第39話 私が私であるために...... (最終話)

 戦闘隊の訓練場にリゼットと2人で向かうと、何事も無かったかのように、リゼットを隣に侍らせた隊長。

 リゼットも今まで通り、隊長と一緒にいられて嬉しそうな様子。

 いつもの見慣れた構図で良かった~!

 

「今日も、ティアナは、射撃の訓練だ! 昨日は、結局クリア出来なかったからな」


 えっ、昨日の今日で!

 まだ自信が無いし、かすり傷以上のものを負わせたら、エリックに対して、申し訳無い!


「は~っ! また、ターゲットは僕ですかね?」


 溜め息混じりのエリック。

 気持ちは分からないでもない、私だって、こんなに不安の塊状態だもん!


「いや、今度は、俺を狙ってみろ!」


「えっ、隊長を!」


 エリックにこれ以上、怪我をさせたくないから安心したけど......

 どうして、隊長が自ら......?


「リゼット離れてくれ。まずは上衣の右裾からだ」


 真面目に、隊長を狙うの......?


 ううん、狙うのは、上衣の裾なんだけど......

 隊長から離れながら、リゼットも不安そう。


「私、昨日の射撃で外したから、何だか怖くて、狙い撃ち出来る自信無いです!」


「甘えるな! お前は射撃の腕を買われた戦闘隊なんだ!」


 隊長の怒鳴り声が響いて、私も委縮したけど、グループの皆もピリピリしながら、隊長の方に視線が集中していた。


「でも、もし外れたら、今度は隊長に怪我をさせてしまいます!」


「そんな事は承知の上だ! 俺は、ティアナの腕を信じている!」


 隊長の真っ直ぐな目を向けらけて、もうこれ以上は言い逃れなんて出来ないと覚悟を決めた!


「分かりました! 隊長、覚悟して下さい!」


 深呼吸して、隊長の上衣の右裾に狙いを定めた。


 大丈夫!

隊長も信じてくれている!

 私は出来る!


「バン!」


 しっかりと右裾のスレスレ部分に穴が開いた。


「次は動くから、お前の良いタイミングで左裾を狙って撃て」


 動いている隊長の上衣の左裾を狙って......


「バン!」


 上手くクリア出来た!

 昨日だって、ここまでは楽勝だったけど......


「最後は、昨日狙い損ねた左のブーツとの境目内側だ」


 隊長は、走り出した。


 そんな~!

 ブーツとの境目内側、昨日、失敗したやつ......


 しかも、その速度で走っているのに、そんな細かい場所を狙うなんて、無理に決まってる!

 今度は、エリックのようなかすり傷で済ませられないかも知れない。


「隊長、動きが速過ぎて狙えません!」


「いや、俊敏な獲物を狙う時は、これ以上の速度だ! 相手の動きも予測して撃て!」

 

 動きを予測、そんな事、私に出来るわけない!


「無理です!」


「いや、ティアナなら出来る!」


 隊長は引いてくれない......


 もうこれは、応じるしかない。

 隊長の走るスピードと弾のスピードを考えないと......


「バン!」


 撃とうとする瞬間、隊長の動きが実際には速いままなのに、なぜか、その時の私の目にはスローモーション化して見えた!


 弾は、ちゃんと左のブーツの境目付近に当たっていた。


 私、命中させられたんだ!!


「隊長、怪我は?」


 グループ全員が隊長の元に集った。


「俺が、怪我なんかするわけ無いだろ! ティアナの射撃は百発百中なんだから!」


 怖れをやっと克服出来て、気持ちが急に緩んだのと同時に、何だか、涙腺まで緩んでしまったみたい......


「あ~あ、隊長、ティアナを泣かせましたね!」

 

 エリックが隊長をからかう。

 だって、命張ってとまでは行かなくても、相当の覚悟で臨んでくれた隊長のおかげで、私は、自信を取り戻せたんだもの!

 泣けて来たって、そんなの、おかしくないと思う!


「おめでとう、ティアナ! 良かったね!」


 リゼットの目にも涙が浮かんでいる。


 私とはきっと、別の理由だよね。

 隊長が無傷で良かったっていう。

 それでも、そう言われて嬉しいんだ、私!


「これからもこの調子で頼むな!」


 隊長がバシッと背中を叩いて来た。

 そして、また定位置であるリゼットの横へ。

 

「今日は、僕らの部屋でお祝いの乾杯をしようか、ティアナ?」


 エリックが誘って来た。


「結構です! リゼットと2人でしますので!」


「えっ? 私は、エリック達の部屋に行ってみたいわ!」


 リゼットがそんな事を言うなんて、意外!

 相手は隊長じゃなくて、エリックなのに......


「何だよ~、楽しそうだな! 俺も加えろよ!」


 隊長まで入って来た。

 リゼット、嬉しそう!

 もしかして、こうなる流れを予測出来ていたのかな?


「って事で、ティアナも来るだろ?」


 アーロンが1度は断った私も、当然のように人数にカウントして来た。


「みんな行くなら......仕方ないから、そうします」


 少し渋って言っておいたけど、本当は、けっこう楽しみだったりして!


 まだグループに加わって日は浅いけど、私、このメンバー達の事が、いつの間にか好きになっている!

 男女間の恋愛感情とか、そういうのとは別のものかも知れないし、こっちの人達はこの程度の感情でも、ひょっとして交際とかするのかな......?


 隊長、エリック、アーロン、3人とも個性違うけど、それぞれの個性も含めて、皆の事が好きなんだと思う。

 

 この先、この中の特定の誰かともっと仲良くなる事も有るのかも知れないし、このまま、この人達とは平行線のままかも知れないけど、そんな事はもう別にいいの!


 不安な気持ちのまま、こっちの居住区に来てたけど、今まで向こうで過ごした15年間の密度が希薄に感じられるくらい、今が色々有り過ぎて、毎日グッタリする事の連続なんだけど......


 でも、私、そんな今が楽しいって、胸を張って言える!


 私がどこかの星からの転生者だったとしたら、5年経っても、このまま何も思い出す事なく、ここで一生を終える事になる。


 でも、もしも、これから先の5年間で前世を思い出して、元居た居住区に戻る権利を得られたとしても......

 その時の私は、ここにいる事を選ぶのかも知れない。


 そうなると、もう家族や友人達とは二度と会えなくなってしまう!

 それは、切ない事だけど......


 それくらい、ホントに今が楽しくて、私を囲む人達が大好きなの!


 家族や友人を見捨てたみたいで薄情に思われそうだけど、実は、ここに残って、やってみたい事が出来たの!

 

 元居た居住区では、こっちの居住区の情報は、ほとんど分かってない。

 だから、これからも、私みたいに不安に駆られながら親兄弟や友人達と別れて来る入植者達も多いと思うの。

 そういう新規入植者達の不安を取り除いてあげたい!


 残された家族達には、心配しなくて大丈夫、ちゃんと楽しく過ごしているって伝えたい!


 そして、この隔てられた居住区で、私達が、そんな凶暴でも野蛮でも無い事を元居た居住区の人達に、しっかりと認識してもらうの!


 いつか私達が自由に、元居た居住区と交流出来る事を目指すの!


 その為に、私は、ここに残る!

 

 この大好きな人達と一緒に、それを目指して実現して行けたなら、こんな幸せで、やり甲斐が有る事って無いと思っているから!



                【 完 】

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どこかの星☆からの転生組とは...... ゆりえる @yurieru

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