家から一歩出れば、さまざまな人が行き交う。実家には家族だっている。それなのに、「僕」は誰の「何者」にもなれずにいる。どうしようもない孤独に押しつぶされそうなとき、ひとこと「ありがとう」と書いてよこしてくれた不気味な「隣人」。顔も知らない、近頃騒がれている殺人鬼かもしれないその人について、ある種の親近感と無関心をもって口をつぐみ続ける「僕」。そんなとき、最近行動をともにするようになった少女「山里千里」が殺害されたと、刑事に告げられる……。
どんでん返しに続くどんでん返しに息を呑みます。等身大の言葉で語られているため読みやすく、ミステリー作品としても楽しめる一作です。
文芸作品としても素晴らしく、読了後に考えさせられます。自分は誰かにとっての「何者」かになれているだろうか。また、「何者」かになりたいがために義務を怠ったり、後悔するようなことをしていないだろうか……など、思い巡らされます。
読んで後悔しない作品です。
文芸やミステリーが好きな方は是非。