&α 光の気配

 声。

 声が聞こえる。

 光。

 光を感じる。

 真っ暗闇なのに。

 たしかに、そこに、光がある。


「う。いてて」


 擦り傷が、どうやら身体にたくさん。致命的なものはひとつもない。単純に切っただけ。


「よいしょ」


 声のする方向に。

 光の気配が、差す方向に。

 手を伸ばした。

 暖かい。

 何かに、ふれる。

 彼の手だと、なんとなく、思った。


「聞こえるか」


 彼の声。

 彼。


「え。うそ」


 目を開けた。


「あっうぎゃぁぁ。まぶしいいい」


 しまった。目を開けちゃった。何も見えない。


「お、おい」


「大丈夫大丈夫。ちょっとしたら慣れるから。ここどこ。わたしどうなった。あなたは」


『任務完了だ。戻ってこさせるのに、彼の協力を得た』


「てことは」


 本当に、彼か。

 この手の暖かさは。

 ああ。

 目を開けたい。

 彼を見たい。


「目を開けちゃだめだ」


「ちょっとだけ。大丈夫。大丈夫だから」


「うそだな」


 なんで分かるの。


「声で分かる。まだ、だめだ。まぶしくなるから。大丈夫。ここにいるから」


 手が、繋がれる。

 彼の体温。感じる。

 戻ってきた。

 この街に。彼のところに。


「といれ」


「え?」


「トイレいきたい」


 安心したら、トイレいきたくなった。


「あっ待って手を離さないで」


「トイレまでだぞ?」


「うん。連れてって。トイレの前まで」


 離したくない。ずっと、彼の隣に。


「ああ」


 トイレの気配。

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光の気配 春嵐 @aiot3110

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