第16話 デビルデバイサー

 アルフレッドは誰よりも早く目を覚ました。宿の外へ出て、丸い桶に水が張られているのを見て、父にもらった異国製のタオルを水の中でしゃぶしゃぶして、タオルを絞り、そのまま顔へ。

「冷たい…でも気持ちいい」

さらに水に浸して、絞り、今度は上着を脱ぎ、上半身にヒンヤリタオルをあてがえた。

「ふぃー…生き返る、村では毎朝水浴びしてたもんな〜。ふるさとに帰ったみたいでほっとするぅ…」

そのまましばらく涼んでいた。


 宿の中へ戻ると、宿主と冒険者の一団が話をしているのが聞こえてきた。

「なんでもこの辺りにはデビルデバイスを持った悪いヤツがいるっていう噂を聞いたんだが、ご主人はご存知か?」

「デビル…デバイス?はて?なんのことだか…」

「ほんとうにご主人は存じ上げないんだね?」

「ええ、誠に申し訳ないが、お役に立てず…」

「ならいいんだ…」

それだけ聞き終わると一団は宿を出た。

「デビルデバイスってなんのことだろう?あとでデクスターに聞いてみよう」


 朝日が昇ってちょうど真上にきた時刻、アルフレッドたちは宿を後にした。

アルフレッドは疑問をデクスターにぶつけた。

「ねぇデクスター」

「ん?」

「デビルデバイスって知ってる?」

「デビル…デバイス??知らないな〜」

『デビルデバイス』というワードにアーサーは心当たりがあるかもしれないと口を開いた。

「デビルデバイスっていうのは、本来、悪魔を増やすために神がもたらした宝物(ほうもつ)とされています。」

「へぇー、詳しいな〜アーサー」

「僕は一応テンペスター家の出身ですから…ねっ」

「それはそうだけど、、。」

「どうしてテンペスター家はそこまで詳しいんだ??ここは謂わば外国だぞ。」

「テンペスター家は昔から用心棒稼業の副業をしていたんです、仕事柄…武器や武具、そういう強力なアイテムには鼻が効くんですよ」

デクスターがふたりの話に切り込んできた。

「さすが!名門テンペスター家だ」

俺もテンペスター家の生まれならよかったのにな〜というような、何かにあやかりたいという態度を見せてくるデクスターだ。

「それで…、いきなりデビルデバイスの話をするのには何か訳があるのか?」

アルフレッドは首を傾げながら答えた。

「別に、大した話ではないんだ。ただ、宿主と冒険者の一団が話をしていたんだ。この辺りにはデビルデバイス持った悪いヤツがいるって…」

何かおかしいことでもあるのか、アーサーはクスクスと笑いをこぼしながら言った。

「デビルデバイス持った悪い人なんて…存在しないと思いますよ。現に、デバイスを持っているデバイサーだとしたら、はるか昔に悪魔にかわっていると思いますし、そうでなくてもほぼ人間ではないので、『デビルデバイスを持った悪いヤツ』という表現は通用しませんよ…。」

「悪魔に変わる?」表情が暗くなるアルフレッド。

「ええ、デビルデバイスというのは、本来、封印されているはずの宝物ですよ。それが世に放出されていること自体が、大問題ですよ。いったい誰がこんなことを…」

「せっかくだから行こうか、アーサー」

行こうと切り出したアルフレッドを、牽制するようにデクスターはアーサーの肩に手を置き、アーサーに自分の意見に乗るように耳打ちした。

「アーサー、俺たちみたいな絶対的弱者がそんな死地にわざわざ足を運んでダメージを負うことないだろう…なっ??」

「それは…そうですが…、、」

「だろう、決まりだ。そんな物騒な…なんだっけ?デビルナンチャラのところになんか、行かないからな」


そんなこんなでデクスターはアーサーを引き入れて、断固行かないつもりのようだ。デクスターの言い分をひたすらに聞いていたアルフレッドは段々と意識が遠のいていく感覚に襲われていた。

「……視界が、ぼやけて…」と、つぶやくや否や、全身の力が抜けたように身体を硬直させたまま地面へとすとーーんと倒れた。まるでボウリングのピンのようにだ。アーサーとデクスターが駆け寄る。

「アルフレッドさん、アルフレッドさん」

「おい!小僧、しっかりしろ!おい。」

「ダメだな、こりゃ…。」

「朝食のメニューに何か危険物が入っていたのかもしれません。」

「バカ言え、オレらも食べたんだ、それならオレらも何か起きるはずだろ?これは…まさか、アイツなのか?」


まさか…、信じられないというような様子でふたりは顔を見合わせたまま、「無いな」と口を揃えて言った。

「何かの弾みで気絶して、アイツが出てくることはあったが…」

「まさか…自らアルフレッドさんを眠らせて出てきますかね?ありえませんよ!冗談じゃありません、そんなことを簡単に起こせるなら、今後アルフレッドさんの立場はどうなるんです!」


ふたりの最悪の想定は見事に的中してしまった。


「デビルデバイサーに会わないなど、この私が断じて許さぬ!」

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