願いは芽を出し花となる

casa

願いは芽を出し花となる

青い空を飛びたいな サカナは思う

高く 広く 果てしなく続く空


青い海を泳ぎたいな 鳥は思う

深く 広く どこまでも続く海


どこまでも行ける自由が欲しいな ぼくは思う

高く 広く 深く 束縛のない世界



「あの空を飛べたら気持ちがいいんだろうな」

窓際に置かれた水槽の中で、サカナは呟く。

「ぼくはあの海に潜ってみたいな」

窓際に吊るされた鳥籠の中で、トリも呟く。

ここは海辺にある小さな家の子供部屋。

「元気になったらぼくが連れて行ってあげるよ」

白い小さなベッドの上で、小さな男の子が呟いた。

晴れた日も、雨の日も、この窓から外を見つめる。

部屋の鍵が開かなければ、彼らは外に出ることは出来ない。


「心のね、お花が咲くと願いが叶うんだって」

ある日男の子は楽しそうにサカナとトリに話しかけた。

両手で大事に抱え込む絵本に、そう書いてあったと続ける。

「どんな花なのかな。ぼくたちにもあるのかな?」

「トリくんの花は何色なんだろうね」

「深海の群青かな?サンゴのピンクかな?夕焼けのオレンジかな?あの雲みたいな真っ白のお花かな?」

彼らは想像を膨らませて色々な花を思い浮かべる。

男の子は画用紙とクレヨンを引っ張り出して、沢山の花の絵を描いていく。

寝る間を惜しんで花の絵描き続ける。

明け方には部屋いっぱいのカラフルな花が咲き乱れ、男の子はその真ん中で眠りについていた。


子供部屋の鍵が開く。そして男の子は運ばれて行った。

サカナとトリの元に戻ってきた彼は、白い花を一輪抱えている。

「これが君の心の花なの?白くて綺麗だね〜」

サカナは男の子に話しかけるが返事はない。まだ眠っているのか、小さな箱の中に横たわって1輪の白い花を胸に抱えている。

そして男の子はまた子供部屋から出て行き、戻ってくることはなかった。

「彼は外に出ることが出来たんだね!もう自由なんだね!」

少し寂しさを感じながら男の子の幸せを喜んでいると、大きな人がやって来て鳥籠の鍵を開いた。

トリは首を傾げ、そして恐る恐る外に出る。そして水槽に嘴をツッコミ、サカナを咥えた。

「ぼくが空に連れて行ってあげる」

トリはサカナを咥えたまま、窓辺から思いっきり羽ばたいた。

力の限り高く空を飛ぶ。そしてサカナの心に花が咲く。

「君の花は赤色をしているんだね」

嘴の先に花を感じながら、返事のないサカナと空を飛ぶ。

夜になってもトリは海の上を飛ぶ。あてもなくただ飛び続け、そして墜ちる。

サカナと一緒に海へ深く沈む。

「ぼくの花は・・・きっと真っ黒」

暗い海に沈むトリが最期に見たのは夜空の黒なのか、深海の黒なのか。

これがトリの求めた深くどこまでも沈む海。


彼らが求めた願いと心の花。

そして陽は昇り、空と海は色を変える。

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