婦女達は?」


「ああ、秘書になります」


 礼服姿の彼の後ろに備えていた三人の同じ顔、同じ礼服。


 その服であれば、本来なら体のラインは押さえつけられているはずなのに、その上からでもはっきりと分かる線の曲がり具合の兎耳狐耳龍角長身の女性達──白星ハクセイは一礼をする。


 代表も後ろには護衛の者達がついてはいたが、揃ってサングラスで目線を隠していた。


「よく働き、よく知らせてくれます。自慢ですよ」


「……奥方であり、三禍憑みかづきと聞いているが?」


「ご心配なく。躾けてありますので」


 代表は彼女達の通り名ではなく、属性が気になっているようだった。


 けれど、にこやかに笑って応えるその夫。


 対する代表は固い顔を更に固くして、炎成エンセイの計四人を見た。


「いかがなさいました?」


「いや。ただ、少々空気がからいと感じて」


「ふむ、それは大変だ。白星ハクセイ


 と、次男が片手を上げた。


「かしこまりました」


 分身体の内、一人が投影端末を出現させて操作する。


 すると、僅かに部屋の空気が流れ出した。


「ここの大気濃度を調整しました。これで楽になると良いのですが」


「……ふむ」


 代表は少し目線を彼女達に動かし、すぐに戻して次男を見据える。


「では今後の予定を詰める、ということでいいかな?」


「はい、ですがそう慌てずに。検疫の方はいかがでしたか?」


「少々手間取ったが、普段と勝手が違うというのは承知の上だったのでな。厳しくはあったが、必要だろう」


「でしたら幸いです。そうだそこの君は?」


 赫鴉カクアは代表の護衛の一人に声をかけた。


 指名された彼は眉を一瞬ひそめるが、警戒しつつも頷き、


「自分も同意見です」


「そうか、良かった。ではもう一押し」


 彼は白星ハクセイ達とアイコンタクトを取る。


「では、こちらのインストールを」


「?」


 分身体の一人が一枚の投影端末をその護衛に投げた。


 怪訝になりながらも、術式内容を確認した彼はそれを自身の端末を出現させてインストールする。


 すると、


「gyagyagyagyaaaa!!!!」


 ずるり、と薄い膜を剥がすように背中から薄桜色の節足動物のようなモノが地面に落ちた。


 地面に叩きつけられたそれの口にあたる部分からは、尖った乱杭歯に飛び出し、眼のような部分からは、細長い糸で先端に丸い膨らみがあった。


 それは叫び声を上げながら、近くにいた護衛に飛びかかろうとすると、


「ご安心を」


 白星ハクセイの一人が既に動いていた。


 彼女は空中でそれの首にあたる部分を片手で握ると、小気味良い乾いた音を立てた折ったのだった。


「これはどういった催しでしょうかね? なんて」


 先んじて口火を切った赫鴉カクア


 突然の事態に圧倒されていた代表と、その護衛達は苦い顔をしてしまう。


 この場のイニシアチブを、誰が握っているのかがはっきりとしてしまったからだ。


「さて、代表殿。話しは脱線しますが、少々こちらの野暮用に付き合っていただける幸いです」


「……何をすれば良い?」


 視察団代表は背中に良くないものを突きつけられた感覚に冷たいものを感じながら、慎重に問う。


 この場に自分達を害するモノを持ってる可能性を察して、どう落とし所とするのかに頭を回転させていた。


「ふうむ、そうですね……バケモノにはバケモノをぶつけるのが良いかもしれません」


 わざとらしい思案顔の辺境邑へんきょうゆう次男は、その妻に視線を投げた。


白星ハクセイ


「「「かしこまりました」」」


 彼女達の一礼。


 その後に端末を出現させ、『東方不敗とうほうふはい』に接続した。


「これより潜伏魔獣掃討戦を開始します」

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